ドキュメンタリー5終
「みなさん、この企画も残りあと一週間になりました。悔いがないように過ごしましょう」
全員集まった朝食の席で、アリサがそう言った。
「あと、エノクさん、この企画の趣旨を覚えていますか?」
「趣旨?」
「最後にひとり選んでもらいます。そしてふたりで、外の世界で自由に幸せになるんです」
私は苦虫をかみつぶしたような思いをして、少し言うか迷った挙句、率直に自分の気持ちを皆に伝えることにした。
「それに意味はあるのか? どうせ私たちは外の世界では生きられない。死ぬか、それが嫌なら数日でこの国に戻ってくるだけだ」
意外にも、反論として口を開いたのはレイスだった。
「でも、その間に貴重な経験ができるとは思いませんか?」
「貴重な経験?」
「えぇ。外の世界では、この国の法は機能しません。ふだんならやってはいけないことすべてをそこでは合法的に行える。想像がはかどりませんか? たとえば……無理やり、パートナーを犯す、とか」
レイスは、下卑た笑みを浮かべた。その顔は、どこかで見たことがあるようなものだったが、思い出すことはできなかった。
「不愉快な話だな」
「ともあれ、そういう企画ですので、エノクさん、誰を選ぶのかよく考えて置いてくださいね。選ばれたい人、選ばれたくない人はそれぞれ、一週間のうちにその意志を伝えておくのがいいかもしれません」
「先に言っておくけど、私は嫌だからね?」
食事を終えてすぐに近寄ってきてそう言ったのはノアだった。
「残念だな。もし君が嫌じゃないなら、君を選ぶつもりだったんだが」
「は? なんで?」
「一番何も起こらなそうだから」
「……まぁ、そうかも。はぁ。どうしてもっていうなら……いや、やっぱ嫌だ。あなたが急に豹変しないとも限らないし、一度外の世界に出たら、帰ってきたときにどういう扱いになるのかもわからなくて怖いし」
「君の意見はわかったよ」
「ま、この企画が終わったら多分二度と会わないと思うけど、なんていうか、悪くない日々だったと思う」
「私もそう思うよ」
エレナは夜になってから、私の部屋に訪れた。彼女が私の部屋に入るのは、この企画が始まってから初めてのことだった。
「エノクさんの匂いがしますね」
「まぁ、ずっといるからな。臭いなら、場所を移すが」
「いえ、好きな匂いです」
「ならよかった」
「それで、最終日のことなんですが」
「あぁ」
「私を選ばないでください」
エレナははっきりとした口調でそう言った。表情は清々しく、目には強い意志が宿っていた。
「理由を聞いてもいいか」
「はい。ひとりでたくさん考えたんです。私がエノクさんとふたりで外の世界に出て、夫婦として、生きていけたとして。私自身が、それで幸せになれたとして。その人生は、正しいのかなって。意味があるのかなって。あ、もちろん、実際にはそうなりません。ですが……そうなる可能性が万にひとつあるのであれば、それを考える価値はありますよね? それで、考えてみたんです。理想的な結末があったとして、私はそのために、人生のすべてを捨てられるのかなって」
「それで」
エレナは静かに首を振った。
「無理です。私には。私は皆さんと関わってみて、自分が普通の人間であることを思い知りました。私、自分がちょっとは特別な人間なのかなって思ってたんです。特別な運命があって、それに導かれているのかなって。でもそんなことない。私は、他の人と同じ。難しいことは考えられませんし、何か大きな目標があるわけでもない。ただ、ちょっと人よりも頭が悪くて、向こう見ずなだけ。ですから……私は多分、エノクさんにはふさわしくないんです。アリサさんにも、イーナさんにも。私がかっこいいと思う人はみんな、私とは等しくないんです」
「私はそうは思わないよ」
「どうしてですか」
「君には助けられたから」
「私が?」
