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恋に落ちた見劣り姫は秘された才能を開花させる  作者: たつき めいこ


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13/14

見劣り姫は御前試合を観覧する1

 毎日のようにレイリー卿の話を仕入れては活力とし、基礎トレーニングをする。

 次第にナイフの飛距離が伸び、コントロールの精度も上がった。ほぼほぼ完ぺきな仕上がりと言っても過言ではない。


 例の衛士たちは愚直に計画を進めており、本日、計画を実行に移すようだ。

 決行前に彼らが改心してくれたのならどれほどよかったか。でも改心する心があるなら、元からこのようなことはしないだろう。

 実に残念だが、こうなったらどうしようもない。私が彼らの策略を阻止する。愚かな考えを抱かないように徹底的に、彼らを潰す。


 動きやすいワンピースに着替えると、侍女ヘラと護衛メイナードを従え、部屋を出る。

 私とヘラはすでに『気配隠し』を使用している。メイナードは期間内にマスターできなかったが、今日は訓練場に行くだけだ。私たちに構わず堂々と向かえばいい。


 訓練場につくと、なるべくグラウンドに近い、ただし人気がない隅の観客席に座る。見学している令嬢たちの後ろを通ったから、気づかれずに席に着けた。

 メイナードも今は息を殺すようにして側の壁に立っている。立派な壁だ。


 とりあえず第一関門はクリア。すぐにレイリー卿を探す。


 ……どこにいるのかしら? あ、いたわ!


 グラウンドの奥、観客席から離れた場所でレイリー卿が一人黙々と素振りをしていた。

 見る限り怪我をした様子はない。これから作戦が実行されるのだろう。

 辺りを見回して衛士たちの姿を確認する。彼らはたわいもない話をしているようで、へらへらと笑っていた。


 ……そんな不真面目な態度だから、いつまで経っても上達しないのよ。


 誇れる自分でありたいから、自分が平凡だとわかっていても手を抜くまねはしない。彼らとは根本的に考え方が違うと感じた。


 軽蔑にも似た思いを抱きながら衛士たちの動向を窺う。

 少しして彼らが動きだした。いよいよね。

 すっと席を立ち、一番前まで行く。ヘラとメイナードはその場で待機だ。


 衛士たちがレイリー卿に接触し、手合いを始めた。その周りを五人の衛士たちが陣取る。

 計画を練ったのは六人で、全員そろっている。私の妨害を阻止される心配はなさそうだ。


 神経を尖らせながら、レイリー卿の手合いを見守る。

 最初の衛士との勝敗が決し、次の衛士との手合いに続く。

 そうして周囲を固める衛士たちと次々に手合いをし、ついに最後の一人と剣を交えた。

 直後、手合いの衛士が異様な行動をとった。レイリー卿に体当たりを仕掛けたのだ。

 不意打ちに驚いたのか、レイリー卿の体が傾く。それを皮切りに、周囲を固めていた衛士たちがいっせいにレイリー卿のもとに駆けだした。


 ……今だわ!


 瞬時に理解し、素早い動きでナイフを取り出す。そのまま流れるような動きで、レイリー卿と衛士たちの間を分かつようにナイフを放った。

 鍛錬のおかげで勢いがついたナイフは、狙いどおりレイリー卿と衛士たちの間に突き刺さる。とたんに衛士たちがその場を飛び退いた。


「二人とも、急いで帰るわよ」


 私の役目は終わりだ。二人にだけ聞こえるように言うと、すぐさま訓練場をあとにする。

 急いで部屋に戻ると、王女らしい服装に着替え直し、再び訓練場に向かった。


 衛士たちの策略は失敗した。必ずあの場所に集まって作戦を練り直すはずだ。

 その読みは当たっており、レイリー卿の襲撃から一時間ほどで、彼らが渡り廊下脇の庭園に集まった。


「くそっ! なんだったんだ、あのナイフは!! せっかくうまくいきそうだったのに、作戦の練り直しだ!」

「無駄だよ。イライアスは馬鹿じゃない。もうすでに俺たちを警戒しているはずだ」

「なら怪我を負わせる作戦は諦めて、次に移ればいい」

「次ってあれか。前日の飯に薬を混ぜるとかってやつ」

「ああ。ちゃんとこれを用意しておいたんだ」


 隠れていた茂みからそっと顔を出す。

 一人の衛士が、透明な液体が入った小瓶を仲間たちの前で軽く振っている。


 ……あれが下剤ね。怪我を負わせる策もそうだけれど、どちらも犯罪行為だわ。なぜ誰一人として気づかないのかしら。まあ、いいわ。その作戦もきちんと潰してあげる。ただし、決定的な一撃を加えるのは私ではないけれどね。


