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ドラゴンパペット01  作者: 凍結・滑夜
1-A 召喚
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巨大甲冑日より(前編)

 格納庫の中では忙しく作業員たちが走り回っていた。

 祐一がバルコニーの上に上がると、見知らぬ男が待っていた。

「やあ」

「誰?」

 背丈は祐一と同じぐらい。金色の髪をオールバックにして後ろで縛っている。

 まずもって初対面だろう。

 この場とは無関係の乱入者という事はないと思うが。

 祐一がじろじろと観察していると、男は敬礼する。

「僕は第二機甲部隊、副部隊長。オーベル・フィラデスだ」

 つまりは、ブレアの部下だ。

 祐一の後から上がってきたフィリアはオーベルを見て挨拶している。顔見知りらしい。

「ブレアは?」

「彼女は別の用事があってね。とりあえず、今日は僕が君を支援する事になる」

「支援?」 

 祐一が聞くと、オーベルは頷く。

「これから大勢の前でお披露目と行くわけだからね。堂々と行こうじゃないか」

「大勢? って、どのぐらいだよ?」

「三十人ぐらいかな。……意外と集まったらしいんだよね、昨日の今日で。みんな、これがコケる所を期待して待ってたんだろう」

 そう言って、オーベルは巨大甲冑を見やる。

 祐一はため息をついた。

「酷いなそれ」

「だって君、まだ歩かせた事もないんだろう? 信頼されるわけないじゃないか」

 全くもってその通りだった。

「要するに、みんな俺が失敗する所を見に来たってのか……。大丈夫かな?」

 そんな状況で、本当に失敗してしまうわけには行かない。

 だが、オーベルはあいまいな笑顔を浮かべる。

「さあ? 隊長が大丈夫って言ってたし、大丈夫なんじゃないかな」

「そんな無責任な」

 自分の事ではないと思って、気楽そうだった。

「それじゃ、さっそく乗り込もうか。フィリアさん、着替えはどこに」

「これです」

 フィリアが待ってましたとばかりに、戸棚からパンツを出してくる。

 祐一は観念して、着替えた。


 また板を渡って首を回り込んで。首筋のハッチを開ける。

 そこでオーベルが言う。

「ああそうだ。大した事ではないけれど。甲冑を動かす時の心構えのような物を、レクチャーしておこう」

「心構え……」

 あまり期待せずに聞く事にする。正直に言うと、技術論的な物を聞かせて欲しかった。

 オーベルは右手を出し、三本の指を立てた。

「大事な事は、三つある」

「……三つ?」

「一つ目、歩く時は足元に気をつける事。何か変な物を踏んづけたり、理由もなく建物に近づいたりするとろくな事にならない」

 巨大甲冑は、人間の五、六倍はある巨体だ。些細な動作が、人間サイズでは大事を引き起こしかねない。

「人を踏んだり、物を壊したりしなきゃいいって事か?」

「そんな所だね」

 わりと普通の事だ。

「二つ目は?」

「絶対に転ばない事」

 オーベルは真剣な顔で言う。

「物を下敷きにした場合はもちろん。何もない所で転ぶのも困る。そこの地面が凹んだりするから。それは、次に別の巨大甲冑が歩く時に転ぶ原因にもなる」

 悪循環、というやつだ。終いには、そこら中の地面がボコボコになってしまうだろう。

「そして三つ目は、剣を振り回す時、絶対に手から離さない事。絶対にだ」

 剣道において、竹刀を投げるのは反則だが……。

「やっぱり危ないのか?」

「手から剣を離したら、真下に落ちるか、勢いのままどこかに飛んでいくか……。そこに人がいたりしたら、真っ二つだからね」

「なるほど」

 三つを総じて言うなら、とにかく事故を起こすなと言う事だ。偉い人が見に来ているのだから当然とも言える。

 逆に言えば、事故さえなければ言い訳は立つという事か。


 祐一はコクピットの中に入ってハッチを閉じる。

 起動自体は、昨夜と同じく一瞬だった。

 どういう仕組みか知らないが、格納庫の中の光景が手に取るように解るようになる。

 オーベルはバルコニーにもどって板を外し、拡声器を声を掛けてくる。

『どうだい? 見えてるかな?』

「ああ、ばっちりだ」

『それじゃ、右腕から行こう……ロックは外してある。まずは手を開いたり閉じたりしてみてくれ』

 オーベルからの指示に従って、右手に集中してみる。

 一瞬、痺れた様な感覚の消失があった後、感覚が戻ってくる。

 いや、戻った来た感じは、自分の手より重めだった。

 たぶんうまく行っていると思って、手を開いたり閉じたりしてみる。

『すごいな。本当に昨日初めて乗ったのかい? 次は左手もやってみよう』

 同じような動作を繰り返す。

 肘、肩、足、膝、腰……体のパーツ一つ一つを確かめるように少しずつ動かしていく。

 全ての点検が終わった所で、天井から巨大甲冑を吊り上げていた鎖が外された。

『よし、いい感じだ。今度は歩いてみよう。格納庫から出すぞ』

 オーベルは言うが、前はバルコニーのある壁だ。

「扉とかないのか?」