「あぁ。その、君の普通の部分に。異常な企画に、異常な出演者たち。ある意味では、君だけが普通だったかもしれない。君とノアが、かな。そのおかげで、私も、ぎりぎり普通でいられたような気もする」
「……エノクさんは、普通なんかじゃないですよ」
「君には私が狂っているように見えるのか」
「いえ……うまく言えないんですが、エノクさんは特別なんです。私にとってだけでなくて、きっと、もっと多くの人にとって。アリサさんが特別な人であるように」
「誰を選ぶか決めました?」
「君を選ぶことは可能なのかだけ教えてくれ」
「別にいいですけど、何も起きませんよ? 企画的には、やめてもらいたいです」
「もうすでに、ふたりから、選ばれたくないという話があった」
「見ていましたよ」
「イーナは捕まらない。会話を拒否している」
「あの方の考えていることは最後までよくわかりませんでしたね」
「あぁ」
「レイスさんはどっちでもいいそうです」
「なら、消去法になりそうだな」
「本当にそれでいいんですか?」
「……どうせ単なる演出だろう」
「ならなおさら、レイスさんは選ばない方がいいと思いますが」
「いや。劇ならなおさら、選ぶべきは彼女だと私は思う」
「まぁあなたがそういうならそうなんでしょう」
「イーナ」
彼女はずいぶん痩せていた。あまり食事もとっていないようだ。
「話しかけないで」
「言っておくが、私は君を選ぶつもりはない。レイスを選ぶ」
「知ってる」
「どうして」
「そういうシナリオだから」
「誰の」
「その人の」
「レイスか」
「結局私の人生に意味はなかった」
イーナの目からは、光が失われていた。
「ねぇ、特別だと思っていた人が、単なる子供じみた人形だと知ったら、エノク、あなたはどう思う?」
「何を言っている?」
「あぁ、こんなこと言いたくないのにな。最低。もう話しかけないで」
「イーナ。どういう意味なんだ?」
イーナは、急に走り出して、去って行った。
「レイス」
「ちゃんと私を選んでくれそうですね?」
「最初からそういうシナリオだったのか」
「さぁ。それは知りませんよ」
「白々しいな。君がこの企画の発案者だろう?」
「違いますよ。企画段階からの協力者ではありますが」
「……何を企んでいる?」
「とっても楽しいことを」
おめでとう。おめでとう。拍手喝采。見知らぬ人々、すべて女性が、私たちふたりを見送っている。レイスの体に触れたのは思えばこれが初めてだった。彼女と手を繋ぎ、威圧的な鋼鉄製の扉が開くのを見つめる。私がかつて出ていった場所であり、入ってきた場所でもある。
無言で、道を歩く。この国が見えなくなるまで、もくもくと。
半日ほど歩いて、私たちは雨風が凌げそうな洞穴を見つけ、その中に入った。中には無数のコウモリたちがいて、その糞の匂いが充満していた。
「さすがにここまで監視されているということはないだろう」
「そうかもしれませんね」
レイスは少し不機嫌そうだ。暑くて、臭いもひどい。私はこれくらいのことは何とも思わないが、温室育ちの彼女にとってはこれもはじめての経験なのだろう。
「楽しいか? 貴重な経験か? 不快なだけだろう」
「えぇ。今のところは」
「もう帰るか?」
「いえ、帰りませんよ。私とあなたはここで死ぬんです」
そう言って、レイスは懐から刃物を取り出した。
「冗談だろう?」
私は別に身構えはしなかった。本気ではないだろうと思ったし、たとえ本気だとしても、十分な対格差がある。素手でも正面からなら問題なく制圧できるし、そもそも本気で殺す気なら、寝込みを襲うはずで、今こうして正面からこんなことをする意味はないはずだ。
「えぇ。冗談ですよ。これは自決用です」
そう言って、レイスは刃物を落として両手をあげた。からん、と洞窟に無機質な音が響いた。
「何もしないんですか? むかつく女が目の前にいて、無防備な状態にある。あぁ、年増だから、性欲が湧かないんですかね?」
「別に年増というほどの年齢ではないだろう」
