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最後の作品  作者:
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入学式

「アソダ ョゲ キゲンヨ ウンアソダ ョゲ キゲンヨ ウン アソダ ョゲ キゲンヨ ウンアソダ ョゲ キゲンヨ ウンアソダ ョゲ キゲンヨ ウン アソダ ョゲ キゲンヨ ウンアソダ ョゲ キゲンヨ ウンウゥうウゥうウゥうウゥうう......」


「んっ…」


 横で寝ているMIRO(犬型ロボット)の頬を擦る。体温を感知すると自動的にアラーム機能が停止する仕組みなのだ。微かに熱を帯びたミロを体に寄せ、寝たまま抱き抱える。徐々に冷えていくミロを肌で感じる。これが僕の毎朝のルーティンだ。


 早朝の眠気、低い血圧、それらに耐えてベッドの布団からでる。カーテンからの光漏れで照明のスイッチコンセントを探す。目が覚めない中、薄暗い部屋を探索するのは大変だ。


「っ、うわぁ...」


 あ~あ、やってしまったよ…。

 

 畳んでおいた衣類がぐちゃぐちゃに散乱したのだ。つま先の感触で分かる。さっさとクローゼットなり衣装ケースなりに入れておかないからこうなる。実家暮らしの時は母が全て家事はやってくれていた。今さらながら母の偉大さを思い知る。


 しばらくふらふらと歩いていると、よーやくスイッチコンセントを見つける事ができた。部屋の中が照明の明るさで満たされると同時に絶望感が僕を襲う。先程の散乱した衣類もそうだが、部屋の端々に置かれた大量の段ボールの山もそう。このアパートに越してきて早三日、大学の準備、住民登録、こちらで使う物の買い出し、それから友人の相手等々、本当に用事ごとがいっぱいで部屋の片付けなんて全く追いつかなかった。


 いやぁ~、本当に大変だった…


「ん?」


 机の上に置かれたデジタル時計は8時7分と表記されている。これは…


「最悪だ...」


 思わず心情が吐露してしまう。本日二度目の絶望。まーたか。


 ミロは愛玩ロボットの中でも相当型が古いものだ。それを何度も何度も僕が修理して使ってきた。だがその弊害か、今回みたいに一時間近くアラームがずれる事はたまにある。そのたまにが大事な大事な今日訪れてしまったのだ。


「ゲンキヵ ゲンキァキャヵ キアガァゲンキヵ ゲンキァキャヵ キアガァゲンキヵ ゲンキァキャヵ キアガァゲンキヵ ゲンキァキャヵ キアガァゲンキヵ ゲンキァキャヵ キアガァ カカカカカカァ......」


 ハイハイと、まあこんな感じで勝手に起動して喋り始める事もたまーにあったな。

 

 今僕の眼前には、布団の上をグルグルと走り回りゲンキか?と喋り続ける虚しいミロの姿が映った。


「ふぅー」


 僕の友人が以前、素晴らしい助言をしてくれた。「いかなる状況でも時間だけは過ぎるんだよ」と。今がまさにそれか。


 寝坊した事はしょうがないな。急いで準備をしよう。

 

 僕は冷静に分析してみた。今から五分で準備して家を出る。それからタクシーを探して大学に向かう。受付の事を考えると最低でも十分前にはついておきたい。もしもタクシーを拾えなかった場合は走って一時間以上かかる。つまり間に合わない…

 

 どれだけ早く家を出てタクシーを探せるかが大事。よし分かった、行動しよう。


 まず洗面所に行き顔を洗う。タオルを探す時間が惜しかったので、汚いが袖で顔を拭く。そして再び寝室に戻る。スーツ類だけは型崩れを防ぐため、クローゼットに掛けていた。それに手際よく着替える。


「後は…えっと…」


 床に置いてあるクラッチバッグを拾う。そして中身を確認する。事前に準備していた、携帯、生徒証明書、財布、メモ帳、腕時計、住民カードが入っている事を再確認した。


「ああそうだ、あれも」


 フープピアスを机の引き出しから取り出す。これは大学の合格祝いに母からプレゼントされた物だ。それを耳につける。


  よし、これで準備は終わり。時計を確認した。8時14分か、許容範囲内だ。


 動作停止しているミロを床から拾い上げる。そして首元の電池を抜く。また勝手に起動して壁にでもぶつけられたら、壁が傷むしミロも壊れる。家を出るときは再起動不可にしておくに限る。


