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竹の浮橋  作者: 加藤無理
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始まりと苦い経験

 鎖の話を聴いて昼喜は少し胸が痛くなった。鎖が生活保護受給者であっても、前科があっても驚きはしなかった。実際に鎖はそのどちらでもないようだが、幼少期に名前を茶化され、異物扱いされていた。全く自慢しなかったし、自己憐憫しているわけでもない。鎖は無表情で淡々と語っていた。正直に話して昼喜が幻滅してもかまわないと思っているのだろう。


 昼喜は右腕を伸ばして、

「鎖。また会おう」

 鎖は不思議そうに首を傾げる。昼喜は手を広げて握手を求めている。鎖が黙って動かずにいると昼喜は、

「もう会いたくなければ奢らないよ」

 鎖は躊躇いがちに右手を伸ばして、

「何時何処で会う?」

 昼喜は鎖の手を握ると、

「何処でも良い」

 鎖は握り返して、

「来月に横須賀基地に行くのはどう?」

 昼喜は不思議そうに一度眉を寄せたが、すぐに微笑んで、

「貴方が本当に行きたければ良いよ。詳しい日時と待ち合わせ場所はさっきのアカウントで連絡して」

 鎖が手を離そうとしても昼喜は離さない。昼喜は悲しそうな笑みで、

「貴方は俺の名前をなかなか言わないね」

 鎖の目が泳ぐ。昼喜は握手したまま、じっと鎖を見つめる。鎖は、

「昼喜君。今日は有り難う」

「呼び捨てにして。鎖」

 昼喜が穏やかな声。鎖は、

「昼喜。また会おう」

 昼喜はやっと手を離す。昼喜が立ち上がると鎖もそれにならう。荷物を持って席を離れる。昼喜は伝票を忘れずに持っている。出入口付近の機械とスマホで決済を済ます。それを見届けると、鎖は手を振りながら、

「それじゃあ、また」

 と、言い残して立ち去った。昼喜は鎖の手首を掴もうとしたが、めた。本当は鎖の家まで送りたかった。けれども無理強いしない方が良いだろう。


 昼喜は溜息を吐くと出て行った。ぼんやりしながら帰り始める。


 二年ぶりの性体験。昼喜は性産業を利用した事がない。交際と破局を繰り返して今に至る。最初の彼女は中学二年生の時だった。高校に進学しても関係は続いたが、初めての性交を迫ろうと彼女の家の中で抱きついたら、彼女が大声を出して拒んだ。近くに有った酒瓶で昼喜は頭を叩かれた。すぐに病院に行って治療してもらい、後遺症は無かった。しかし別れた。


 二人目の彼女は高校の同級生。三年に進学したばかり時に昼喜は性交を求めた。しかしその彼女も激怒して怒鳴って拒んだ。その直後に別れた。


 三人目は同じ大学の学友。沖縄の大学で意気投合した。彼女とは避妊した上で初めて性体験をした。けれども彼女は結婚しなければ別れろと迫った。決めるのは早いと昼喜が困ると、彼女は離れて行った。


 四人目は自衛隊にいた時の同じ部隊の隊員。彼女とは避妊した性体験の他に婚約もした。しかし、婚姻届けを出そうとした時に彼女は怖気づいて離れて行った。沖縄の文化や社会に適応する自信が彼女には無かった。


 五人目の彼女は一昨年別れた。競合他社の従業員だったが、昼喜の会社と一緒に仕事をする機会が何回もあった。避妊した上での性体験をして、かなり親しくなった。昼喜が真剣に婚約を求めたが、彼女は嫌がった。ワンオペ育児になるよりキッパリと別れた方が良いと彼女は考えていた。昼喜が死ぬまで彼女と家庭を大事にし続けないだろうと思い、昼喜を信じなかった。


 五人の女達に誠意を持ったつもりだが、結局は別れた。遊ぶつもりはなかったし、真面目に愛したつもりだ。彼女達も昼喜を頼ったし尽くしたりもした。しかし、結婚して子宝に恵まれる前に関係は終わった。


 鎖はどうだろうか。確かに処女だが、性体験を伴わない交際はしたかもしれない。男子にイジメられて男性不信になったかもしれないが、四十年も生きてきたので少なくとも片思いぐらいはしただろう。

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