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最後の作品  作者:
2/4

マリアさん

入学式は約1時間で終わり、重要な事を二点ほど伝えられた。


まず10日後に講義が始まるので、それまでに各自で受講したい講義を入れておくこと。次に5日後に麩羅町ふらで一泊二日の研修があるので可能な限り参加するようにというものだった。


僕と沙羅は渋滞を回避する為、ある程度人が外に出てから体育館の外に出た。


「ふぅ~、早く終わったね」


沙羅は後ろから僕の肩を使って伸びをする。


「まだ10時過ぎだね」


「少し早いけどお昼にする?」


「いいけど譲二は?」


式中永遠に携帯に着信が届いていた。おそらく譲二によるものだろう。


「私の家の近くに行ってみたいお店があるの、いこ」


「おーーーい、阿蘭、沙羅!」


30メートル先から譲二の声が響く。


「お前らどこいたんだよ。後阿蘭、俺のメール無視しただろ?」


「式中はマナーモードにしたんだよ。周りの人に迷惑かけてもいけないからね」


「あ、なるほどな。沙羅お前は俺に何かいう事はないのかよ、え?」


「いう事…?あ、共感性羞恥になりそう」


「は?何それ」


「申し訳なかったですってこと。沙羅も謝りたいんだよ」


沙羅に後ろから軽く膝蹴りされた。


「まあ、謝りたいなら許してやらんこともないけどな」


沙羅に背中を軽くつねられた。



「で、昼飯の行先は?」


助手席の譲二は後部座席の僕たちに聞いてくる。


「沙羅は行きたい場所があるんじゃない?」


沙羅は体を近づけ、ポケットから携帯を取り出す。そしてあらかじめ決めていた場所の画像と住所を僕に見せてくる。


「ここなんだけど…」


教会のような窓と綺麗に立ち並ぶ机と椅子。高級そうなシャンデリアがつるされ、いかにもって感じのお洒落なレストランの画像だった。


「いいんじゃない。住所読み上げるよ」


「あ、ちょい待て。何系?」


何系?と聞かれても分からないんだが。


「俺さ、無性にラーメン食いたくなってきてさ。行きつけのラーメン屋さんがあるんだけどそこにしね?あ、さすがにわりぃな。阿蘭ルーレットのアプリ携帯にいれてあったろ。グルグルしてくれよ」


「はあ?ラーメン食べたいなら一人で行けば?私と阿蘭はこのお店行くから。じゃあね」


沙羅は僕の体を押して外に出そうとする。


「おい阿蘭、お前は雌が好みそうな草ばっかり出される店と男らしいガッツリ系のガテン飯もちろん後者だよなぁ?」


また始まったよ…。


「ええ、偏見きもちわるっ。私が行こうとしたお店、お肉料理の店なんだけど。ミソジニーの人と一緒の空間にいるだけで気分悪くなるから降りてくれない?」


「ああん?みそじんってなんだよ。これは俺のタクシーだ、お前が降りろ」


「だって、阿蘭降りよ」


「待て待て、阿蘭は置いていけ。俺とラーメン食べに行くんだからよ」


「え、ほんと無理。阿蘭は私のお店に対して、いいんじゃないって言ってたんだけど。もう忘れたの?」


「は?いいんじゃないって何となくいいんじゃないって意味だろ」


「え?あなた頭大丈夫ですか?私がお店の画像を見せてその後に”いいんじゃない”って返ってきたんだけど。国語の勉強一からやり直したら?」


「うっせぇな。黙れよブス」


「うわっ。本当に気持ち悪い人。知能の低さが3歳児ですね。情操教育の初歩からやり直したらどうですか?」


「はいはいはい。喧嘩はやめよう。今回は沙羅の選んだお店にする」


「は、なんでだよ?」


「順番だよ。今回は沙羅の意見に譲二が被せてきた。言い方も含めてだけど自分勝手に見えた」


「でも次ご飯食べに行くときは譲二を優先する。それでいい?」


譲二はかなり不満顔だった。小言もつぶやいていたが、そんな譲二を横目に沙羅は住所を伝える。


「禪由市厨家町482の7ね。分かった?」


「待て、48の次はなんだ?」


「482の7」


「はいはい。…着いたら起こしてくれ」


譲二はそう言い残すと、少し座席を傾け、体を倒し、目を閉じた。


譲二が睡眠不足なのは仕方ない。譲二の住んでいる多嘉厨市たかくりし別称四等級区は、僕と沙羅が住む明鄭市まではおおよそ2時間近くかかる。大学までは2時間半。恐らく今日もかなり早い時間に家を出発したはずだ。

