表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
空が降る日 ――最強少女、告白される  作者: 水瀬 理音


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

8/8

第8話

 翌日、澄香は熱を出した。

 怪我のせいか、あるいは張りつめていた気が抜けた反動か、熱は二日経っても引かなかった。

 昨日、見舞いに来た矢吹の話では、創太は二週間、双子の二人は一週間の謹慎処分になったという。

 犯した行為に対しては、随分と軽い処分だ。

 矢吹がこうした話に詳しいのは、父が司法長官だからだろう。矢吹自身は不満そうだった。

 けれど、澄香はもう、そのこと自体には興味がなかった。

 もともと喧嘩を吹っかけたのは自分だし、罠にかかったのも自業自得だ。

 ――それよりも。

 今日の正午。

 例年より少し早く、三武の舞役が発表される。

 その事実だけが、澄香の胸に重くのしかかっていた。


「どう? 熱、少しは下がった?」

 十一時半を少し回ったころ、朱南が見舞いに来た。

 澄香の部屋は、机とベッドだけの殺風景な空間で、机の上には格闘関係の本が無造作に積まれている。

 朱南が椅子に腰を下ろすと、澄香は上半身を起こし、苦笑いを浮かべた。

「うん、だいぶ。でもお母さんが外に出るなって」

 朱南は吹き出した。

「そりゃそうよ。あんな騒ぎ起こしたら、家から出したくなくなるわ」

「うるさいわね」

 澄香は布団を口元まで引き上げ、拗ねた声を出す。

「熱下がっても閉じ込められてたら、自宅謹慎の創太たちと同じじゃない」

「たまには大人しくしなさい。……それより」

 朱南は話を切り替えるように言った。

「今日よ。舞役」

「全然楽しみじゃない」

 即答だった。

「どうせ無理よ。今回のことで評価も下がっただろうし」

 朱南は眉をひそめた。

「本気で言ってる?」

「本気よ」

 澄香は目を伏せた。

「……あのとき」

「あのとき?」

「高鵺が、あたしを助けてくれたとき。思い知ったのよ」

 澄香は言葉を選ぶように、少し間を置いた。

「いくら技や速さを磨いても、相手が男だったら……どうにもならないこともあるんだなって」

 朱南は一瞬、言葉に詰まった。

 そして、静かに言った。

「……あのね」

 澄香が顔を上げる。

「それ、性別の問題じゃないと思うけど」

「え?」

 朱南はそれ以上、説明しなかった。

 ただ一度だけ、澄香をまっすぐ見た。

「……まぁ、いいわ」

 そう言って立ち上がる。

「正午になるし、結果見てきてあげる。あんたは大人しくしてなさい」

「朱南、完全にお母さんじゃない」

「茶化すなら行かない」

「冗談。お願いします」

 澄香は慌てて言い、少しだけ笑った。

「必ず戻るから」

 朱南はそう言って、部屋を出て行った。


 * * *


 時計の針が十二時を過ぎても、朱南は戻らなかった。

 澄香は落ち着かず、布団の上で身じろぎした。

 ――そのとき。

 ノックの音がして、澄香は勢いよく顔を上げた。

「朱南?」

 扉が開く。

 立っていたのは、高鵺だった。

「……高鵺!?」

 驚きで声が裏返る。

「一番に伝えたくて」

 高鵺は少し息を切らして言った。

「澄香さん、おめでとう。舞役に選ばれたよ。俺も、矢吹も」

「……本当に?」

 高鵺は、こくりと頷いた。

 胸の奥が、じんわりと温かくなる。

 澄香は力が抜けて、寝台に腰を下ろした。

「……よかった」

 思わず両手で口元を覆う。

 高鵺は、いつもの穏やかな笑顔で澄香を見ていた。

(どうして、今まで気づかなかったんだろう)

 人を見透かすような青い瞳も、頼りなさそうな笑顔も。

 今は、不思議なくらい優しく見える。

「どうしたの?」

 高鵺が首を傾げる。

「な、なんでもない」

 視線を逸らした瞬間、額に手を伸ばされそうになり、澄香は慌てて振り払った。

「大丈夫よ!」

「……熱、上がった?」

「上がってない!」

 高鵺は困ったように笑った。

「これから秋まで、毎日練習があるんだって。だから、早く治してね」

「……うん」

 頷きながら、澄香は思った。

(これから毎日、この人と並ぶんだ)

 胸の奥に、名前のつかない感情が生まれる。

 今までとは違う意味で――

 高鵺が、少しだけ苦手になりそうだった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