手
蝉が鳴いている。肌を刺す様な暑さ。新垣昼喜は川岸の岩の上で仰向けに寝ていた事を思い出した。腕が伸びて手が何かに弄ばれているのを感じた。昼喜はスッカリ覚醒したが下手に動くと危険だと思って目を開けなかった。その代わり、川面の上に投げ出していた足の指が動く。
昼喜の手を弄んでいるのは虫でも爬虫類でもないようだ。独特の冷たさが無い。毛の感触ではないので哺乳類でもないようだ。蝉の鳴き声の他に音は無い。目を閉じているから視界は暗い。しかし人間の気配がする。誰かの手が昼喜の手を動かしているのだ。腕の感覚からして相手は大人。子どもならば腕はもっと下がっている。指や掌の触れ具合からして女。痛みどころか心地良さすら感じる。相手の指の太さや手の厚さは男とは違う。男だとすれば相当華奢だ。
昼喜は眉も瞼も動かさず、手も女の思うがままにした。女は昼喜が覚醒した事に気付いていない様子だ。昼喜は女の手の動きから手首の位地を想像した。
女の手首が丁度良い位地に来た瞬間、昼喜は一気に女の手首を掴んだ。蝉の声に紛れて女が息を呑むのが分かった。女が手を振り解いて離れる前に昼喜は女の手首を思い切り引っ張った。ジャリっと女が一歩前に出て踏ん張った。
昼喜は目をやっと開ける。女と目が合う。女は怯えている。昼喜は自分の鎖骨下に女の手を置く。女が驚いている間に左肘と鎖骨で女の左手首を挟み、左手で女の右手首を掴んだ。女が手を振り解いて離れようとしても、昼喜はしっかりと左腕と左手で捉えている。
空いた右腕を伸ばして女の後頭部に右手を置く。女の目が更に丸くなる。昼喜は頭を上げながら女の後頭部を押して顔と顔を近付ける。女が口を開けて何か言おうとしたが、その前に昼喜は女の口に口付けをした。舌を出して女の歯と舌を舐める。女の口が閉じて噛まれないように、昼喜はしっかりと右手で女の後頭部を押さえながら自分の頭を上げて唇と唇を合わせた。女の顎が動けないようにした。舌で女の口の中を探る。
「ウッグッ」
女が唸った。昼喜は右手を緩めながら頭を下げた。一気に顔が離れて、
「ゲホゲホゲホ」
と、女がむせる。本当に苦しんでいるのか目を閉じながら咳き込んでいる。昼喜は女の後頭部を撫でながら落ち着くのを待った。
目を開けた女が不思議そうな顔をしている。三十歳前後の様だが全く化粧をしていない。そのわりには肌質は悪くない。突然の事で驚いたのか照れているのか頬が赤い。女は後退りしようとしたが、昼喜が先程から左腕と左手で女の両手を押さえたままだ。
昼喜は女の後頭部から右手を離す。