「行ってきます」


 誰もいない部屋に別れをつげる。扉を閉めたと同時に”カチッ”と錆びた聞こえた。


 ここに引っ越して一番びっくりした事それは、マンションが全てオートロックで勝手に閉まるのだ。防犯対策なのは分かるがドアの鍵が住民カード以外存在しないのは大問題だ。明鄭市めいてい別称二等級区では住民カードは一人一つ。再発行はできるが後日になる。つまりカードをなくしたり部屋に忘れたりすると家に入れない。そして最も困る事が、三等級区以上の都市はほぼ全ての店が、支払いは住民カードのみになる。そう、たかがカードがないだけで飯も食えないのだ。


この住民カードは、世帯収入、家族の勤務先、犯罪履歴等を国がデータベースで管理、数値化し仕分けられる。移住民は数字によって住む場所も変わる。極端な話、五等級区では犯罪者や貧困民。一等級区では名家などの上級国民が住める。住民カードは日々数字が変動しており。下がると現在住んでいる場所から立ち退き勧告。一方上がれば上位区への住居権を得ることができる。でも国民は、自分の数字も住居権のラインも分からない。


 なるほど素晴らしい仕組みだ。悪さも出来ないし努力をやめる事も出来ないとはね。


僕は運よく10%未満しか住めない二等級区以上に住めているし、住民税もタダ。しかも学生は毎月生活に十分なお金がカードに振り込まれる。はは、差別国家万歳だよ。


 ま、どうでもいいが…。


マンションの階段を急いで降りた。普段はエレベーターで降りるのだが、時間がないときは、避難階段で降りるほうが僅かに早い。


降りた先に、一台の無人タクシーが横付けで停められていた。


馬鹿な人間もいたものだ。タクシーは既定の駐車場以外に停めておくと厳罰対象となる。もしもマンションの管理にや、正義感の強い人間に見つかったら通報されるぞ…


 ま、僕には関係のないことだがな。どの世界にもルールを順守しない人間はいる。この車の乗り手もそうなんだろう。よほどの怖いもの知らずだな。


タクシーが邪魔だったので脇を通り抜けることにする。まさか中に人が乗っているとは思いもしなかった。助手席のドアが急に開いたので危うく尻もちをつきそうになった。


 で、運転席側から出てきたのがこれまた見知った人物だ。


「うわぁ、君か…」


 おい阿蘭おせぇぞ。何やってたんだ?」


 ”おい阿蘭おせぇぞ”と目の前に立つこの男、彼の名は郡譲二こおりじょうじ。僕と同じ亜噌あそ市出身だ。体が非常に大きく、特に縦幅は190cmを超える。横で並ぶと僕が弟だと勘違いされることも度々ある。最近は髪色も赤茶色に染めた。なぜその色に染めたのかを聞いてみると、本人曰くアニメのキャラクターに触発されたらしい。触発された影響は髪色にとどまることなく、頭には緑のバンダナ、首元には赤いスカーフ、上着も十字架のロゴがいれられた黒のレーザージャケット。ズボンは真っ白のジーンズ、靴も膝下まである黒のブーツだ。右目に黒の眼帯も付けたいと言っていたが、僕と沙羅が全力で止めたことを覚えている。


 ただ悲しい事は、本人とそのキャラクターの相違点は地肌の違いだ。「どうしても俺は白肌にならなければいけない」と謎の使命感から一年間、極力日光を浴びない生活を送っていた。体育の時間も体調不良を理由に休むほどに。しかし家系遺伝的なものなのか、本人の努力虚しく地肌が白くなることはなかった。


で、そんな譲二に問いたい事がある。


「なんで私服なの?」


「は?いきなりする質問がそれかよ。服装なんて俺の勝手だろ」

 