三十をおそらく少し超えているくらいの年齢。容姿は美しく、肉体も健康的。普通なら、十分に性欲を感じられる肉体のはず。
私は企画中ずっと禁欲を行っていて、普段よりも女性の体に反応しやすいはずだった。しかしそれでも、私はレイスに対して何も感じなかった。
「なぜかはわからないが、君には何も感じないんだ」
「えぇ、そうでしょうね。自分自身に欲情する人間なんて、聞いたことないですもんね」
「……今、なんて?」
「聞こえませんでしたか? 自分自身に欲情する人間なんていない。あなたが私に欲情しない理由は、それだけですよ」
「自分自身? 何を言っているんだ」
「察しが悪いですね。私とあなたは、同じモデルから作られているんですよ。あなたが大好きな、あの頭がおかしい母親から。あなたは男性として、私は女性として。あぁ、もっともあなたは、母親の腹から生まれ、愛されて育ったみたいですけど。私は一足先に、意味もなく産み落とされ、意味もなくあなたの人生を眺めながら生きてきたわけです。不愉快なことに!」
レイスは、再び地面に落ちたナイフを握り直した。
「私は殺したいほどにあなたが羨ましかった。男性として生まれたあなたが! 私がなぜこの年まで処女だったかわかりますか? 理由は、私が、精神的には女ではなかったからです。男性に抱かれるなんて、吐き気がする。死んだほうがましだと思う。あなたが、別に意識するでもなく、そう思っているように! あぁ、おそらくあなたの母親もそうです。本当は、男性として生まれるほうが自然だった。ですが、女性として生まれてしまった。あぁ、でもきっとその母親も、オリジナルじゃない。別にオリジナルがいる。そいつの性別は知りませんが……私も、あなたも、あなたの母親も、同様に娯楽のために生み出されたことだけは真実です。どうせ誰かのおもちゃとして生まれるなら、せめて『あたり』を引きたかった」
「おい。何を言っている?」
レイスは、ゆっくりと近づいてくる。私は先ほどとは異なり、本能的な恐怖を感じ、後ずさっていた。
「もうひとつ教えてあげましょう。イーナは、あなたの母親の墓に、こういうつもりだったんですよ。『エノクを産んで、育ててくれてありがとう』って。馬鹿ですよね! 私は言ってやりましたよ。『どういたしまして』って! だって、あなたの母親と私は、同じ人間なんですから!」
「……同じじゃない。遺伝情報が同じだったとしても、同じではない」
「えぇ。同じじゃない。その通りです。ただ重要なのは、私たち三人がすべて、私たち自身の意志や努力ではなく、単に計画されて生まれ、育ってきたということです。イーナは、あなたが生まれ育ったのは、あなたの母親の意志や努力によるものだと信じていたみたいですよ。そうじゃないと知って、もっと言えば、イーナ自身は私たちとはまったく無関係な、ただ普通の人間であり、ショーに巻き込まれただけの一般人だったと知って、ひどく落ち込んでいましたよ! 馬鹿みたいですよね。あの人は、ただ自分自身と、自分が特別だと思った人間が、他の人間と比べて何かが違うことを求めていただけなんですよ。でもそうじゃなかった。二重の意味で!」
私の背中に硬い感触が当たった。行き止まりだ。
「エノクさん。選んでください。私を殺すか、私に殺されるか。私を殺して、あなたは逃げる。そうすれば、私たちふたりは、あのイかれた国から逃げ出して、一匹の獣として、まともに生きられます。もしあなたが私に殺されたなら、私もそのあと死んで、ひとりの人間として、まともに死ねたことになります」
「……勝手に、お前ひとりでやっていればいいだろう。私を巻き込まないでくれ」
「違いますよね? あなたが、私を巻き込んだんです。外の世界で生きていたあなたが、勝手に私の世界に戻ってきて、自分の人生を受け入れていた私を、あなたに引き戻した。あなたのように生きられた可能性を、私に見せつけて! あぁ、でもあなたも苦しんでいる。あなたも、生きることが嫌になっている! そうですよ。だから私たちは死ぬべきなんです。どうせ死ぬなら、特別な死を。私たちだけの死を」
