年齢
女は美人でもなければ地味でつまらない服装をしている。けれども昼喜の指を動かしていた女の手を昼喜は不思議と不快感を感じなかった。逆に昼喜が女の首から腹まで擦ると女は愉悦を隠せなかった。最初は女には緊張と恐怖が勝っていたようだが、昼喜が優しく触れるようになると、女の身体が解れていった。
これほど性的に過敏な女は初めてだった。先程の口付けも慣れていない様子だった。性欲は十分に有るようだが普段は抑えているのだろう。
女はハッキリと処女だと認めたが、どう見ても三十歳ぐらいだ。もっと身だしなみを整えて愛想良く振る舞えば、欲求不満で愚かな男を十分に誘惑出来たはずだ。十代後半から二十代の間に性体験が有ってもおかしくはない。
しかし、女は何度も拒もうとしたし、寝ている昼喜の身体からわざわざ手を選んでいた。昨今、性体験が皆無な三十代は珍しくない。女は嘘を言っていないのだろう。
昼喜は女の身体から右手を離すと、
「また俺に会ってくれたら今日は諦めるよ」
昼喜の左肘と左手は女の両手をまだ離さない。女は揺れる瞳で、
「私はこの近くに住んでない」
昼喜は軽い溜息を吐き、
「それなら、来月の今日、俺の家に来て」
女は首を傾げる。昼喜は最寄り駅とその路線を教えた。足立区内の某所だ。女は不安そうに復唱して確認した。昼喜は頷き、
「朝の十時に駅の西口に来て」
女は躊躇いがちに頷いた。昼喜は、
「名前と年齢を教えて」
女は黙っている。昼喜は、
「俺は新垣昼喜。丁度、三十歳」
女は困った顔をした。昼喜は、
「新たな『新』に垣根の『垣』、昼間の『昼』に喜ぶの『喜』。変わっているけど祖母が名付けてくれた」
女は腑に落ちた顔をして、
「新垣昼喜」
昼喜はクスッと笑い、
「貴方の名前は?歳は?」
女は目を泳がせながら暗い声で、
「小野寺鎖。鎖はチェーンの鎖。私も変な名前だけど。実はもう四十歳」
昼喜は息を飲んだ。自分と年齢はさほど変わらないと思っていた。ゆっくりと鎖の手を離した。鎖は急いでズボンを上げて着直す。昼喜も上体を起こす。鎖に振り返り、
「十月二日、必ず来て」
落ち着いているが、ハッキリした口調で念を押した。鎖は不思議そうに眉を寄せたが、
「分かった」
そう言い残すと踵を返して立ち去った。昼喜は暫くそれを見送ると、河原で干していた服を拾って着始めた。石で押さえていたので風に飛ばされていなかった。