 口の両端を上げながら、隣にいる人物を見る。

 その人物は怒りからか、顔を真っ赤にして震えていた。表情だけで、彼らの未来が潰えたとわかる。


「そこまでだ! 全員地面に伏せろ!! お前たち、こいつらを捕まえてくれ」

「はっ!」

「なっ!?」


 私の隣にいた人物が勢いよく立ち上がったかと思えば、計略を練る衛士たちに向かって叫んだ。

 そして、自分の側にいた衛士たちに、策謀する衛士たちを捕まえるよう指示を出す。


 計略を練っていた衛士たちは突然のことに理解が及ばないらしい。茫然とした様子で佇んでいる。抵抗する考えすら浮かばないらしく、仲間以外の衛士により、あっけなく地面に伏せられた。


「殿下、ありがとうございました」

「いいえ、衛士隊長。お役に立てたようでなによりです」


 そう。私の隣にいたのは衛士隊長。次の画策で下剤の話になるだろうからと、わざわざ衛士隊長に声をかけ、一緒に隠れてもらっていたのだ。まさか、薬所持の現行犯で逮捕とは思っていなかったけれど。


 ともあれ、事件は一件落着。彼らは地方に飛ばされると聞いた。完全に出世の道が潰えた形だ。だが自業自得なのだからしようがない。

 これに懲りて、真面目になってくれることを祈るばかりだ。






 レイリー卿の危機を救って三日。待ちに待った御前試合の日がやってきた。

 今日は王族が出席する。王族からの観戦者は、お父様とお母様、ウィル兄様で、試合に参加するのは次兄のランドルフ――ランディ兄様だ。

 ランディ兄様はかなりお強いらしいけれど、私が応援するのは当然レイリー卿。この日のために、少しだけおしゃれもした。我ながら涙ぐましい努力だわ。


 王族専用の席に行き、家族に挨拶をする。

 身内の欲目でいつもの賛辞をもらうと、離れた席に座った。


 少しして、司会者らしき人の声が聞こえてきた。いよいよだ。

 お父様が軽い挨拶とともに試合の開催を告げ、すぐに第一試合が始まった。



 最初に登場したのは騎士の二人。衛士とは制服の色が違うから一目でわかる。

 騎士たちは向かい合って礼をすると、審判役を務める騎士隊長が始まりの合図を出した。

 二人とも一気に間合いを詰め、剣を交える。とたんに周囲が湧きたった。


 事前に人数を絞っているので、強者だけとなった兵士たちの試合は見応えがある。武器を扱い始めたばかりの私が見てもわかるくらい、レベルが高い。


「はあ。すごいわね。見ているだけで勉強になるわ」


 思わず感嘆の声が漏れ出るが、反応した者は一人もいない。

 それもそのはず。王族席は一区画分ほどあり、閉鎖されてない。椅子が通常より豪華なだけで、あとは普通の観客席と同じ。家族と離れて座れば、私の声は家族のもとまで届かない。


 むろん、私の側にいるヘラとメイナードには聞かれているはずだ。けれど、二人は今も黙って控えている。これで心置きなく興奮……応援ができる。


 意識を阻害するものはなく、思う存分戦う強者たちの試合を楽しむ。

 オペラグラスを持ってくればよかった、と思うくらいには試合に引き込まれた。第一試合でこのすごさだから、レイリー卿の試合はさらに興奮するだろう。


 途中、ランディ兄様の試合を応援しつつ、レイリー卿の出番を待つ。

 数試合が行なわれたのち、ようやくレイリー卿が姿を現した。レイリー卿の相手は衛士のようだ。


「レイリー卿、頑張って」


 誰にも聞かれないくらい小さな声でつぶやく。

 とてもささやかな応援の仕方だけれど、体は正直だ。祈るように両手を胸の前で組み、穴が空くくらいレイリー卿を見つめる。

 きっと大丈夫だ、と思いながらも、レイリー卿が怪我をしないか、と心配もする。

 だが、私の心配は一瞬にして吹き飛んだ。


「勝者、イライアス・レイリー!」


 あっという間だった。

 試合開始の合図とともにレイリー卿が動き、素早い動きで相手の剣を吹き飛ばした。


 一瞬にして会場が静まり返る。そしてすぐに、わぁっ! と歓声が沸き上がった。その声に負けまいと私も手を叩く。


「いつ見てもかっこいいわ。痩せているように見えるけれど、その実しっかりとした筋肉がついているのよね。あの動き、さすがだわ。今度取り入れましょう」

「姫様、視点が乙女から武人に変わっています」

「あら、わたくしとしたことがうっかり。それより、次の試合が始まりそうよ」


 ヘラの突っ込みを軽く流し、会場に視線を向ける。

 次の試合の選手が入場してきた。試合はまだまだこれからだ。

近いうちにサブタイトルを入れようかなと思っております。

お含みおきいただけますと幸いです。

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