課題等も多そうな栄華帝国大学では、この長い通学時間と帰宅時間がネックになる。今後は譲二に気を回して僕の家に泊めたりする必要があるかもな。


「阿蘭そう言えば、耳につけてるピアスどうしたの?」


「ああ。母さんに大学祝いに買ってもらったんだ」


「似合ってる」


「ありがとう」


「…あ、後さっき水鶏口先輩を見たよ」


「水鶏口?」


水鶏口灯くいなぐちあかり。僕たちと同じ亜噌高校出身の一学年上の先輩だ。高校在籍時は生徒会長も務めていた。後輩の面倒見も非常によく、とても慕われていた記憶がある。後、亜噌高校から4人目の栄華帝国大学進学者としてちょっとした有名人だったな。


僕と沙羅と水鶏口先輩の関係性は、二年時の文化祭にお世話になった事だ。半ば嫌々やらされた実行委員だったが。水鶏口先輩がいたおかげで何とか無事成功できた。


「どこにいたの?」


「壇上で入学式の準備してたよ」


「へぇ。大学でもし会ったら挨拶ぐらいはしておかないとね」


「阿蘭と先輩仲よかったもんね」


「別に仲良くはないよ。文化祭で初めましてで、終わった後は二、三回ぐらいしか喋ってない。連絡先だって交換してないし」


「ふーん」


「そういう沙羅こそ文化祭終わった後は、水鶏口先輩とどうだったの?」


「どうって?」


「ほら、沙羅は板書係だったのに全然黒板に書かなかったじゃん。それが原因で上級生と揉めて。仲裁にはいったの水鶏口先輩じゃなかった?」


「後、一年と二年のクラスの出し物が被って、沙羅が一年の方を優先しちゃったじゃん。二年のクラス代表が怒鳴り込んできて、その時の仲裁も水鶏口先輩だったし」


「他にも、色々と…」


「ふっ。そんなことよく覚えてるね」


「そりゃね。あの時の沙羅、少し問題児だったし…」


「あはは」


沙羅は口を抑えて爆笑していた。


「阿蘭ひどーい。ちゃんと理由があったじゃん。板書は各自に全部内容が記載されたプリントが渡されてるのに。重複してまでわざわざ書く必要あるんですか?って言ったら三年性の梵先輩が急に怒り出して、そんなこと言い出したの三年間でお前が初めてだぞって。「えっ、もしかして先輩って老眼ですか?ごめんなさい、配慮が足りませんでしたね」で、胸ぐらつかまれたんだよ。男子が後輩女子にすることじゃないよね」


「出し物だって、企画書見せられたとき、原価100蕃の物を50蕃で売ろうとしてるんだよ。調理器具にもお金もかかるし。どんな錬金術でも使うのかなと思ったら、具体案もなし。少しでも安価で客引きしたいのかもしれないけど、文化祭予算で解決しようとしてるのが丸わかり。頑張って企画書書いてきた一年クラスの方優先するのは当然じゃん。それなのに、同級生の加賀美君が「なんで一年の方採用してるんだ。空気読めよ」って、笑っちゃうよね」


「はは…」


…これだ。沙羅は自分に正直すぎる。変わった性格が原因で高校時代も、僕や酉井さん以外友達がいなかった。沙羅と波長が合う人間は、沙羅の考え方に寛容な人、もしくは自己主張が弱めな人だ。


「あ、水鶏口先輩のことよね。図書室で会ったときに挨拶するぐらいだよ。先輩、受験シーズンは校舎が閉まる前まで毎日勉強してたらしいし」


「へぇ」


まあ当然だろうな。沙羅は置いといて僕だって、三年時は毎日妥協せずに勉強していた。正直僕がこれほど苦しむレベルだ。譲二に志望校を聞いた時びっくりした。合格発表された時はさらに驚いたが。


「あ、もうつくよ」


携帯でナビを見ながら会話していた沙羅が、近くまで来た事を知らせてくれる。角を曲がったら目的の場所についた。


「ほんとにここ?」


写真で見た内装は飲食店だったが、僕たちの来た場所はどう見ても教会だった。


「う~ん。場所はあってるはずだけど…」


「とりあえず降りてみよう。反対側にあるかもしれないし」


爆睡していた譲二を起こす。


「ん~っ。着いたのか?…は?ここ?」


「そうみたい。とりあえず降りて探そう。車は結構停まってるから近くにあるかもしれないし」


やはり予想通りだ。三人で少し歩いていると、反対側とまではい言わないが、広い教会の右側に木造でできた小屋のようなお店があった。五人ぐらい女性が店の外で並んでいるから間違いない。


