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竹の浮橋  作者: 加藤無理
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近過ぎる昼喜

 やはり昼喜は鎖の肩を抱いたり手を繋いだりしながら誘導する。先程の駅に向かっているようだ。道行く人や自転車から冷たい視線を鎖は感じた。車やトラックも往来する。昼喜は慣れた様子で周りの邪魔にならないように鎖を連れて歩く。昼喜は女性の扱いに相当慣れているのだろう。だから初対面の鎖を拒むどころか誘惑した。鎖は数多い女の一人なのだ。この後の食後で別れたら昼喜は再び会わずに数日も経たないうちに忘れるのだろう。そして他の女と関係を持つのだ。


 鎖はそれでもかまわなかった。避妊具無しの性交には驚いたが、翌朝に会社に風邪と偽って連絡して休もう。産婦人科に行って緊急避妊薬を処方してもらおう。医療費が心配だが払えない事はないはずだ。二度と性交する機会も無いだろう。


 駅に着いた。昼喜は一度、鎖から手を離し、

「切符とか買わなくて大丈夫だよね」

 鎖は頷き、ズボンのポケットからスマホを取り出す。画面が暗くても改札にかざせば電車賃が払えるようになっている。昼喜もスマホを取り出す。昼喜は鎖を前に並ばせて先に通らせた。


 二人が改札を出ると昼喜は再び鎖の手を繋ぐ。さほど人はいなかったが、鎖には恥ずかしい。階段を上り下りして停車場プラットホームの端に向かう。人はまばらになった。鎖は少し安心した。昼喜は手を繋いだまま、

「やっぱりまだ気にしているね」

 穏やかだが少し悲しい声。俯いていた鎖は昼喜に振り向く。昼喜は少し眉を下げながら微笑んでいる。昼喜の家に向かう時より鎖は素直に歩いたつもりだ。昼喜の後ろに下がらなかったし、手を振り解こうとしなかったし、離れようともしなかった。昼喜は、

「貴方は一度だけしか俺を求めてないよね」

 笑顔だが暗い声。鎖は謝ろうか何か言い訳しようか迷った。しかし昼喜は正面に振り向いて電車を待つ。


 快速電車が二本通り過ぎた後、やっと各駅電車が停車した。降りる客はいなかった。昼喜は後ろに手を伸ばして鎖の肩を掴むと乗った。扉付近でスマホを操作していた若い男が二人に気付き、

「うわ」

 と、不快そうな声を漏らした。反対側の扉で三人ほど楽しそうに会話していた若い女達も気付いて静かになった。そのうちの一人が、

「キモい」

 と、罵った。もう一人が、

「やめなよ」

 と、いさめた。鎖は惨めな気持ちになった。昼喜は扉から離れて中に進む。空席は無かった。昼喜は立ち止まると座席の前の吊り革をもう片方の手で掴んだ。鎖を離そうとしない。鎖が何か言う前に昼喜が鎖の耳許で穏やかに囁いた、

「あんなバカな連中を気にしないでね」

 扉が閉まって発車する。昼喜は片腕で鎖を少し強めに抱える。鎖は全く揺れなかった。昼喜の体幹はしっかりしているのだろう。


 鎖自身は恋人二人カップルを見つけても何も感じない。不快感も嫉妬もない。道や通路を塞ぐような歩き方をしていれば少し邪魔だと思うだけだ。むしろキモいキモいと騒ぐ女達や、威圧的な男達の集団が目障り耳障りだ。よちよち歩く老人も面倒だが、仕方ないとなるべく割り切ろうとしている。


 しかし世間体としては熱愛を見せつける恋人二人は害悪とみなされている。鎖も十分にそれを知っている。昼喜がそれを知らないとは全く思えなかった。何故、昼喜が鎖を放そうとしないのか鎖には分からない。

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