「私は……まだ……」
唇を噛んだ。彼女のナイフが私の首元に迫っていた。私は拳を握って、決意を固めた。そうして……肩を入れて、彼女に思い切りぶつかった。
息が上がる。間違いなく体力が落ちている。半日歩いた疲労もあった。だが、一刻も早く戻りたかった。安全な場所が恋しかった。柔らかく、暖かいベッドが。
空腹だった。おいしく暖かい食事の貴重さはよくわかっていた。一刻も早く、元の生活に戻りたかった。そうだ。最初からそうだった。私は……何もしたくなかった。意味なんていらなかった。性別なんてどうでもいい。ただ……生きているだけでよかった。そうだろう? 私はこの世界で、そう思っていた。そう思っていたのか? わからない。
母親。もし彼女が私と同じ遺伝子を持っていたからといって、それが何を意味するのだろう? 何も変わらない。彼女が私を産んで、育てたのなら、まぎれもなく彼女が私の母で、私は母の息子だ。それだけのことでしかないじゃないか。あぁ、それで何を絶望する必要があるんだ? イーナ。教えてくれ。私の人生が単なる誰かの娯楽に過ぎないとして、それが私のこの苦痛と幸福に、何の関係がある? 私はまだ生きていたい。体がそれを望んでいる。
「あの国で死んで、誰が私を弔ってくれるの! 家族も、友もいない私を! エノク! あなただけが、あなただけが私を弔ってくれる! だから私を、私を殺せ! 私を!」
後ろから、発狂した女が追ってくる。結局彼女の言っていることのどこまでが真実で、どこまでが虚構なのかはわからなかった。考えたくもなかった。ただ私は、がむしゃらに逃げ続けることしかできなかった。
あの大きな扉はなぜかまだ開いていた。そして、見たこともない防護服に身を包んだ兵士が数人待機していて、私に向かって銃器を構えた。あぁ、結局殺されるのか、と思いつつも、私はそのまま入り口に向かって走り続けた。銃声がしたが、私には当たらなかった。私は振り返らなかった。結局これも、ひとつのショーなのだろう。
扉が閉まって、私は怯えた子供のように、隅のほうで小さくなって泣いた。母親を呼びたかったが、名前を知らなかった。
こんな思いをするくらいなら死んだほうがましだとも思ったが、死ぬにしても、あの女に殺されるのだけは嫌だと思った。
「お疲れ様です。ショーは大成功ですね」
アリサがやってきて、私に手を差し伸べた。私は自然とその手を取った。
「どこまでも本当なんだ?」
「全部本当ですよ。あの洞窟にも、ちゃんとカメラは設置されてます」
「意味がわからない。レイスはなんだったんだ」
「さぁ、私にもよくわかりませんよ。でも、上の人たちは知ってたみたいですよ? 最初からこうなることを」
「私は何なんだ?」
「みんなのお気に入りのおもちゃ、じゃないですかね?」
企画が終わってから、私は別の区域に移された。私は、終わってから最初の指名で大失敗を犯した。性器がたたなかったのだ。実は、あれ以来一度も生殖器が正常に機能はしていなかった。私は自分の体が、自分が男性であることを拒んでいるような気がしていた。
別に、ショックはなかった。ただ、私はもう死ぬしかないのだと思うと、ひどく悲しかった。
「これが、エノクさんのお母さんのお墓ですか?」
「あぁ」
「隣がイーナさんなんですね」
エレナは、花を三つ持ってきてくれた。私は嬉しかった。
「レイスさんは?」
「あっちだ」
「……反対側を向いてますね」
「私は彼女に見られたくないし、彼女も私を見たくないだろうからね」
「そうですかね?」
「願望だよ。身勝手なね」
エレナは私を置いてレイスの方に行って、花を添えて祈った。
「私は無駄だと思うけどね」
そう言ったのは、ノアだった。本当は来たくなかったらしいが、エレナの付き添いで仕方なく来てくれたらしい。
