第6話
一方そのころ。
瑠璃花の丘では、春人と秋人が白樺の木にもたれ、ぶつぶつ文句を言っていた。
「創太のやつさぁ」
「ほんと、いいとこどりだよな」
二人は同時にため息をつく。
「穴掘ったの、ほぼ俺たちじゃん」
「なのに決闘は一人で行くとかさ」
「澄香が引っかかるとこ、見たかったのに」
「なぁ」
その瞬間。
「――今、なんて言った?」
頭上から、低く鋭い声が降ってきた。
振り向くと、険しい顔の矢吹と、目を見開いた高鵺が立っていた。
「げっ」
「や、矢吹……」
「澄香を、はめた?」
矢吹は秋人の胸ぐらを掴んだ。
「お前ら、立ち入り禁止区域だって分かっててやったのか!」
「ちょ、ちょっと待てよ!」
「矢吹、落ち着け!」
高鵺が制する。
そして静かに、双子を見た。
「澄香さんは、どこだ?」
その声に、二人は思わず息を呑んだ。
「……村はずれの林」
「創太が、落とし穴に……」
「――っ」
「熊が出るって知ってるか?」
矢吹の言葉を最後まで聞く前に、高鵺はもう走り出していた。
* * *
穴の中で、澄香は地面を握りしめていた。
「……ああ、もう……!」
怒りと悔しさが、ごちゃ混ぜになる。
「なんで引っかかるのよ、あたし……!」
土を投げ、息を整え、涙をぬぐう。
左足は痛む。
肩も動かしづらい。
(朱南の言う通りだった……)
冷静じゃなかった。
完全に、頭に血がのぼってた。
「……でも」
澄香は歯を食いしばった。
「このままじゃ、終われない」
帰る。
ちゃんと勝負する。
そう思って、立ち上がろうとした、そのとき。
――低い唸り声。
澄香の視界に、黒い影が入った。
「……え?」
三メートル先。
巨大な黒い獣。
熊だった。
足が、凍りつく。
逃げられない。
武器もない。
熊が前足を振り上げた、その瞬間。
空を裂くように、水色の影が飛び込んだ。
「――澄香さん!!」
衝撃。
熊の巨体が吹き飛び、木に叩きつけられる。
次の瞬間には、動かなくなっていた。
澄香は、呆然とその光景を見ていた。
「……た、か……」
「澄香さん!」
振り向くと、高鵺が立っていた。
肩で息をし、額に汗を浮かべて。
「怪我は?」
「……あ、足をひねっただけ……」
「よかった……」
心から、ほっとした顔だった。
澄香は、熊の方をちらりと見て、不安そうに言った。
「……もう、起きない?」
高鵺は、少し照れたように笑った。
「急所、全力で蹴ったからね」
そして、手を差し出す。
「帰ろう」
「一緒に」
澄香はその手を見て、少しだけ、胸が熱くなった。
「……ありがとう、高鵺」
空は、もうすっかり夕焼け色だった。




