さおりんの秘密ですわ!
「なぎさちゃんは、つかさちゃんのことが大好きなんですね」
さおりのさりげない且つしなやかな一言に、なぎさの周囲は一瞬で猛暑となった。
「ななななな何言ってるのよよよ、ななぎさちゃん。そ、そっそそんなわけないじゃない!」
激しく手をばたばたしている。
太ももがだんだん赤くなってきているのにも気づかないほど、あからさまに動揺している。
「なぎさちゃん!?そんなに動揺しないで!太ももが腫れちゃいますよ!あと、私はなぎさちゃんじゃないですよ!なぎさちゃんがなぎさちゃんです!私の名前はなぎさちゃんです。ちゃんと覚えてくださいね。ふぅ…あ!違います!私の名前はなぎさちゃんじゃなくてさおりちゃん…じゃなくてあわわわ」
「ちょっと何やってますの二人とも!落ちつきなさい」
つかさが駄菓子屋で買ってきたふがしを大量に抱えて走ってきた。
「ふぅ…あの、なぎさちゃんが急に暴れちゃって…」
「あーいつものことですわ」
つかさはそう言ってなぎさのそばに寄って口を開けさせる。
そしてまったく…と息を吐き、なぎさにふがしを食べさせた。
「ふがしぃぃぃぃぃ」
その瞬間、暖かなそよ風に包まれ春の訪れを感じた。
新芽が芽吹き、虫たちが一斉に活動を始めたようにさえ感じた。
さっきまでの大暴れの形跡は微塵もなく、満面の笑みを浮かべながらふがしを頬張るなぎさ。
「なぎさは照れるといつもこうなのよ。こういう時はなぎさの大好物のふがしを無理やり食べさせるのが一番ですわ」
つかさは急いでメモ帳にふがしとメモした。
それで…となぎさは自慢の巻き髪を翻しながらつかさに訊いた。
「さおりん、なぎさに何を言いましたの?なぎさがこんなに照れるのなんて久しぶりですわ」
「そ、それは…」
「別に何でもないわよ!」
なぎさがふがしを頬張り終わった口を思い切り挟んだ。
威勢のいい口調だが足を少し引きずっているのが見るに耐えない。
「あーもう太もも赤くなっちゃってますよ。大丈夫なんですか?」
「もう慣れたわ!いつものことだから!」
なぎさは地面を強く踏んで平気アピールをした。
「でも…せっかくの絶対領域が…」
「「え?」」
予期せぬ沈黙の風が吹き荒れる。
三人の頭の中を駆け巡るものが多すぎて上手く言葉に出来ない均衡状態。
はたまた誰がこの状況を打破するかの熾烈な心理戦。
そんな空気が一気にこの空間に支配した。
どの程度続いたか三人には到底分からないが、ついにつかさが風除けを建てた。
「絶対領域って…さおりんまさか」
「ち、違います!ここの赤くなった領域は絶対痛いだろうなって思って言ったんですよ!決してそういう意味で使ったわけではないのです!」
「そういう意味とはなんですの?」
つかさはにやにやしながら問いかける。
なぎさは何も理解出来ていない模様。
「ち、違うんです!!!」
なるほどそういうことなのですわね、さおりん。
思わぬ時にさおりの秘密を知ったつかさだった。