「でも、意外だったなぁ。あなたが男性としてダメになるなんて。そのうえ、男性であることをやめてまで、生き延びようとするなんて」
「滑稽か?」
「ううん。見直したかな。私でも、同じ立場ならそうする。そもそも、男として生きるよりも女として生きるほうがいいでしょ?」
「そうだな」
「後悔してる?」
「してないよ。違和感はあるけれど」
皮肉な話だ。私の母は、おそらく女性であることが苦痛だった。レイスもだ。そして私は、男性であることが自然で、男性として、おそらくは……幸せに生きていた。しかし私は、男性として役割を果たせた亡くなったので、処分されることになった。
アリサが、処分と、生殖機能の除去手術を受けて女性として生きることを選ばせてくれた。そんな制度はなかったらしいが、これもまた一種のショーとして、あの物語の後日談として、この社会の娯楽として有益なものでありうるなら、特例として許されるらしい。
そんな無茶が通るというも不自然なことだ。おそらくは、私のオリジナルが関係しているのだろう。
思えばきっと、アリサを送り込み、あの企画を実行したのも、私のオリジナルなのだろう。何を考えているのかはわからない。いや、わからなくもない。きっと、そいつは、笑っている。そいつは、自分自身で遊んでいるのだ。
でもそれが、今の私に何の関係があるだろう。
「エノクさん、墓守の仕事は、どうですか? 楽しいですか?」
「楽し……くはないかな。でも、やりがいはある。こうして、本来なら弔うことのできない人を弔うことができるようにすることは、意義のあることだと思う」
「私はそうは思わないけどね。資源と時間の無駄」
ノアは間髪入れずに否定するが、私とエレナは顔を合わせて笑う。
「そういえば、アリサさんはどうしているんですか?」
「私が男性をやめてから、ほとんど会っていないな」
「えぇその通りです。私たちは男好きですからね」
聞き覚えのある声が背後から聞こえて、三人一斉に振り返る。
「アリサさん!」
「違いますよ。私はエリンと言います。まぁ、ほぼアリサと言っても過言ではないんですが、彼女より私の方がちょっと若くてその分ちょっと優秀であるという違いはあります。ま、記憶は共有していませんし、記録もそれほど詳細には追っていないんですけどね」
姿かたち、口調、仕草までそっくりだった。
「まったく、アリサは薄情な人です。あれほど入れ込んでいたのに、男性として魅力がなくなったらすぐに別の男に行くんですから。彼女、今は外でまた新しいいい男を探してるみたいですよ? あ、だから代わりにエノクさんの監視担当は私になったってわけです」
「なら、君は外れくじを引いたわけだ」
「いえ? 私は別にちんちんがなくなった元男性にも興味を持ってますよ? 何を考えていて、どんな生活をしているのか。もっといえば、あなたとセックスしてみたいとも思ってます」
「どうやって?」
「それはノアさんがよく知ってるんじゃないですか?」
「そういえば、ノアは仕事はどうしているんだ? 同じ仕事を続けてるのか?」
「うん。もう少し今の仕事を頑張ってみようかなって思ってる。やっぱり、男では満たせない体の欲ってあると思うから。エノクも興味あるなら、してあげるよ? 友達料金にしてあげる」
「知り合いとするのは気まずくないのか?」
「もう慣れちゃった。エレナともしたしね」
「あはは」
「まぁいつかお願いするかもな」
そういいつつも、まったくその気はなかった。もう、性とか恋愛とか、そういうことは考えずに生きていきたかったから。
「なにはともあれ、みなさんが元気そうでよかったです」
そう言って、エリンは柔らかく笑った。ただ勘だったが、間違いだったらそれでいい。私は、思ったことをそのまま口に出した。
「ありがとうな、アリサ。最後まで」
「どういたしまして。楽しんでもらえたのなら、何よりです」