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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

この世とあの世の間

 俺は今ギリギリの精神状態で崖っぷちに立っている。


 この世の人生が嫌になり、自ら終止符を打とうしている。足元は、ほんの数センチの幅しかない。風が吹けば、冷や汗がでて体よりも先に、心がフラフラになる。


 なぜ、このような状況になったのか……。


 俺はもう人間関係に疲れ、生きていくのが嫌になった。下を見ると、海がキラキラと綺麗に輝いていて、気を抜くとフワッと吸い込まれそうになる。


 明日にしようかな?


 少しお腹も減ってきた……。もう生きていても何もいい事なんてない……。つらいだけで苦しいだけだ。心残りはあのパン屋のビーフカツサンドが食べたいくらいだ……。


 遺書も書いたし、もう読まれているかも……。やっぱり親より先に逝くのは、最上級の親不孝かな。


 もうここで終わる?


 それとも、もう少しだけ頑張ってみる?


 何かやり残した事は、もっと美味しいビーフカツサンドがあるかも……。


 そう思った次の瞬間、突然強い風が吹き、体中に冷たい血が勢いよく流れた。とっさに何かを掴もうとしたが何もなく、そのまま一回転をし、あの世への入り口に……。


 そんなのあっけないな。


 俺はそんな事を考えながら、そろそろ呼吸が苦しくなってきた。ガス独特の臭いで頭がクラクラしてきた。借金地獄から抜け出せない毎日の取り立てに疲れ果て、もう生きていくのが嫌になった。


 今、火を付けたら爆発するかな?


 でも、最後ぐらいは人に迷惑をかけずに逝きたいな。


 意識がもうろうとしてきた。残りの余力で遺書を書こうと万年筆を取ろうした瞬間、わずかな静電気で爆発した。奇跡的にかろうじて、まだ生きてはいるが熱くて痛くて、たまらない。


 俺の体に炎が燃え移り、薄れゆく意識の中で、人に迷惑はかけるし、最後の最後まで苦しみながら逝くのは最悪だな……。


 迷惑きわまれない結末。そして、あの世への入り口に向かった。


 そんなのは酷すぎる……。


 俺はそんな事を考えながら、睡眠薬を六十錠ぐらい飲んだ所で気持ち悪くなり、これで大丈夫と思っていたが、まだ眠くならない。愛する妻に逃げられ、もう生きる気力もない。


 ものすごく吐き気がする。俺の人生なんだったのだろう……。


 人間関係に疲れ、借金地獄に陥り、長年連れ添った妻にも愛想をつかれ出ていった……。


 だんだんとまぶたが重くなってきた。このまま逝くのか、寂しい人生だったな……。そのまま永遠の眠りに入っていった……。


 気がつくと、そこは真っ白い煙に覆われ、目の前には扉があった。そこには、あの世と書いてある。


 この扉をあけると死ぬのかな?


 あの世に行くのかな……。まだ死んでいないのか?


 あの世へ行く前に、もう一度これでいいのかと考える所なのか?


 俺はその扉を開けようとしたが、鍵が掛かっているのか開かない。何度も何度も押しても引いてもビクともしない。


 俺は意地になって、その扉をドンドンと叩いて叫び続けた。何も変化がなく、虚しくなってきた。俺はあの世にすら行けない、どうしようもない人間なのか……。すると向こうの方から、鬼の様な悪魔の様な姿の化け物が、ゆっくりとこちらに向かって歩いてきた。


 俺は恐ろしくなり、その場から逃げようとしたが腰がひけて動けない……。


 その化け物は俺に近づき、こう言った。


 「この場所は自ら人生を諦めた人間だけがくる場所だ」


 「…………」


 「つまり、この世とあの世の間だな」


 化け物はそう言って、なぜこの世の人生を諦めたのか尋ねた。俺はこの世の人生の出来事や、死んだら楽になれるからと話すと、化け物は笑いながらこう言った。


 「人間は少し勘違いしているが、死んでも楽にはなれないんだよ……」


 俺は意味がわからなかった。


 「人間はあと一歩の所でよく諦める。その先を乗り越えれば素晴らしい人生が待っているのにな……」


 化け物は少し切ない様な、悲しい顔をした。


 「人間関係、借金地獄、愛する人に去られた。私からすれば、とても小さな事だ。人生を諦める理由にならない。人間は弱くなった。本当にあの世へ行きたいのか?」


 化け物は尋ねた。


 「はい……」


 化け物はしばらく考えて、鍵を差し出した。


 「この鍵はあの世への扉が開く鍵だ」


 俺はその鍵で扉を開け、あの世へ行った。










 私は今ギリギリの精神状態で崖っぷちに立っている。


 あの世の人生が嫌になり、自ら終止符をうった……。


 気がつくと、そこは真っ白い煙に覆われ、目の前には扉があった。


 その扉には、この世と書いてあった。


 私はその扉を開けようとしたが鍵が掛かっているのか開かない。私は必死になって扉をドンドンと叩き続けた。すると向こうの方から鬼の様な悪魔の様な、化け物が近づいて来てこう言った。


 「この場所は自ら人生を諦めた人間だけがくる場所だ。つまり、あの世とこの世の間だな」


 化け物は、なぜあの世の人生を諦めたか尋ねた。


 「あの世の人生は、同じ事の繰り返しで苦しくて、つらい事ばかりで、もう耐えられません。生きたら楽になれるから……」


 すると化け物は、笑いながらこう言った。


 「人間は少し勘違いしているが、生きても楽にはなれないんだよ」


 私は意味がわからなかった。


 化け物は尋ねた。


 「本当に、この世へ行きたいのか?」


 「はい……」


 化け物はしばらく考えて、鍵を渡した。私はその鍵で扉を開け、この世へ行った。




 僕は今ギリギリの精神状態で崖っぷちに立っている……。


 この世の人生が嫌になり、自ら終止符を……。



 完


この世に限らず、あの世も辛いこともあれば、楽しいこともあります……多分。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 好きな世界観です。 読み終わって、ふうっと、溜息がでました。 ループの描写が緊張感があって、素敵です。
[一言] 逃げてみても結局行き着く先は同じって事ですね。 作者の人生観を感じます。
2015/02/07 03:41 退会済み
管理
[一言] 「この場所は自ら人生を諦めた人間だけがくる場所だ」 人生どんなに苦しくても、悲しくても、辛くても、自殺だけはしたくないものです。
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