 譲二の返答は的を得ていない。たたでさえ強烈なコスプレを着用している。僕らと会うときは毎回同じ格好だ。まぁ普段の格好についてのそれは一旦置いておく。僕が論点に挙げているのは、”入学式の日にスーツじゃないのはなんで?”だ。確かにPCに送られてきた要項には入学式の服装していはなかったが…。いやそもそも大学側もそんな当たり前の事は記載しないだろ。偏差値70を越える栄華帝国大学、当然だ。スーツを着用してくることも当然だよ。 


「今日が何の日か知ってる?」


「入学式だろ」


なるほど、その概念は存在してるんだ…。


「阿蘭、お前は俺の事を全く理解していないな。俺はいついかなる時もラビィの格好をやめたりはしない。親が死んで葬式が行われようが、友達が盛大な結婚式を挙げようがそれは変わらない。今日みたいな入学式も同じだ。いいか、これは絶対だ」


「はは…」


これなんだよな、譲二という男は。彼は他人の意見を取り入れようとはしない。今から一時間後必ず恥をかくだろう。その時に…


…いや違う、その前の段階だ。いつものやり取りが始まる。「阿蘭はどう思う?このバカのふざけた格好」「おい阿蘭、俺はおかしくないだろ」の二つの意見が交差する。今脳内で容易に想像できた。僕は毎回沙羅の意見が正しいと考える。ま、誰が聞いても客観的に判断すれば沙羅が正しいと答えるだろう。でも沙羅を肯定しすぎると譲二がはぶてる。前回は、「はいはい、お前ら夫婦は正しいですよ。どうせ俺は異常者なんです。でもな、いつか気づくぜ俺という大切な存在を失ったときにな…」と、こんな感じでメンヘラモードになってしまう。さらに面倒くさいのが、これが数日間続くのだ。


 スーツ論争、どうにか回避したいのだが…。                


「じょぉかおーっ!!」


「!?」


「阿蘭、お前の悪い癖だぞ。突然自分の世界に入り浸る所。格好の話なんてしてる場合か?時間は把握してんのか?」


 時間…?


「あっそうだよ!こんな所で譲二の生活指導をしてる場合じゃない」


「だろ。俺は別に遅れてもいいが、お前は嫌だろ。遅刻なんて」


「当然だ。入学早々遅刻なんてできるか」

 

 しかし助かった、譲二の乗ってきたタクシーに乗れば間に合うかもしれない。


「おし分かった。さっさと後ろに乗れ」


僕は言われるがまま急いで後部座席に乗る。助手席に乗った譲二は車のモニター画面で住所検索を行うが…。


慣れない手つきのせいで焦燥感に駆られる。慣れていないのはしょうがない。無人タクシーは運転手がいるタクシーとは全くの別物なのだ。操作手順がある。まず最初に住民カードを差し込む。次に指紋認証。そして認証されたら住所を打ち込む。住所が分からない場合は、映像検索も現在位置からできるが‥


 今は時間がない。譲二は一生懸命... ん?


譲二は色々な番号を打ち込んでいた。しかし何か違うと何度も首を傾げている。


 まじかよ…。


「而摩町2丁目185番地7だよ」


僕はしびれを切らしてバッグからメモ帳を取り出し、事前に書いていた大学の住所を伝える。


「あ、それだそれ。わりぃ」


ようやく打ち込みが終わる。タクシーは確認を終えると自動で動き出した。これで一安心。


一安心した所で、気になった事を聞いてみるか。


「ねぇ、なんで僕の家の前にいたの?昨日のメールでは、8時半に大学の駐車場に集合だったよね」


「何でだと思うよ」


質問を質問で返すなよ、面倒くさいな。


「やっぱりどうでもい‥」


「あ、ちょい待て。言うから聞けよ」


「実はな、お前のマンションに向かう前に沙羅のマンションにも立ち寄ったんだよ」


「うん」


「あいつさ、せっかく迎えに行ってやったのになんて言ってきたと思うよ?」


「…何て言われたの?」


「一人で先に行けだってよ」


「そうなんだ」


「はぁ!?そうなんだぁじゃねぇだろ、ふざけんなよ。阿蘭俺たちは亜噌からの馴染みじゃねぇか。大学だってな一緒に頑張って勉強して合格できた。そうだろ?そういわば一蓮托生の仲だ。ちげぇか?」


