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恋に落ちた見劣り姫は秘された才能を開花させる  作者: たつき めいこ


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11/15

見劣り姫は名を授かる

 それからというもの、毎日知らない暗部の者がやってきて、私に暗器の扱い方――『暗器術』を教えてくる。なぜそうなったのか。

 ヘラに尋ねれば、「彼らは『稀に見る逸材ではりきった。後悔はしていない』と言っていました」と返された。まったくもってわけがわからない。




 そんなこんなやりとりをしながらも三日ほどが経ち、私はたくさんの暗器を扱えるようになっていた。

 筋力と体力をつければ、重たい武器も完璧に使いこなせるだろう、とフィスのお墨付きまでもらっている。……どうしてこうなったのかしら? いまだに謎だ。

 ヘラとメイナードは頭を抱えていた。


 さて、ここまでくれば自分でもわかる。私は、暗部向きの能力がある。

 暗部の者たちは気づき、『我らがエース!』と私をもてはやしてくれた。

 正直なところ、涙が出そうなほど嬉しい。

 とはいえ、もう少しお手柔らかに願いたい。今日も今日とて暗部の者たちに囲まれて、気が休まらないのだ。


「あの……」

「お前たち、何をしている。殿下から離れなさい」


 彼らに『離れてほしい』と言う前に、フィスの制止の声が聞こえてきた。

 そうかと思えば、フィスがどこからともなく姿を現す。


「まったく。お前たちが殿下に害を与えてどうする。ヘラ。お前も身を挺して殿下をお護りしなさい」

「はい。申し訳ございません」


 フィスに叱られた暗部の者たちが、私から離れる。逆にヘラは、私の側に寄った。


「フィス、どうしたの? 何かあった?」


 フィスが自ら顔を出すなんて珍しい。

 声をかければ、彼が頭を下げた。


「失礼いたしました。実はここ数日、殿下がさまざまな武器を試されるお姿を陰ながら拝見しておりました。脱帽するほど素晴らしい力量です」

「まあ。あなたからも賛辞をいただけるの? ありがとう」

「はい。それで、あまりに素晴らしいものでしたので、暗部の長に告げましたところ、『私の一存で名を授けてよい』と指示を受けまして……」

「名を授ける? 私に?」


 意味がわからず首を傾げる。

 するとフィスが小さくうなずいた。


「はい。組織に入れられた者は、全員漏れなく技術を叩き込まれます。何年にもわたりあらゆる技術を詰め込み、及第点を得られた者から実践に投入される。というのは殿下もご存じですね」

「ええ、この間習ったばかりですもの、忘れるわけがないわ。でも、名の話は聞いていないわね」

「そうですね。殿下にはあえて話をしませんでした。危険を伴わないとわかっていたからです」


 危険とはどういうことだろうか。疑問に思ったが口にはせず、フィスを見つめて先を促す。


「任務によっては、数人でチームを組むこともあり、時に戦闘もいたします。その際、仲間内の連係は必須となります」


 戦闘での連係なんて私には縁遠い話だ。想像もつかないので、黙ってフィスの話に耳を傾ける。


「ただ、呼びかけによって相手に素性を知られるのはいただけません。ですから、本名とは別の名で呼び合うのです」

「その名を私に与えてくれると言うの?」

「はい。本来は及第点をとった時に授けられます。しかし殿下は戦闘とは無縁でしたので、保留しておりました」

「そうね。私は『調技』を身に付けたかっただけだもの。それなのにどうして?」


 確かに私はヘラに投げナイフを教わった。けれど、投げナイフはあくまで戦闘技術の一部にすぎない。まして、及第点をもらえるような大それた技術でもない。疑問に思うのは当然だ。


 率直に尋ねれば、フィスが理由を口にした。


「一つは、動機がどうであれ殿下が『暗器術』に手を伸ばされたことです」

「あの、それは……」


 けして褒められるような動機ではない。

 呆れられたかとフィスを見れば、彼は柔らかい笑みを浮かべ、右人差し指を立てた。


「そしてもう一つは、『暗器術』が非常に素晴らしかったことです。重たい武器は無理でしたが、それ以外の武器ならすぐに習得されてしまわれた。センスの塊としか言いようがありません」

「!」


 べた褒めすぎて驚く。


 どうやら私の天職は暗部職なのかもしれない。

 いずれは降嫁する身だから、完全に籍を置くのは無理だけれども。


 そんな私の驚愕をよそに、フィスの話は続く。


「殿下には暗部を統括していただきたいくらいです。ですが、それは無理ですので、長に報告するに留めました」

「その結果が『名を授ける』、だったのね」

「はい。意図せず活用する機会があるかもしれませんので」

「そうね。人生、何があるかわからないもの。それで、私に授けられる名はなんと言うの?」


 気になって仕方がない。急かし気味に尋ねる。

 名前はすでに決まっていたようで、フィスは鷹揚にうなずいた。


「『エーレ』、と。この豊穣の国サンメドゥの姫君に相応しい名を贈らせていただきます」

「『エーレ』? 女性の名……いえ、男性の名でもおかしくないわね。確か隣国エーレンフルスの言葉で、『麦の穂』という意味だったかしら。綴りを変えると……ええと……」

「『栄誉』や『敬意』、です」

「『敬意』……。私に相応しい名だと、あなたは言ってくれるのね。ありがとう。大切にするわ」


 暗部の者たちは私を認めてくれる。それが嬉しくて仕方がない。

 フィスだけでなく、ほかの者たちにも笑みを向ける。


「みんなもありがとう! これからは『エーレ』と呼んでね! 敬語も必要ないわ」


 心から礼を言うと、ほかの者たちはもちろん、猜疑心が強そうなフィスが、嬉しそうに笑ってくれた。

 私の顔がますます緩む。王女にあるまじき顔だ。慌てて咳払いをして、取り繕う。


「そういえば、暗部のみんなは活動する時に顔を隠していたわね? 私もしなくちゃだめよね?」

「そうですね。殿下だと知られると非常によろしくないので、必須でお願いします」

「わかったわ。ヘラ、あとで商人を呼んでもらえる? 私にぴったりな仮面を作ってもらうわ。モチーフは何がいいかしら」


 うーん、と考える仕草をすると、今まで静かだった暗部の者たちが意見を述べ始めた。


「殿下は愛らしいから仮面も愛らしい方が……」

「馬鹿、もう少し考えろ。エーレはこれから大人の女性になるんだぞ! あと、殿下じゃなくて『エーレ』な?」

「年齢もだけど、性別不詳の仮面の方が安心よ。大事な仲間だから真剣に考えなくてはね!」


 などなど。私のために知恵を絞ってくれる。

 なんてありがたいことだろう。私は彼らに認めてもらえているのだと心から実感できる。


 この気持ちは『嬉しい』、なんて月並みな言葉では言い表せられない。

 きっと私にしかわからない気持ちだ。これでやっと私も……。

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