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竹の浮橋  作者: 加藤無理
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伝わる警戒心

 昼喜は丁度十時に来た。五分ほど鎖を探す。地味で安物の服を着るのか、もっと女性的な格好をするのか分からない。丸々と太った女もいれば、骨が浮き出るような痩せた女もいる。華やかな女が颯爽と歩いたり、古着で頼りなく歩く老女もいる。少年も青年も老人も沢山いるが、男は皆邪魔くさい。美形も不細工も華奢も筋肉質も、男はうざったい。軽やかな女学生達の会話よりも、大声でじゃれ合う男達の声の方がうるさい。


 売店近くで俯いて立っている女がいた。露出度は低いが安物の上着と少し厚手のズボンに運動靴を履いている。肩に大きめの鞄を掛けているが、底の方が少しほつれ始めている。普段着を着ている今の昼喜の方が洒落ている。


 目を凝らすと女は不機嫌そうに考え事をしている。昼喜が女の正面から横側の位置に立って確かめる。俯いているから分かりづらいが、鎖だ。昼喜は鎖を呼んだ。


 鎖は不安そうな顔をしている。昼喜を苗字で呼ぶ。昼喜は思い切って鎖の手首を掴んだ。油断しているとすぐにでも鎖が去りそうな気がした。


 歩いていても鎖は昼喜の後ろに何度も下がろうとするし、擦れ違う自転車や通行人に怯えている。確実にぶつからないように大袈裟に避けようとする。対人恐怖症なのか遠慮し過ぎているのか、鎖は申し訳なさそうに俯きながら歩いている。


 昼喜は鎖を離すのが不安になった。昼喜を警戒しているだけではなく鎖は全ての他人を避けようとしている。もっと堂々と歩けば良いのにと昼喜は思う。不快よりも心配を感じる。


 暮し向きや趣味や世間話を色々と質問したかったが、昼喜は黙っていた。鎖も喋らない。


 一緒に歩いてみて昼喜は鎖が平均的な女性よりも速く歩ける事に気付いた。昼喜は少しずつ歩調を変える。鎖が肩に掛けている大きな鞄が身体に時々当たる。痛くはなかったが、少し気になる。着替や財布やペットボトルの他に何か有る。本や筆記用具かと思ったが、更に何か入っている。化粧品ではない。鞄はファスナーでしっかり閉じていて中は確かめられないが、防犯グッズだろう。感触や揺れる音からナイフも有るかもしれない。


 昼喜と会う事に鎖はさんざん迷ったはずだ。昼喜を警戒しているが下手な刺激を与えなければ殺傷するつもりは無いだろう。ナイフを所持している可能性を考えると昼喜は悲しくなるが、怒りは無い。最初に鎖から近寄って触れてきたけれど、一歩間違えれば昼喜の方が性犯罪者だ。鎖は馬鹿じゃないだけだ。


 鎖は年下の男に誘われて舞い上がる年増ではない。感情や欲求をいつも抑えているのだろう。


 肩から鞄が何度も落ちそうになるが鎖はもう片方の手ですぐに直す。昼喜は何も言わなかった。

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