最後尾の人の後ろに僕達も並んだ。


「阿蘭、このお店はね鹿のポトフが有名みたいなの。それにする?」


「そうだね」


「ポトフってなんだよ?」


「肉の塊とか大きめに切った野菜を鍋で煮込んだものだよ。僕も食べたことはないから味は分からないけど」


「ねぇ阿蘭、多そうだったらシェアしない?」


「いいよ」


10分くらい待つとようやく店内に入れた。中は写真の通りのまんまだった。カウンター席が一つもなく、テーブル席が五か所だけ。学生は僕たちだけだ。店内の三組は女性同士と、一組が教会が近くにあるという事でシスター服を着た三人の…ん?子供?


金髪の髪をした端正な顔立ちの子供だ。雰囲気が大人びているので一瞬大人かと思ったが。


店員に誘導されたのはちょうど三人組で座っているシスターたちの真横の席だった。


席に着くと同時に、正面に座っていた譲二が、後ろを振り向いてシスター達に話かける。


「こんちは。そこで働いている人っすか?」


「ええそうですよ」


振り向いて答えてくれたのは金髪の少女だ。残りの二人も急に話かけられても一切驚くそぶりもなくニコニコとほほ笑んでいた。


「へぇ。じゃあこの店には何度も来た事ある感じで?」


「はい。セクトの前に毎日来ています」


「セクト?ま、いいや。この店のおすすめとかって何なの?」


お勧めは店員に聞けよと思った。


「沙羅、セクトって何…?」


隣に座っている沙羅に小声で意味を尋ねる。


「えっと、確か正午に行われる祈りの時間の事だったと思う」


「なるほど…」


僕たちに対して一切気を使うこともなく、譲二と金髪の子は会話を続ける。


「へぇ、シチューねぇ。ありがと、それにしてみるわ」


「お嬢さんもシスターなの?」


「はい、そうですよ」


「ふーん。てっきり大人しか働けないと思ってたからさ」


…少し変だな。譲二と少女の会話に違和感はない。違和感があるとしたら、隣同士で座っている大人二人だ。会話にも参加しないし、ずっとニコニコと笑っているだけ。教会の人ってこんな感じなのか?


「色々教えてくれてありがと。最後に君の名前だけ教えてくんない?あ、変な意味じゃないんだ。こんなに親切に話してくれた人の事を覚えておきたいからさ」


「ええ、いいですよ。マリアです」


 ん?


 マリアですといった時、一瞬僕と少女と目が合った気がした。


 …気のせいか?


「真理愛?へぇ、覚えとく。真理愛ちゃんありがと」


会話を終えるとマリアは体を戻して、シスター達と再び話はじめる。


「またナンパ?信じらんない」


「あほか、子供相手にナンパなんてしねぇよ。注文するぞ、何にするか決めたか?」


「決めたよ頼もう」


呼び鈴を鳴らすと店員がやってくる。僕と沙羅は入店前に決めたポトフと、シェアできるように大きめのサラダ。譲二はお勧めと言われていたシチューとセットのパンとサラダ、それから取り分け皿を二つ頼んだ。


気づくとシスター達は帰っていた。


「あの三人どう思った?」


僕は二人に気になった事を聞いてみた。


最初に沙羅が答える。


「変ではあるね。後ろの二人は子供の付き添いって感じはしないし、普通に同僚かもしれないけど、パワーバランスはあの子が一番強いと思う。任せているというよりは引いていた感じに近いかなぁ」


へぇ…。


「は?何言ってんだ。なんとも思わねぇよ。親切で優しそうな人たちだったぐらいだろ」


「ってか阿蘭、そんなこと聞いてどうすんだ?」


「別に…。珍しい三人組だったなぁと思っただけ」


食べ終えると少し休憩し店を後にした。


「ふぅ。思ったより美味しかったな。この後どうする?」


「僕は履修登録を済ませたいから家に帰るかな」


「じゃあ私もそうする。後阿蘭、どの授業入れたか後でメール送ってね」


「は、お前らもう帰るの?」


「やることないしね」


「昨日行ったスポーツセンター行こうぜ」


「明日ならいいよ。そもそも遊びに行くとしても着替えなきゃいけないし、どうせ家に帰るなら休むよ」


「うーん。まっいいか。じゃあ夜メールするから明日の予定決めような」


最初にタクシーで沙羅を送り、次に僕の家に送ってもらった。




15時過ぎ沙羅が僕の家にやってくる。




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