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竹の浮橋  作者: 加藤無理
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川岸

 九月二日。快晴の昼下がり。秩父市に近い埼玉県某所の河原。まだまだ蒸し暑く、沢山の蝉が鳴いている。日照りが続いているせいか川は大人しく涼しげに流れている。


 小野寺鎖おのでらくさりは道路から河原に続く土手の階段を降りていった。まだ日差しが強いので鎖以外、人影は無かった。


 地面は白と灰色の石ばかりだ。鎖は立ち止まると肩に掛けていた鞄を下ろして茶の入ったペットボトルを取り出す。蓋を開けると、あっと言う間に半分ほど飲んだ。飲み終えると蓋を閉めて鞄の中に戻す。


 鎖が辺りを見渡すと、向岸むこうぎしは森になっている。木々の枝が日陰を作っている。そこへ涼もうと思っても近くに橋は無い。水着が無いので泳げない。有ったとしても危険だろう。遥か下流に目を向けると両岸に民家が立ち並んでいる。


 上流に振り返ると百メートルほど先に河原と川水の境あたりに大きな岩が鎮座している。岩の上に何かが有る。鎖が目を凝らすと裸の男が仰向けに寝そべっている。腰にタオルみたいな物が巻かれているので全裸ではない。川の方に足、土手の方に頭を向けている。腕も脚もだらりと下がってグッタリしている。


 鞄を土手の付近に置いたまま、鎖は男の方へ歩き出した。寝ているだけかもしれないが、死んでいる可能性もある。警察に通報する前に確かめようと判断した。


 男は全く動かない。鎖はどんどん近づく。時折、そよ風が吹く。蝉は相変わらず鳴いている。男の腕は土手の方へ向いているが、頭は腕より下に垂れていた。本来の髪は短いようだが、地面に向かって伸びているので少し長く見える。


 男の寝そべる岩から五歩ほど離れた所で鎖は立ち止まる。男は全く動かない。肌は淡い褐色で色黒ではない。血色は悪くないので死んでいないようだ。腰に巻いてあるタオルは後ろで結んでいるのか風に吹かれても飛ばされない。全身に皺もシミもなく、むしろハリがある。脂肪は少なく筋肉質な体形だ。骨よりも腹筋の筋が目立つ。若いけれど確実に成人だ。


 男の頭と腕の方へ鎖は周った。口が少し開いている。顔のほりが深いが日本人だろう。目を閉じた顔が逆さになっているので分かりづらいが、恐らく美形の部類に入る。二十代かもしれないが三十歳にも見えなくもない。ひげや脇毛を剃っているが、うっすらとまた生えかけている。鎖がじっと観察しても男はまだ動かない。


 ゆっくりと鎖が近づく。男は指一本も動かさずに微動だにしない。鎖が一歩前で立ち止まっても男は眉も動かさない。不安になってきたので鎖は男の鼻と口の近くに手をかざした。微かに息は有る。しかし風でそう感じるだけかもしれない。


 恐る恐る鎖は男の右手首を右手で掴んだ。男の手首は女である鎖よりも太い。持ち上げると意外に重い。鎖は親指で少しずつ脈を探す。温もりは有るので生きている可能性が高い。脈も探し当てた。男は寝ているだけだ。


 拍子抜けした鎖は男の手首を離そうとした。ふと男の顔を見ると鎖の気配に全く気付いていない様子だ。緊張が解けて鎖は少し怒りを覚えた。スマホでこの男の醜態を撮って何処かへ晒してやろうと思った。


 しかし鎖は思い直した。このまま男の手首を離して静かに立ち去った方が安全だ。途中で男が目を覚まして怒って攻撃してくるかもしれない。鎖は右の親指で脈を確かめながら男の顔を見つめる。相変わらず熟睡している。やはり腹が立つ。


 鎖は男の右手首を掴んだまま、男の左手首を左手で掴んだ。男の両腕は太いが脂肪ではないようだ。指は軽く曲っている。鎖は指で男の掌や指や手の甲を擦ったり動かしたりした。

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