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最後の作品  作者:
6/7

翠銀灯

少し離れた場所でタクシーを拾い、それに僕らは乗って帰った。


あの光景を見た後に歩いて能天気に帰る事なんてできない。一刻も早くあの場所から離れないといけない。


しかしあれは一体何なんだ。人間が…。人間がだぞ、あんなに簡単に破壊されるのかものなのか…?いやそんなわけがない。そんなわけがあってなるものか。


以前屈強な大男が、リンゴを握り潰していた映像をテレビで見たことがある。例え大木のような太い腕をした彼であっても、皮膚を筋肉を繊維を引きちぎる事なんてできない。そうだろ?なぜごぼうのような腕をした、か細い少女が粘土のように、同じ人間を壊すことができる。なぜ、なぜなんだ。


あれ、もしかして…。マリアは人じゃない…?のか…


「阿蘭大丈夫?顔が真っ青だよ」


沙羅は僕の背中を擦る。


「ははは…。沙羅はよく冷静にいられるね。僕は無理だ…」


「あの映像は一昨日から何度も見てるし」


沙羅なら、今僕がみている未知の物の真実にたどり着いているんじゃ…。


「…聞かせてくれ。僕が見たあの少女は一体なんなんだ」


「多分あの子の腕は機械でできてる」


「は、機械?サイボーグだとでも?」


「あくまで予想だけどね」


そんなSFじみた事が…。いや、あり得るのか…?


つい最近蓬覇帝国では、人型ロボットで運動会が行われていた。他にも禪由市でサービスロボットもよく見かける。先進国の蓬覇帝国では、人を改造する技術が進行していても不思議じゃあない?


「超人体質の人間の可能性も考えたわ。ミオスタチン関連筋肉肥大の人だっているぐらいだし」


「?」


「ミオスタチン関連筋肉肥大は、先天性の筋肉の病気。普通の人よりも筋肉がつきやすくて骨密度も高くなったりするの」


「他にも常人よりも瞬発性の動きを発達させる、ACTN3遺伝子変異。限界まで筋肉を使い続けることができる、先天性無痛無汗症なんてのもあるわね。全部違うとは思うけど…」


「はは、すごいね。医療従事者かと思ったよ」


「阿蘭が聞いてくると思って準備してきたの。色々調べてる内にあの子は病気なんかじゃなく、改造人間の方が可能性は高い気がした。もしかしたら宇宙人かもしれないけどね…」


「それはない。僕は非化学的なことは一切信じない。沙羅も知ってだろ」


沙羅はクスっと笑う。


「ふふ、知ってる。もちろん冗談よ。阿蘭の疑問、少しでも解けた?」


「ああ。ありがとう。けどもしマリアがサイボーグだとしても、倫理観は相当ぶっ壊れてる。笑いながら人を虫けらのように殺せるんだ。後沙羅も薄々感じてるかもしれないけどあの子が「キキ」なんじゃあ…」


「うん。私もそう思う。後不思議なのがあの場所、去年はなかったの。当時はまだ、ただの山。ここ最近開拓して整備されてる。それに一番奥の建物、あれ外観は教会なんだけど、あの中が怪しいと思わない?」


