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傷物騎士の俺が婚約破棄されたら、学園の才女に溺愛されるようになった。  作者: 左リュウ


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第9話 ヘンリエッタ・ビルヴィ②

「どういうことだ、ヘティ! なぜ勝手に婚約を破棄した!」


 学園内にある客室に、怒りに顔を赤くした男――――ドルディック・ヘルヴィ男爵の怒声が轟いた。


 突如として学園に乗り込んできた父親によってこの客室に呼び出されたヘンリエッタは、父のあまりの怒りっぷりに、びくっと身を震わせる。


「な、何よ、お父様。急に学園に来たと思ったら、怒鳴り込んで……」


「怒鳴るのは当たり前だ! これが怒鳴らずにいられるものか! もう一度問うぞ、ヘティ! なぜレリクくんとの婚約を破棄したんだ!?」


「当然でしょ? あんなつまらない上に貧乏くさい男……前から嫌だったのよ」


「そんな勝手が通じることか! 忘れたのか、この婚約は家同士の契約なんだぞ!? それを一方的に……! くそっ!」


「何言ってるのよ、父様。つまりメリットがあればいいんでしょう? 私にはもう、モーリスがいるもの。彼の家は伯爵家よ。あんな貧乏子爵より、どう考えても、こっちの方がいいに決まってるじゃない! それに顔だって傷も無くて整ってて、王子様みたいだし……」


「………………今朝、コルトリット伯爵領内における販売認可が取り消された」


「え?」


「コルトリット伯爵だけじゃない……他にもいくつかの貴族から、魔石や薬草の供給契約も打ち切られている」


 コルトリット伯爵領には冒険者にとってうま味のあるダンジョンが幾つか発生していて、それ故に冒険者の出入りも活発だ。

 この領内で商品を販売出来ないということは、ビルヴィ商会でも安定した売り上げを誇る冒険者関連の売り上げを大きく損なうことになる。


 魔石や薬草は、魔道具と魔法薬の材料だ。

 ビルヴィ商会はそれらの自社開発も担うことで成長してきたが、材料を失えば作ることも出来ない。


 ここ最近は他の大手ライバル商会も自社開発を推し進めており、ビルヴィ商会としては更に力を入れていきたい……と、息巻いていたところだった。


「このままじゃ、冒険者ギルドからの継続契約もどうなることか……明日、ギルドで話をすることになっているが、恐らく……」


「ち、ちょっと待ってよ、お父様。それは確かに大ごとだけど、婚約破棄と何の関係が……」


「……そんなことも分からず、婚約を破棄したのか」


 父ドルディックは、いつも娘のヘンリエッタには甘かった。

 ヘンリエッタのわがままやおねだりにはいつも甘い顔をして頷いて。

 何でも言うことを聞いてくれる自慢の父親――――それが、ヘンリエッタにとっての父親だった。


 唯一、思い通りにならなかったのは婚約だったが……それでも、こんなバカを見るような目は、してこなかった。


「あんな家、ただの借金塗れの貧乏子爵でしょう!?」


「……確かにレリック家は、貴族として大きな力を持っているわけではない。だがあの家は歴史が古い」


「それが何よ! 古臭いだけじゃない!」


 口答えするヘンリエッタに、ドルディックは「黙れ」と言わんばかりに睨みつける。父親としてではなく、一つの商会を預かる長としての威圧感に、ヘンリエッタは黙り込むしかなかった。


「レリック家は騎士の家系だ。その古い歴史は、この国を守り続けてきた歴史と言ってもいい。代々受け継がれてきたのは、剣の腕と――――貴族らしからぬ誠実さだ。真面目さ、と言い換えてもいいかもしれん」


 その真面目さはヘンリエッタにとっては、退屈なものだった。

 真面目であるだけなどつまらないのだから。


「レリック家の連中は、お人よしだ。だがそのお人よしに救われてきた貴族は……実は少なくない」


「どういうこと?」


「たとえば、コルトリット伯爵家。あの家の当主は学生時代、レリック家当主に窮地を救われたそうだ。ダンジョンの崩壊に巻き込まれ、最下層に落下し……誰もが救出を諦めたコルトリット家の当主を、当時同じく学生だったレリック家の当主が救い出した。それ以降、コルトリット家当主は、レリック家に対して不変の友情を誓っている……たとえ、爵位が下でもな」


