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竹の浮橋  作者: 加藤無理
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身の上話

 料理が運ばれてくる。鎖は上品ではなかったが美味しそうに食べる。昼喜はそれを眺めながら食べる。茶も頼んだがビールも一杯は頼んでいる。


 昼喜は食事の合間に身の上話を始めた。鎖は食べながら軽く相槌を打つ。


 昼喜は沖縄で生まれ育った。本土からの移住者がどんどん増えているが、昼喜の両親も祖父母四人も生粋の沖縄の人間。姉が一人いて、現在は結婚して仙台に住んでいる。両親はタクシー会社を経営している。祖父母のうち三人は鬼籍に入っているが母方の祖母だけは今でも元気だ。その祖母が昼喜の名付け親。


 大学を卒業した後、陸上自衛隊に入隊して三年ほど勤務していたが、除隊して今の会社に転職した。結婚を何度も考えているが、ずっと独身。無論、子どももいない。歳の近い親戚も友人も殆ど結婚している。何人かは子宝にも恵まれている。姉にも五歳ほどの娘がいる。昼喜の姪だ。


 鎖はいつの間にか食べ終えて話を聴き入っている。昼喜が沖縄出身者である事に最も驚いた。「新垣」という姓は確かに沖縄らしい。米軍基地の存在が気になったが、鎖はそれについての質問を控えた。


 結婚して子どもが欲しいから鎖を誘惑したのだろうか。避妊しなかったのはその為だろうか。しかしそれならば、もっと若くて美人で仕事も家事も出来る女を誘惑すれば良い。昼喜の容姿は悪くないし女の扱い方は非常に上手だ。出来ない事はない。むしろ上京する前に同じ沖縄の女性と何故、結婚しなかったのだろう。それも気になったが鎖は訊かなかった。


 昼喜もスッカリ食べ終わって、

「貴方の話もしてよ」

 興味津々な笑顔。鎖は一度目をそらして躊躇ったが、ポツリポツリと語った。


 鎖という名前は両親が名付けた。人や価値観を繋げる。大事な人や物を縛って守る。そういう願いを両親は込めたようだが、鎖自身はその名前が嫌いだ。子どもの頃から人と関係を築くのは苦手だった。非常に短気で下らない事で暴れたり物を投げたりしていたので周りから疎まれていた。両親はいつも代わりに謝り鎖に注意していた。無闇に鎖に暴力を振るわず辛抱強く育てていた。鎖にはなかなか友達が出来ず、同級生達から茶化されたり避けられたりしていた。「クサリ」という名前を「クサイ」と変えて鼻をつまんで嘲る男子が多かった。


 それでもなんとか大学を卒業した。二流か三流の大学だったが、勉強は頑張ったつもりだ。卒業前から就職活動をすべきだったが、そんな精神的な余裕が無かったので、暫く両親の家業を手伝っていた。都内の小さい畑だが意外と暇ではなかった。


 父親と喧嘩を頻繁にするようになったので、見るに見かねた母親が友人知人を頼って清掃会社の社長に懇願して鎖を就職させた。社長は最初は迷ったようだが、結局は受け入れて今でも鎖はそこに働いている。


 昼喜は茶化さず嘲笑せず、無表情で傾聴していた。小さく相槌を打つだけで、余計な事も喋らない。じっと鎖の顔を見つめている。

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