遠慮
昼喜は鎖に缶を渡すと座った。その炭酸水は昼喜の故郷では昔から親しまれた飲物で、数年前からネットで話題にもなっていた。余所者がバカにしたり茶化したりしながら飲んでその動画を上げている。あまり良い気持ちではないが昼喜は何も反応しなかった。
鎖は開けると、
「いただきます」
と、礼を言うと飲み始めた。一度、不思議そうに顔をしかめたが、また飲み始める。徐々に顔が綻び美味そうに飲んでいる。昼喜は微笑みながらウィスキーを注ぐ。
鎖が半分ほど飲むと訝しそうに、
「それ、何杯目?」
昼喜は中断して楽しそうに、
「まだ三杯目だけど」
鎖は首を傾げて、
「ウィスキーってアルコール度数が高いよ」
昼喜はフフっと笑って、
「俺は平気」
鎖は腑に落ちないながらも残りの炭酸水を飲んでいく。昼喜も再開するが、飲み干すと止めた。あと二杯ぐらい飲みたかったが、鎖が心配するので黙って鎖を見つめる。鎖はぼんやりと昼喜の後ろの窓を眺めている。窓にはカーテンが閉まっている。
鎖は全部飲むと空缶を置いた。昼喜は嬉しそうに、
「急いで全部飲まなくても良かったのに」
と言うと立ち上がる。鎖も缶を持ちながらそれに続く。昼喜は笑顔で鎖から缶を取り上げて食卓に置く。鎖は鞄を持ち上げる。昼喜は、
「何を食べたい?」
「特に何も。今は混んでいるだろうから、安くて目立たない所が良いね」
鎖が答えた。昼喜が困惑の笑みを浮かべて、
「この近くのラーメン屋は不味いよ。確かに安くて目立たないけれど」
鎖は宙を睨んだ。昼喜は楽しそうに、
「少し遠いけれど美味い沖縄料理店が有るんだ。そこに行かない?」
「高くなければ良いよ」
鎖が答えた。昼喜は口許は笑っているが眉間に皺を寄せて、
「俺が奢るから気にしないで」
鎖はぎこちない笑みを浮かべて、
「会計は別々の方が良いと思うけど」
昼喜は左手で鎖の右手首を掴んで、
「どうして?そんなに俺に借りを作りたくないの?」
「そういうわけじゃないけれど。今時、男女平等とうるさいし。最近の男は女に甘えられるのが嫌いでしょ」
昼喜は鎖の右手首を軽く引っ張って、
「そんな事を言わないで」
意外と優しい声だと昼喜自身、内心驚いた。鎖は恥ずかしそうに目をそらす。昼喜はニコリと笑い、
「じゃあ行こう」
と、手首を掴んだまま部屋を出る。鎖は慌てて、
「離れたりしないから手を離して」
昼喜は隣の書斎の前で立ち止まると言われた通りに離す。ドアを開けて手前の棚から鞄を引き出す。ドアを閉めながら鎖に振り返り、
「でも、貴方はすぐに俺の後ろに隠れるでしょ。周りを気にし過ぎだよ」
鎖が困った顔をすると、昼喜は後ろに手を伸ばして肩を掴む。