「…………っ。そんなことがあったなんて……」


「しかもレリック家は、その時の貸しを利用するようなことも、返すように請求することもしたことがないそうだ。たとえ自分たちが借金を背負おうともな。その借金も、民に負担をかけぬようにレリック家が身銭を切ったせいだしな……」


 父親の目には珍しく、尊敬の念のようなものが滲んでいた。

 恐らく父も、どこかでレリック家の人間に救われたのかもしれない。


「あの家の人間は『困っている人がいれば手を差し伸べる』ことが当たり前なのだ。そして見返りは求めない。助けられたこと、それそのものが報酬であるかのように……そして救われたのは、コルトリット家だけではない。レリック家の歴史とは即ち、人助けの歴史だ。この国の貴族……いや人々は、あの家に借りがある者が多いのだ」


 レリック家は、ただの貧乏子爵家。

 それがヘンリエッタの認識だった。実際、婚約した時に少し調べたが……それほど大きな功績があるわけではなかった。


(大した功績にもならないような人助けを、延々と続けてきたってこと……!?)


 あるいは、功績を他人に譲ったか。

 いずれにしてもヘンリエッタからすれば、ありえない。頭がどうにかなっているとしか思えない行為だ。


「あの家には爵位や表面的な情報では収まらぬほどの『信頼』がある。だからこそ、婚約を結んだというのに……お前というやつは…………!」


「し、知らなかったのよ! 仕方がないじゃない!」


「知らなかったで済むか! 何よりお前がしたことは、レリクくんに対する重大な裏切りだ! 恥を知れ!」


 都合の良いことを――――ヘンリエッタは唇を噛みしめる。


 真面目だの誠実だの反吐が出る。

 あんな傷物と結婚させられる娘の気持ちが、この父親は分からないのだ。


「レリック家のご子息を最悪な形で傷つけたお前のせいで、ビルヴィ商会は貴族からの信頼も大きく失った! おまけに、あのフランメルク家のご令嬢まで……!」


「リゼリット・フランメルクが、何を……!」


「……『万術の魔女』が、魔道具を取り扱うビルヴィ商会の信頼性を疑問視しているそうだ。おかげで魔術協会との、大口の取り引きまでもが中止に……! このままでは、商会は……!」


「――――っ……」


 先ほどまで怒りから真っ赤に染まっていた父親の顔が、みるみる青ざめていく。

 商売人にとって信頼がどれほど重要なものか。

 商会の長を父に持つヘンリエッタは、知らないわけではない。


「モーリス……私には、モーリスがいるわ! 私は彼と結婚するの! 伯爵家との繋がりが出来れば、まだ」


「……ウォレト伯爵家の次男か。だが結婚など、ただの口約束だろう?」


「そんなはずないわ! 彼、言ってたもの! 私を愛してるって……!」


「…………………………………………」


 彼の愛を訴えるが、父の目は冷たい。

 契約書を交わしていない婚約など信じていないとでも言わんばかりだ。

 それどころか、軽蔑すらしているような……。


「…………っ! 本当よ! 言ってたもの! 今度の『学内戦』で優勝したら、結婚しようって! プロポーズするって!」


「『学内戦』か…………」


 父親は頭の中で何やら計算を始めたらしい。

 商会の長としては、この窮地を切り抜けるための何かに縋りたいところなのだろう。


「……確か今度の『学内戦』はSランクの騎士が見学に来ると言っていたな。ならば、彼に営業をかけろ」


「え?」


「そのプロポーズが本当かどうかは怪しいが、彼が派手に活躍すれば注目が集まる。それを利用してSランク騎士に接触しろ。現状、お前とモーリス君は付き合っているんだろう? 注目選手の婚約者としてなら、チャンスがあるかもしれん。商談に持ち込めればベストだが、お前にそこまでは期待していない。とにかく私に繋げ」


「え、ええ……分かったわ。お父様」


 Sランク騎士と何らかの契約を結ぶことが出来れば、ビルヴィ商会の信頼もある程度は取り戻せる。それぐらいはヘンリエッタにも分かった。


「だが、理解しているだろうな? 今度の『学内戦』は、モーリスくんの活躍が前提だ。万が一……万が一だが、予選落ちなどしてみろ」


「だ、大丈夫よ! 彼なら大丈夫! だって、彼は予選は毎年通過しているわ。あの傷物騎士よりずっと強いもの!」


 そう。大丈夫。大丈夫のはずだ。

 何も問題はない。あの婚約破棄は絶対に正しくて、私がモーリスに捨てられるはずがないと――――ヘンリエッタは、自分に言い聞かせた。


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