あなたが私を鬼にしたの
貴方は、何も分かっていない―。
「ダリア、何度も言っているがアリスは友人なんだ。
嫉妬で言い掛かりをつけるのは止めてくれ」
「すみません、ダリア様、私が誤解されやすい所為で……」
婚約者であるフリオ様がうんざりした顔で私にそう言います。
何故かアリス様を隣の席に座らせたまま。
婚約者は私の筈ですのに、席を譲ることもなくフリオ様に近い距離で座っています。
なので、私はいつもと同じ台詞を返すしかありません。
「嫉妬ではないと申し上げておりますでしょう。
婚約者がいる男性との距離感を誤ってはいけません、とお伝えするのは言い掛かりではございませんわ」
伯爵家同士の政略的な婚約とは言え、フリオ様はこのように視野の狭い方でしたでしょうか…。
アリス様は平民から男爵家に引き取られた、それは可愛らしいお方です。
客観的に見ても男性に好かれるタイプなのでしょうが、如何せん距離感がマナーの授業で赤点を点けられる距離感なのです。
フリオ様にお伝えしてもそんなことはないと言うばかりで一向に聞き入れてくれません。
「君がそんなに冷たい女性だと思わなかったよ。
兎に角、これ以上の話し合いは無駄だ。
これからは私とアリスの交友関係に口を出すのは控えてくれ」
それが、貴方の答えなのですね―。
「―しかと、承りましたわ。
ここに宣言いたしましょう。
私、ダリア・クローネは今後一切、アリス様とフリオ様の関係に何も申し上げませんわ。
皆さま、よろしいですわね?」
そう、ここは同世代が集まるお茶会の場。
皆さまに向けて宣言します。
高位貴族のご令嬢やご子息は哀れむようにアリス様とフリオ様を見ています。
低位貴族の方々は私を嘲るように見ている方が多くおりますが、何名かは考え込んでいます。
あの中で、有望な方々を高位貴族の方は見逃さないでしょう。
現に王太子殿下は一瞬眉を顰めた後で表情を取り繕った子爵令息を見て満足そうにしています。
「では、私の席はないようですのでこれにて失礼いたしますわ。
中座のご無礼、お許しください」
入り口で無作法を謝罪すると、王太子殿下の婚約者である公爵令嬢様が頷いたためカーテシーをして退場をした。
視界の先には、優越感に満ちたアリス様が私を見ていました。
♦♦♦
「ダリア!君は何をしたんだ……!」
あのお茶会から2週間、何の先触れもなくフリオ様が私を訪ねてきました。
2週間、お父様は慎重に進めたようですわね。
「何も、しておりません」
「何故アリスが隣国の男爵家に嫁ぐことになったんだ…!しかも相手は孫までいる年齢じゃないか」
お若いアリス様に流石のお父様も少し同情なさったようですが、夢見がちなアリス様には酷かもしれませんね。
「ですから、私が何もしないからそうなったのです」
「何……?」
ここまで言ってもまだお分かりではないフリオ様です。
フリオ様は嫡男の筈なのですが……。
「フリオ様は、政略結婚を何とお考えですか?
私たちの結婚に、お互いの家の利益があるのです。その利益を無くした後で、アリス様はもっと利益を齎す方ではなかった、ただそれだけです」
「どういう意味だ……」
「今までは、私がアリス様に直接注意することで様子を見られていたのです。
それが、私が何も申し上げなくなったことで、お互いの家がアリス様を徹底的にお調べになったのでしょう」
もしも、彼女が政敵が用意した間者だとしたら、対策をしないといけません。
「単純に、伯爵令嬢よりも男爵令嬢であるご自分が選ばれたことを喜んでいたのでその程度でお済みになったのでしょうね。
フリオ様のお手付きでしたら恐らく娼館にでも売られていましたわ」
「何故、言わなかった……!」
おかしなことを仰る方ですこと。
「何度も申し上げました。距離感をお考えください、と。
そして、あのお茶会で私は関わらない、と宣言をしましたので、
私の家も、フリオ様の家も、もちろん、お互いの寄り親の公爵家も徹底的に調べたでしょう、フリオ様とアリス様の関係を。
その結果、ということですわ」
ご自分の所為でアリス様が遠くに嫁がされたと知ったフリオ様は震えています。
ここまでのご説明を、私は感情を乗せずに説明をいたしました。
「君は……人の心がないのか……」
「同情するかしないか、で言えば多少の同情はございますが……。
何度も申し上げておりましたのに、フリオ様が口出ししないように、と仰いましたので」
フリオ様の顔色はますます悪くなっております。
それでも、私達の婚姻は成されなければいけません。
それが公爵家の利益として計算されておりますので。
政略とは言え、尊重しあえてさえいればと悔やまれます―。
この件で私もお父様に叱られますわ。
もっと早い段階で見切りをつけなければいけないと。
「もしもフリオ様が私を鬼とも呼ぶのであれば、
―それは貴方がそうさせたのです」
終幕
ご覧いただきありがとうございます。
ちょっと息抜きに短編を。
勢いで書いたのでおかしなとこがあるかもしれませんが、ファンタジーということで。
西洋風だから鬼ってどうかと思いましたが風だからいいやと敢えて使ってます。
タイトルの「あなた」は2人かなー。
フリオ:甘ちゃん。ダリアと結婚するか廃嫡しかない。
ダリア:それなりに頑張って助けようとしたけど何かもういいやってなった。
アリス:甘ちゃん。やっぱ女は可愛くなくちゃ、なタイプ。実際可愛い。頭の中も可愛い。
娼館出てきたら一応レイティングしてます。