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恋に落ちた見劣り姫は秘された才能を開花させる  作者: たつき めいこ


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見劣り姫は『気配隠し』を習得する

「普通は情報を引きだせるようになるまで一か月くらいかかるのです。それをまさか初日に合格なさるとは。いやはや、驚きです」


 ええ? そうだったの? と、とっさに周りを見る。いつの間にかやってきていたヘラが大きくうなずいた。その直後、暗部の者たちが現れていっせいに拍手をしだす。……暗部の者たちって乗りがいいのね。驚いてしまったわ。


 拍手もまばらになり、再び暗部の者たちが消えていく。どんな仕組みなのだろう。

 不思議に思いながらまじまじと見ていると、フィスが声をかけてきた。


「あれは『気配隠し』です。今度はそれを覚えていきましょうか」

「『気配隠し』、というのね? フィスが急に消えたり現れたりしていたから気になっていたのよ。気配を隠すのはどうすればいいの?」


 神秘的な力の存在など聞いたことがない。どうやって見え隠れしているのだろうか。

 首を傾げると、フィスが眉尻を下げて極まり悪そうな顔をした。


「『気配隠し』は自分の存在を希薄にする技です。ただ、非常に言いづらいのですが、明確な習得法はないのです。説明がしづらく、お手本を見ながらコツを掴んでいくしかありません」

「はい? 暗部の技術なのよね? それなのに習得法がないの?」

「ええ。感覚的なことですのでこればかりは……。実際にやってみましょう。よく見ていてください」


 言い終えるやいなや、目の前にいるはずのフィスの存在感が薄くなった。なぜか生気も感じられず、フィスが死んでしまったのではないかと慌てる。


「フィ、フィス……?」

「はい。ちゃんと生きておりますよ」


 私の顔色が悪かったからだろう。存在感を通常に戻したフィスが苦笑した。その切り替えの早さにただただ驚く。私にこれができるだろうか……?


「大丈夫です。時間の差はあれども、ほぼみな習得しましたよ」


 私の不安が伝わったらしく、フィスが優しげに笑って言う。それだけで私の不安が和らぐのだから、フィスの話術は本当にすごい。


「では、もう一度やりますね。あ、筆頭護衛騎士殿も覚えてください」

「は? 私もですか?」


 部屋の扉脇で任務をこなしていたメイナードが、ぎょっとした顔で言う。自分は無関係だと思っていたのだろう。


「もちろんです。忍ばれている殿下の側であなたが目立っていたら意味がないでしょう?」

「それはそうですが……」


 不満があるのか、メイナードは眉間に皺を寄せて言葉を濁す。明らかに消極的な態度だ。

 フィスもそう思ったようで、ずいっとメイナードに詰め寄る。

 猜疑心が強そうな顔に迫られてメイナードはたじたじ気味だ。


「何か問題でも?」

「い、いや、その……常に周囲に気を配っているので、気配が隠れるものかと思いまして」

「ああ、気配を消すのとは真逆ですからね。かなり難しいかと思います。ですが、やるしかないでしょう」

「……ですよね」


 メイナードは眉尻を下げて自信なさげにうなずく。だが、すぐに気持ちを切り替えたようで――諦めとも言う――表情を改めた。


「では、メイナード殿も殿下のお側に」


 フィスに指示されて、メイナードがおとなしく私の後ろに控える。ずいぶんと大きな生徒だわ。

 おかしさをこらえながら、フィスのお手本に意識を向ける。


「この術は、人によってコツを掴む際の感覚が違います。私が何度も使用しますので、うまく自分のものにしてください」


 そう言ってフィスが何度も術を使用する。

 私も見よう見まねでやってみるけれど、想像以上に難しい。


 そもそも、存在を希薄にするとはどういうことなのか。疑問がぐるぐると頭の中を駆け巡る。


 ……だめ。よけいにわからなくなったわ。


 行き詰まりを感じて後ろにいるメイナードを見る。

 メイナードは眉間に皺を寄せたまま目を瞑っていた。耳をそばだてれば、うんうんとうなっている。彼も前途多難のようだ。


 視線を戻し、改めてフィスの『気配隠し』を見る。

 まるで空気に溶け込んでいるかのよう。この場にいるのかも怪しいほどで、フィスという個を主張するすべてが感じられない。


 ……もしかして、自我はいらない?


 試しに無心になってみる。

 すると先ほどまでとは違って、自分がわずかに空気に溶け込んでいるような気がした。だが。


「あ……」


 成功したと喜んだのが悪かったのか。次の瞬間には一体となった空気から追い出されて、個の感覚だけが残った。


「惜しかったですね、殿下。方向性はよろしいですよ。あとは感情が出ても揺らがないようにするだけです」

「……」


 それが一番難しいのではないかしら? と思ったが、口には出さずに小さくうなずく。

 すぐ後ろからはいまだに苦痛じみた声が聞こえてくるが、完全に無視だ。


 気を取り直して再び無心になってみる。先ほどより早く周囲の空気に溶け込む感じがした。

 けれど、何かが違う。これではきっと『私』を意識した瞬間に術が溶けてしまう。

 ならどうしたらよいのか。目を皿にしてフィスの手本を見る。

 何度も何度も凝視して、やがてフィスの意思が残っていることに気づいた。完全に溶け込んでいると思っていたが、どうやら違うらしい。


 ……わずかに個が残っているわね。意識を周りの空気に馴染ませつつ、溶け込んだ空気を少しだけ戻して自分を保っている?


 適切な言い回しとは言えないが、そうとしか言いようがない。

 フィスは『自分の存在を希薄にする』と言っていた。言葉どおりなら個を完全に手放す必要はなさそうだ。ただ……。


 ……その感覚がとても難しいのよね。こう? 違うわ。こんな感じ?


 なかなかうまくいかないが、あとは自身の感覚だけを頼りにひたすら努力するしかない。ああだこうだと微妙に加減を変えて挑戦してみる。

 あまりに気が遠くなる作業で、下手したら数か月かかりそう……。


 などと思ったけれど杞憂だった。


「で、できたー!! これでいいのよね、フィス?」


 空気の馴染ませ具合を微調整していくこと数十分。これ以上にないくらいしっくりする感覚があった。

 自我は保てているし、今までとは違って興奮しても感覚は変わらない。


 試しに解除して、もう一度『気配隠し』を使用してみる。存在が希薄になっている気がするが、確かめようがない。

 こればかりは本当に感覚頼みなのだ。人に説明できないという意味がよくわかる。


「驚きました。これも合格です」


 一人納得していると、フィスが及第点を告げてきた。心なしかフィスの口の端がひくひくとしている。どうしたのだろう?

 不思議に思いながらフィスを見ていると、今まで側で見守ってくれていた暗部の者たちがいっせいに拍手しだした。今度はヘラも一緒だ。遅れて、気を取り直したらしいフィスも拍手する。

 反対にメイナードは、目の光が完全に消え失せていた。……大丈夫かしら?


「姫様、おめでとうございます。何を、とは申しませんが、これで心置きなく調べることができますね」

「え、ええ。……そうね。これでやっと」


 ヘラが言うように、ようやくレイリー卿の情報を得ることができる。

 護衛の対象についてはもちろん、趣味とか、好きなものとか、逆に苦手なものとか。今から楽しみだ。


 まさか昨日の今日で習得するとは思わなかったけれど、私もやればできるものね。

 原動力は言わずもがなレイリー卿。彼のためなら私はなんでもできそうだ。今なら空だって飛べそうよ!

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