「うん、そうだね」


「だろぉ。で、阿蘭お前はどう思うよ」


「どう思うって?」


「はぁ?」


譲二は僕の対応に腹を立てたのか、身に着けていたバンダナを運転席側の窓に投げつける。


「だ、か、ら、な。せっかくみんなで一緒に学校に足並み揃えて行こうぜって所を勝手にひとりで行けだぞ、こんなにむかつくことあるかよ、そうだろ?」


「うん、なるほど。譲二が怒ってる理由は納得した」


「おお、珍しく俺を肯定してくれるんだな」


「いいや肯定はしてないよ。譲二が怒った理由に納得しただけ」


「は、どういう事だよ」


「話を戻すけど沙羅の家に向かった理由は?」


「おいさっき説明しただろ。みんなであしなみ…」


「それだよ。三人で一緒に行きたい、ならその旨を昨日の夜メールで伝えればよかった。沙羅は計画性がない行動に嫌気がさしたんじゃないかな?」


「阿蘭、サプライズって知ってるか?プレゼントだって渡す前に中身を教えたらつまらないだろ?


「プレゼントならね」


「ふっ、ふへっふへへへっ」


 壊れた?


「沙羅は俺と阿蘭が仲良く登校してたらどう思うだろうな?今から想像しただけで楽しみだぜ」


「僕たちが着いた時には駐車場にはいないと思うよ。30分は確実に過ぎるだろうし、先に館内に入ってるんじゃない?」


「それはそれでもいいじゃねぇか。中で会ってもあいつはこう思うぜ。わ、私だけ仲間外れなんてそ、そんな…。あんまりだよぉ。あの時にぃ、譲二君と一緒にぃ、来ればこんな悲しい思いしなくてすんだのにぃ…。かなちぃよぉ~ってな」


「そんでもってあいつは、俺たちというかけがえのない仲間を失ったと思い込み、大学の4年間でも友達も作れずに可哀そうな4年間を過ごし、一人で悲しみに暮れながら卒業を迎えるんだぜ。はははっ」


「ははは…」


沙羅の性格上、友達を作れずにはあるかもしれないが、被害妄想で4年間を過ごすほど落ち込みやすいタイプではない。譲二は日頃の鬱憤から、沙羅を度々脳内で弱者設定する節がある。もう少し誠実に付き合えば関係も良化できそうなものだが…。


その後も譲二は永遠と沙羅に対する不満を述べる。「鳥頭、鳥頭、バカにされまくる事」「会話中たまに他人行儀のように敬語で喋られる事」「メールの返信が異常に遅い事」などなど。何度も似たような話が重複するので聞いているふりをして過ごした。


「昨日だってな、阿蘭が助手席に座った時にあいつ、わざわざ運転席に座りやがってよ…」


禪由市はいつ見ても綺麗だ。立ち並ぶ高層ビル、高級住宅街、大型ショッピングモール、中が透けているレストラン。道もゴミ一つ落ちてない。歩いている住民もどこか気品が漂う。僕たちが住んでいた亜噌市とは大違いだな…


こんな場所で人探しか…。


「おい阿蘭」


「ん、なに?」


「右側見てみ」


 右?


「なにあれ」


 目線の先には四角い真っ黒の建物がポツンと佇んでいる。いやよく見ると五角形か。高さは周りの高層ビルと同じだが、明らかに歪。例えるなら、コンクリートジャングルが生い茂る中に宇宙船が不時着したような光景。いや、自分でなにを言っているか分からないな。でもあんな物がなぜこの町にあるんだろう…?


「市場だ」


「市場?」


「そう公にはそう伝えられている。ただ一部の人間しか入れないがな」


「意味深だね。譲二は中に入った事があるの?」


「ねぇよ。軽く聞いただけ。友達にな」


「友達。その人を僕は知ってる?」


「いいや絶対知らねえな」


「…。禪由市ぜんゆに来る前からの友達?」


「阿蘭、お前もその内会うよ」


「ふーん」


あまり話したくないのか?


