第2話
郷の家は、だいたい形が変だ。
真四角な家なんて一軒もなくて、だいたい斜めか、歪んでいる。木の持つ形のまま家を組む伝統があるからだ。朱南の家も例外じゃない。
壁はちょっと傾いてるし、庭は無駄に広い。
その庭で、朱南は薪を割っていた。
淡々と。無言で。
……そして、そのすぐ横で。
澄香は、地面に座り込んでいた。
じっと。
ものすごく、じっと。
「……ねえ」
朱南の手が止まった。
「あんたさ、さっきから人ん家の庭で不機嫌オーラ撒き散らすのやめてくれない?
用があるなら言いなよ。なにもないなら帰って」
澄香は答えない。
答えないどころか、さらに顔をしかめた。
朱南はため息をついて、また薪を割る。
「今日さ、流花道で十人抜きしたって聞いたけど。
……まさか、負けたとか?」
「冗談言わないで!」
澄香は勢いよく立ち上がった。
「勝ったわよ! 全部! なのに……なのに……!」
「はいはい」
朱南は木屑を払って、ちらっと澄香を見る。
「つまり、勝ったけど納得いかないことがあった、と」
「そう! よりによって、あいつよ!」
そこから先は、早かった。
高鵺の名前。
告白。
周りの冷やかし。
耳まで赤くなったこと。
全部。
「……で」
朱南は冷静だった。
「公衆の面前で告白されて、みんなにからかわれた、と」
「それで今、世界の終わりみたいな顔してるわけ?」
「世界の終わりよ!」
澄香は本気だった。
「だって、あたしの十人抜き! あれ全部台無し!
男子ども、誰一人『認める』って言わなかったのよ! 高鵺の話ばっかり!」
朱南は少し考えてから、言った。
「……ねえ」
「知ってる? 高鵺って女子に人気あるの」
「はぁ!?」
澄香の声が裏返る。
「あんなの、どこが!?」
「顔いいし」
「優しいし」
「成績いいし」
「流花道も黒帯」
「……ベタすぎない?」
「でしょ。でも現実ってそういうもの」
澄香は頭を抱えた。
「信じらんない……」
「よりによって、あんな奴に……」
朱南は肩をすくめる。
「まあ、かわいそうだったとは思うよ。でも、終わったことは終わったこと」
「終わってないわ」
澄香はぎらりと目を光らせた。
「今年、あたしたち十四でしょ。それに、春よ」
朱南の眉が動く。
「……三武の舞?」
「そう!」
澄香は真っ直ぐ言った。
「舞役に選ばれるためには、噂も大事なの」
「なのに、今日の主役は全部、高鵺!」
「なるほどねえ……」
朱南は納得したように頷いた。
「つまり、あんたの怒りは……告白そのものじゃなくて、立場の問題、と」
「そうよ!」
そして、澄香は立ち上がる。
拳を握る。
「こうなったら……」
朱南は嫌な予感がした。
「……まさか」
「あいつに、戦ってもらう」
「はい?」
「十人抜きを台無しにした責任、取ってもらうわ。
正式に。真正面から」
朱南は天を仰いだ。
(ああ……)
(高鵺、あんた……詰んだわね)
春の空は、どこまでも青かった。