写真だとよく分からなかったが、奥の建物は教会だったのか。


「怪しいね。どうする、明日にでも調べに行く?」


沙羅は首を横に振る。


「ううん、警備も知りたいし数日ドローンをとばして調べてみる。動くのはその後」


「分かった」


僕達が会話を終えると、気づけば家の近くの住宅街に着いていた。


先に沙羅を送る。


タクシーから降りる前に沙羅から「阿蘭夜ごはんあるの?ないんだったら作って持って行ってあげる」と言われたが、コンビニで済ませるよと無理やり断った。


自宅のマンションの前に着く。タクシーを自動巡回モードに設定し降りた。


エントランスの中に入る。一人僕と歳が近そうな男性が、自動販売機を利用していた。僕も買いたいものがあったが後にした。


エレベーターを4階に設定し、乗り込む。沙羅にはコンビニで弁当でも買うと言ったがあれは嘘だ。正直食欲なんて湧いてこない。すぐにでも床に就きたいぐらいだった。


4階に着く。変だな、普段は通路も電気がついているのだが、今日は真っ暗だった。まあ特に気にも留めず部屋のある左端に向かった。


部屋の前に人影が見えた。誰かが僕の家の前で座っているのだ。暗かったので一瞬昼間見たマリアと姿が被った。動悸がはやまり、血の気が引く。


「誰だ…」


持っていた携帯で座っていた人間を照らす。明かりと同時に座っていた人間は目を開ける。


「……」


どうやらマリアではなかった。白いワンピースに銀髪の髪、人形のように目鼻立ちがくっきりした顔。この少女は見たことがある。


少女は立ち上がる。僕はその瞬間何歩も後ろに身を引いた。


「……」


少女は無言のまま僕の方をじっと見る。僕はこの場を離れようか考えた。そして少し考えた後、そのまま後ずさりながら、少女と間隔が空いたと同時に駆け足で反対側の非常階段に向かおう…。


いやいや。相手は危険な猛獣か?僕の目にうつる少女は綺麗な顔はしているが、その辺の子共達となんら変わらない普通の子供に見える。


「君はなぜ僕の部屋の前に?」


一歩近づき、話しかける。僕が喋りかけると少女も口を開く。


「…すいは届け物を……」


「届け物?」


少女は胸から携帯を取り出し、そして誰かに電話をかけた。すぐにつながると僕に持っていた携帯を渡してくる。


「これにでろと?」


少女は黙って頷く。


携帯を受け取る。


「もしもし…」


「ごきげんよう」


聞いたことのある声だ。


「マリアか」


「あら。ご存知でしたか?」


「白々しい。昼間の飲食店で会っただろ」


「うふふ。そうでしたね」


「要件は何?」


マリアが僕に接触してきた。これは異常事態だ。以前沙羅も言っていた「周りを巻き込んだゲーム?」というやつが一気に真実味を帯びてきたな。


「明日の予定はございますか?」


明日…?昼間譲二と、明日スポーツセンターに行こうと別れたな。


「いや。特にないけど」


「まあ!では明日わたくしとデートしませんか?」


「は?」


「ふふっ。長侍ちょうじ様から阿蘭様の事は聞いていて、いつかはぜひお会いしてお話をしてみたいと思っていたんです」


「いかがでしょう?」


マリアは一体何を考えているんだ…?親父の名前まで出して。


「デート内容を聞かせてほしい」


電話の向こうでマリアは爆笑していた。


「あ、阿蘭様っ。面白すぎます。その返事は予想外すぎます。阿蘭様ってユーモアもお持ちなのですね」


「……ああ、そうだろ。…で何をするだ?」


「ふふ。秘密です。ですが悪いようには致しません。阿蘭様にとっても有意義な時間になると思いますよ」


……。どうするべきだ。一旦待ってもらって、沙羅に相談する?いや、僕の直感だが即決の方が安全な気がする。


しかし、このタイプと会話するのは人生で初めてだ。全く相手の出方が分からない。電話で少し高圧的に話してみたが、少女と電話越しとは言え、この喋り方は大分痛いやつだ、僕は。


「阿蘭様…?」


「え、ああ、いいよ。待ち合わせ場所はどこにする?」


「まあ!嬉しいですわ、ありがとうございます。あ、待ち合わせ場所ですか?お迎えに上がりますね。阿蘭様に来ていただくのは申し訳ございませんから」


「僕の家まで来る?」


「はい。よろしいですか?」


どうする。けど家は既にばれてるし…。まぁ…。


「いいよ」


マリアは再び感謝を伝えてくると。「おやすみなさい」と言い残し、僕から電話を切った。


あ、しまった。何時に来るか聞いてない。


目の前に立っている少女に携帯を返すと同時に


「ごめんけど明日の集合時間を12時って伝えてくれないかな?」


少女は分かったと首を縦にふる。その後すぐ、役目を終えたのか暗闇の中を歩いて帰りだした。


というかこの少女はどうやってここまで来たんだ。出るときは問題ないが、マンション内に入るときは、入居者の承認がいるはずなんだが…。




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