第3話
流花道の訓練場は、村の中央から少し外れた場所にある。
今日は休日で、人影もまばらだった。
そんな中、弓道場で矢吹が矢を放った。
ひゅ、と風を切る音。
三百歩先の的の、ど真ん中。
「……相変わらずすごいね」
振り返ると、高鵺がいた。
いつもの、のんびりした笑顔で。
「休憩しない?」
「差し入れ持ってきた」
矢吹は即座にうなずいた。
二人は草原に腰を下ろし、パンをかじる。
「それにしてもさ」
矢吹は、ちらっと高鵺を見る。
「お前、やらかしたな」
「え?」
「告白。しかも公衆の面前」
高鵺は一瞬考えてから、あっさり言った。
「でも、ああ言わなきゃ止まらなかったでしょ」
「……ってことは、嘘?」
「本当だよ。俺、澄香さんが好き」
矢吹は思わずむせた。
「お、お前……! よくそんな顔で言えるな……!」
高鵺は少し照れたように笑う。
「言うつもりなかったんだけどね」
「信じられん……」
矢吹は首を振る。
「よりによって、あの女だぞ?」
「どの女?」
その声は、後ろから降ってきた。
「……しまった」
振り返ると、腕を組んだ澄香が立っていた。
目が、完全に怒っている。
「誰が『あの女』ですって?」
「す、澄香……」
矢吹は一歩下がった。
高鵺だけが、相変わらず穏やかだった。
「どうしたの?」
「どうしたもこうしたもないわ!」
澄香は一歩前に出る。
「あんたのせいで、あたしの十人抜きは台無しよ!
村中、あんたの話ばっかり! 遊びでやったんじゃないのよ!」
「え、そうなの?」
「そうなの、じゃない!」
澄香は地団駄を踏んだ。
「とにかく!」
「あたしと戦いなさい!」
「……なんでそうなる」
矢吹が呆れる。
澄香は胸を張った。
「あたしが高鵺に勝てば、誰も文句言えないでしょ」
「勝負なんて意味ないだろ? 二人とも黒帯なんだから」
「だからよ! 同じ黒帯に勝たないと意味ない」
高鵺は首を傾げた。
「そこまで強さにこだわる理由って……」
澄香は、少しだけ黙った。
それから、真っ直ぐ言った。
「三武の舞役に、選ばれたいの」
矢吹が目を丸くする。
「女子が選ばれたこと、ないんだろ」
「だからよ。変えたいの」
高鵺は静かに聞いていたが、やがて首を振った。
「それでも……俺は戦えない」
「またそれ!」
「好きな人とは、戦わない」
澄香の中で、何かが切れた。
「……もういい!」
くるりと踵を返す。
そして振り返り、思いきり叫んだ。
「言っとくけど!
あたしはあんたなんて大っ嫌いだから!」
ぺ、と舌を出して、去っていく。
矢吹は大きく息を吐いた。
「嵐だな……」
高鵺は答えなかった。
ただ、彼女が消えた草原を見つめて、表情のないまま、瞬きだけをしていた。