『出口は後ろだ。後ろ歩きでやってくれ』

 いきなり難易度の高い事を言う。

「足元、見えないぞ。誰もいないよな?」

『待て、作業員が一人……よし、一歩ずつだぞ』

 祐一は左足を後ろに出した。全身がグラグラ揺れてバランスを崩しそうになりながらも、なんとか倒れずに踏みとどまる。

 ズガガガ、と何かが壊れるような音がした。

「……今、何かやばそうな音がしなかったか?」

『地面が削れたね。もう少し丁寧に扱ってくれ』

「無茶言うなって……」

 右だとか左だとか旗を振られて指示されながら、そろそろと後ろ歩きを続けて、五分ほどかけてどうにか格納庫の外へと出た。


 外はいい天気だ。

 嫌味なほどの雲ひとつない青空が、広がっている。

「絶好の巨大甲冑日よりですね」

 フィリアがわけの解らない事をオーベルに言っているのが聞こえる。

 祐一は地面を削らないよう気をつけながら、その場で回れ右をした。

 広場。

 直径数十メートルほどの円形で、あちこちに雛壇のような観客席が設置されている。

 観客席には、カラフルなローブを羽織った老人達が集まっている。

 赤、オレンジ、黄色、緑、青、藍……。


 その中で、オレンジ色のローブを着た老人が立ち上がり、拡声器を使う。

『えー、本日はお忙しい中、お集まりいただきありがとうございます』

 祐一はその男を見つめる。ここはアロドが挨拶するべき場所ではないかと思うのだが……

 あの男は、この甲冑とはどういう関係にあるのだろう?

『我が騎士団が邪竜ヘルミータを討伐してから早二ヶ月が過ぎました。ヘルミータの討伐に、我々は大きな犠牲を払ったのですが。ようやくその報酬が戻ってきたと言うわけで……』

 どうやら、ドラゴンと戦う巨大甲冑を管理する立場の人間らしい。

 つまり、ブレアやオーベルのさらに上にいる人、という事になる。

 現代日本で言うと、防衛庁長官みたいなものなのだろうか?

『ヘルミータ討伐成功の暁には、それを材料にした新たな甲冑の製作が期待されたわけです。魔道士団による作業も順調に進んでいたのですよ、一ヶ月前までは……。まったく、完成しないのではないかとヤキモキするばかりの日々でした』

 オレンジは嫌みったらしい言葉を続ける。

 祐一は、なんとなく仕組みがわかった。

(……あー、なるほど。こいつらも一枚岩じゃないのか)

 そういえば、アロドも元老院がどうこう言っていたが、成果を上げないとペナルティーを受けたりするのかもしれない。

『二ヶ月ですからね。ぜひとも、我々の期待に応えるような物が出来上がっていると思いたいものです』

 しかもあのオレンジ、なんの遠慮もなく、ハードルを上げやがった。

『残念な事は、あれを動かせる操縦者が、この国にはいなかったという事です。動かせない竜骨機関など、作る意味がないわけでして……』

 それはたぶん、自分で動かしたかった、あるいは自分の知り合いに乗りたがっている奴がいた、ぐらいの意味だったのかもしれないが。

 祐一はなんとなくイラッと来た。そうでなくても、慣れないロボに乗らされて、それなのに立ちっぱなしで朝礼みたいな長話を聞かされるという、滅茶苦茶なシチュエーションにうんざりしていたのだ。

 左足を静かに上げると半歩前に踏み出す。左腕をやや前にだし、右手を腰の辺りに構えた。

『……ああっ?』

 オレンジが驚いているが無視。

 左足から踏み出し、右足がそれに続く。すり足で――すべるようにとは行かなかったが――ずずず、と移動する。

 巨大だからと舐めていたが、意外と速く動けるようだ。

『な、何だねその動きは……新型のはそういう動きをするのかね?』

 足元で、やたら土や小石がはねているようなので、観客席には近づかづ、適当な所で止まった。

「細かいことはよく解らんが、操縦者は異国の武術を習得しておるらしい。その特有の動きだろう」

 紫ローブの男……遠くてよく見えないがたぶんアロドが、そう言っている。

「大丈夫なのかね? そんな奴に甲冑を任せて」

「ある程度覚えがあるというのは、悪い事ではないと思うが」


『そういうわけで、模擬戦を開始したいと思います』

 ドシドシと足音を立てて、もう一体の巨大甲冑がやってくる。

 相手の甲冑は、祐一が乗っている物より一回り大きいようだ。

 両手に持つのは巨大な剣、長さは八メートル近くあり、刃渡りも六メートルほど。

(あの剣、刃がない? 鈍器として扱う物なのか?)

 切れ味云々以前の問題だ。これほど巨大な剣を、ちゃんと切断できるように作るのは無理だったのかもしれない。

 相手の甲冑は、剣の一本を祐一の前につきたてると、数歩後ろに下がった。

 祐一はその剣を拾う。

 絶対に落とさぬように、としつこく言われたのを思い出し、何度か握りなおして感触を確かめる。

 相手の甲冑は剣を斜めに構えたまま、立っている。

 祐一の隙をうかがっているのか、あるいは祐一が打ち込んでくるのを待っているのか。

「どっからでもかかってこい……」


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