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竹の浮橋  作者: 加藤無理
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再会の決断

 あの後、鎖は練馬区にある自宅に戻って急いで食事と入浴を済ませて寝た。翌日に出勤したものの、集中力が低下して何度も失敗をしそうになった。上司や職場仲間に調子が悪いと伝えたが、何とか仕事をした。


 あれから十日ほど経った。河原での出来事は誰にも話していない。実家は鎖のアパートから少し離れた所で人参と白菜を栽培して生計を立てている。両親とは月に一度ほど会っている。


 鎖自身は練馬区内にある清掃会社で働いている。介護施設や会社の事務所に行って冷暖房や床を掃除している。鎖は免許証を持っているが運転が下手なので上司や社長に乗せてもらっている。腕力に自信は無いがなるべく資材や機材を率先して運ぶ。


 社長も上司も失敗や怠惰を嫌い、叱責するが、暴力を振るわないし怒鳴りもしない。具体的に問題点を指摘して簡潔に指示を出す。冗長なイビリはしない。従業員達が勤勉に働けばそれなりに評価する。


 休日は必ずしも祝日や土日とは限らなかった。平日に休業することもある。この間は平日だったが、会社は休みだった。


 鎖は正社員ではなかったが、十年近く働いている。一週間に二日ほど休めるし、一日八時間以上は働かない。決して高収入ではなかったが、少し節制すれば手取りで十分に自活出来る。


 昨日から月経が始まっている。しかし二十代と違って三日ほどで終わり始める。このままだと後五年ほどで更年期障害が始まって五十歳頃で閉経するのだろう。何となく鎖はそう思う。


 新垣昼喜。鎖の年齢を知っても尚、会いたがっていた。鎖の服装や容貌や体形が平均以下だと十分に分かっているはずだ。鎖には昼喜が何故会いたがっているのか分からないし、危険性すら感じた。昼喜が快楽殺人や性犯罪者かもしれない。鎖を恋慕しているようには思えない。寝ている所を弄ばれて執着しているのだろう。


 しかし昼喜は念を押してきたし、名前と年齢を二度もいてきた。来なければ来ないで怒るだろう。昼喜が通信関係の仕事をしていたり情報技術に詳しければ鎖の住所や職場を探し出すかもしれない。鎖はSNSを最小限にしか使わないし本名も明かしてないし自撮りもしない。ブログや小説サイトを利用しているが、個人情報をなるべく曖昧にしている。


 警察に通報しようかと鎖は考えたが、そもそも鎖の方から昼喜に近付いて触れたので、警察から注意されることはあっても、被害届は受理されないかもしれない。


 あの日以来、性欲が刺激されている。自宅に戻って寝る前に軽い自慰をする。膣を直接触るわけではないが、ズボンやショーツの上から股間を擦る。あの時の昼喜の感触がありありと蘇る。


 二十代の頃から時折、性欲が湧くことはあったが最近は特に強い。あの日から十日も経っているのに落ち着かない。


 鎖は四十歳になった。昼喜との再会を断念すれば性交する機会は無いだろう。


 鎖は数日後の休みにホームセンターで果物ナイフと催涙スプレーを買った。昼喜が犯罪者ならばそれらで身を守れるかもしれない。丸腰よりは良いだろう。昼喜と会う前に銃刀法違反で捕まるかもしれないが、その時には事情を話す。刑が軽くなるとは限らないが通り魔だと誤解されたくはない。


 昼喜と会おう。鎖は決めた。会社には最も好きなバンドのライブが有ると偽って出勤日を変えてもらう。

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