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ドラゴンパペット01  作者: 凍結・滑夜
1-A 召喚
2/27

アッテアキキ、イミク、ウオテデモ!(蘇生)


 気がついた時、祐一は灰色の空間を漂っていた。

 上も下も無い。入り口も出口もない。光も影もない。動いているのか止まっているのかも解らない。

 ただ、灰色なだけの空間。


(何が、どうなってるんだ?)


 わけが解らない。

 覚えている限りでは、バスに乗っていて、何か大きな衝撃があって……それで……


(あれは、交通事故? その後、どうなったんだっけ?)


 記憶が途切れている。無事だとしてもそうでないとしても、続きがあっていいはずだ。

 それがないという事は……


(……まさか、俺は、死んだのか?)


 祐一は慌てて辺りを見回すが、何の手がかりもない。

 変わりに別の物を見つけた。

 自分の近くに誰かがいた。空中に浮いている。

 少女だ。一糸まとわぬ姿で|(というか、祐一自身の服も消えていた)赤子のように体を丸め、目を閉じている。

 顔に見覚えがあった。

 佐原だ。

「おい、佐原! 佐原だよな?」

 声を掛けると少女|(やっぱり佐原だった)は目を開ける。

「ここ、どこ……? なんで時田君、服を……! きゃ?」

 佐原は自分も服を着ていない事に気づいたのか、自分の体を抱きしめ、祐一から視線を逸らす。

 祐一も急に恥ずかしくなってきて、股間を隠した。

 二人はしばらく黙り込んでいたが、埒が明かないと思ったか、佐原が口を開く。

「えっと、ここ、なんなの?」

「……」

 解っていないのは祐一も同じだった。

 だが、佐原の前でパニックに陥るような愚は避けたかった。

 認めたくない事実を一つ、受け入れる。

「俺にも解らん。ただ……」

「ただ?」

「……交通事故にあったのは、覚えているよな?」

 祐一の言葉に、佐原はこくりと頷き、それから顔を青ざめさせる。

「時田君……あの後、どうなったのか知ってる?」

「いや、」

「私は、ちょっとだけ覚えてる」

 佐原は恐る恐るといった様子で言葉をつむぐ。

「何かがぶつかって投げ出された時、時田君に庇われて、床に倒れて、それで……天井が落ちてきたの」

「天井? バスの天井がか?」

「うん……何かに押しつぶされるみたいに。それで……」

「俺達も押しつぶされた?」

「……たぶん」

 二人は黙ったままお互いを見つめあう。

「まさか、私達、死んじゃったの?」

「……そうかも知れない」

 そしてここは、死後の世界なのではないか。

 そんな恐怖が二人を支配したのは、つかの間の事だった。


 何の前触れもなく、佐原が離れていく。

「え? 何? ……あれ?」

 後ろからなにかに引っ張られていくように。

「佐原? どうした? どこに行くんだ?」

「解らない、何かに引っ張られて、……嘘、助けて!」

 体を隠していた手を広げ、ばたばたさせているが、何にもならない。ここは謎空間であって、水の中ではないのだ。

「どうしよう、これどこに行くの?」

「なんでもいい、俺に掴まれ!」

 祐一は手を伸ばす。佐原もそれにあわせて手を伸ばしてくるが……

 しかし、今度は祐一が後ろから何かに引っ張られた。

 わけが解らないまま、二人は引き離されていく。

「時田君、時田君!」

「佐原ぁーっ!」


**


「うう……佐原……」

 祐一はうめきながら目を開けた。

 最初に視界に入ったのは、石造りの黒ずんだ壁と、極彩色のステンドグラスだった。

(また変な所に……?)

 湿った土のにおいが鼻につく。

 背中が冷たい。

 どうやら、石の台のような所に寝かされているらしい(そして祐一は、相変わらず服を着せられていないようだ)

 その台を取り囲むように立つ、六人の人影。皆、紫色のローブを着ている。

「なんだここ……」

 十メートル四方あるかないかの室内。ランプの炎が揺れている。

 全身に酷い違和感があったが、なんとか起き上がった。

 周囲にいる紫ローブの男達がどよめきを上げる。

「おい、ここはどこだ?」

 ごく当たり前の質問をしたつもりが、返ってきた答えはめちゃくちゃだった。


「Aduokieseiad-Ozattay!」

「Aduokies-Nakuoys!」

「Usamisaysnak-Oyimak!」


「……え?」

 何語なのか見当もつかない。

 大声で何か言っている紫ローブの男達。

 言葉の意味は解らないが、何かを喜び合っているように見えた。

「おい、おまえら!」

 祐一は床に降り立ち、近くにいた男の前に立つ。年かさの老人だった。

「Atteakiki-Imik-Uotedemo」

 男はぱんぱんと肩を叩いてくる。喜びを分かち合って欲しいのだろうか? 祐一には何が嬉しいのか解らない。その手を撥ね退ける。

「ふざけてんのか! ここはどこだ? 俺はどうなってる? 佐原はどうした?」

「Anureraba-Eamatikutito!」

「おまえらそれ何語だよ、日本語で喋れ!」

「Aduoyurietis-Narukas」

「Uagit、Aduoy-Ianietizuut-Adotok」

「Eruketisukaynoh-Airif!」


 パンパンと、横合いから手を叩く音が聞こえて祐一はそっちを見た。


 そこにいたのは祐一と同年齢ぐらいの少女だった。

 今まで全く気づかなかった。老人達ばかりが集まるのに、うまく溶け込んでいる。

 他の男達と同じく、紫色のローブを着ているせいもあるが、やけに落ち着いた雰囲気をまとっていた。

 それでいて、少女らしさが完全にないというわけではない。

 金色の髪に、青いバラの花飾りをつけている。

 少し染まった頬に笑みを浮かべているが、どこか緊張しているようにも見えた。

「なんだよ、おまえ……」

 毒気を抜かれた祐一が問うと、少女は答える。

「Ettam……Can you speak this?」

「え? 何? それ英語?」

 相変わらず言葉が通じない。

 少し、どこかで聴いた感じになったような気もするけれど、まだダメだ。祐一は、英語の成績がすこぶる悪いのだ。

 少女は何か考え込んでいたが、こほんと咳払い一つ。

「Aniisako……これならどうでしょう?」

「あ、日本語だ」

「良かった、会話できるみたいですね」

 少女はほっとしたようにため息をつく。

 祐一はむしろヒートアップする。

「ここはどこだ? おまえは誰だ? 俺は何でこんな所にいる?」

「ちょっ、ちょっと待ってください」

「待てるか!」

「質問には全部答えるから、まず落ち着いてください。とにかくこれを着てください」

 少女は紫色のローブを差し出してくる。

「なんだそれ? おまえらの仲間になれって言うのか?」

「そういう事ではなく……」

「じゃあなんだよ」

「好きな色があるなら後で用意させますから。今はこれを着てください。その……」

 視線を中途半端に上に向けて、少女は頬を染めた。

「私も一応女なので、すごくやりにくいんです」

「……」

 祐一は自分の体を見下ろした。

 当然、一糸まとわぬ姿だった。

「……」

 すごく恥ずかしい。



暇な人は、彼らの謎言語を解読してみましょう。

(頭の体操レベル2、ぐらいの難易度)

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