譲二の性格上、続きを聞けば話すかもしれないが…。


「あと他にもな」


再び譲二は沙羅への文句を言い始める。





8時50分大学の駐車場タクシー置き場に到着。降りて辺りを見渡す。数百台の空タクシーは停まっているが。人はほとんど見当たらない。


「沙羅いねぇな」


「まぁね」


入学式は大学の別館にある。別館は駐車場の真横にあるのでこれだけ遅くなっても時間はギリギリ間に合うはず。


とりあえず急ごう。


別館の前には、僕たちと歳が近そうな男性と女性が、等間隔でタブレットと冊子を持ち立っていた。


「おはようごさいます。入学式会場はこちらです」


「お姉さんはバイトっすか?」


「え?」


あ、しまった、僕としたことがやらかした。譲二と一緒に来てしまったのだ。譲二は今コスプレをしている。子供には笑われ、中高年には失笑され、女子高生には写真を撮られる。僕と沙羅は何度恥をかかされたことか。


沙羅が譲二と一緒に来たくなかった理由も分かった。僕はマヒしていた。


「中に入ってもいいですか?」


隣にいた受付の男性に確認する。


「あ、待ってください。住民カードをタブレットにかざしてもらっていいですか?」


言われた通りかざした。確認を終えると冊子を一冊手渡される。受付中男性は、何度も譲二の方を見ていた。譲二の対応をしていた女性は口角が吊り上がり必死に笑いを堪えている。


先に受付を終え館内に入る。中は体育館だ。しかし規模が違うな、僕の高校の時の体育館の5倍以上は広い。それに人の数も凄いな。ざっと見千人以上はいそうだ。これは沙羅を探すのは無理かな。とりあえず目立たない端の方に移動しよう。誰かさんと一緒にいたくはないからな。


「……すごいね」


「なにが?」


彼女は周東沙羅。譲二と共に亜噌市から上京してきた友人だ。一言で彼女を言い表せば天才。13都市統一で行われた模試では約三万人中4番をたたき出している。それに彼女には特殊能力がある。カメラアイ。文字通りカメラのように一瞬で映像を鮮明に記憶できる。沙羅はそんなの違うよと否定するが、僕はそうだと確信している。以前実験として難易度の高いフラッシュ暗算を沙羅に試したことがある。「ごめん、一旦ノートに数字書いていい?」

沙羅はこう言うと、ノートに映し出された20の3桁数字を書き出した。その瞬間確信に変わったのだ。


容姿に関して言えばいい方だとは思う。個人評価ではなく客観的に。華奢な肩幅に白い肌。憂いを帯びた琥珀色の瞳。長い睫毛。か細く鈴の音のような澄んだ声。そしてトレードマークの長い後ろ髪。背丈は詳しくは分からないが、僕より十センチ低いぐらい、だから150後半ぐらいかな。


で、そんな沙羅さんが僕の目の前にいた。


「メール、阿蘭見た?」


僕は冊子を鞄に入れると同時に携帯を取り出す。メール履歴を確認すると三件ほど届いていた。着信も二件ほどある。


「見てないね。寝坊?珍しい」


「焦ったよ、でも譲二が迎えに来てくれて助かった」


「あいつ近くにいるの?」


沙羅はあたりを見渡す。


「いないよ。いつもの服装で来たから流石にまいた」


「ふーん」


沙羅は自身の髪を片手ですくうように軽く触り始める。


「髪切ったんだね」


「昨日ねー」


「前後ろを三センチぐらい切って、後は全体を少しすいた感じ?」


「前髪は正解。後ろはそんなには切ってないかな。変…?不安だったんだけど…」


「正直に言っていいの?」


「お願い」


「印象はあんまり変わってないかな。人間って劇的な変化があるときじゃないと評価しづらい」


「酷いね君は」


「自覚してる、ごめん…」


「ふふっ」


沙羅は少し目がへの字になり、口角が広がる口を手で覆い隠す。そして笑いを誤魔化した。この仕草が出るときは沙羅がご機嫌な時だと思う。


少ししていつもの表情に戻った。
















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