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夢見る星のウタ  作者: TriLustre
第1章「見知らぬ世界の救世主」

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第9話「隠し事」

 マインとクレールは領主邸から出たエディーを追い掛け、墓地を経由して丘の上に辿り着いたところ、背後から見知らぬ青年に声を掛けられ、青年と互いに顔を見つめ合っていた。

 実際にはあまり時は経っていないにも関わらず、長い時間そうしていたかのように静寂が流れ続け——ふと、冷たい潮風が一瞬だけ肌に強く吹き付けたかと思うと、青年は目を見開き驚いた様子で独り言を呟いた。



「貴方達は……いえ、そんなまさか……。」



 青年がそう呟いたのを皮切りに、マインとクレールも意識を引き戻し、青年に恐る恐る問い掛ける。


「えっと……あんたは?それに、今……なんて……」


 マインに問い掛けられた瞬間、青年は険しい顔付きに戻り、再びマイン達を睨み付ける。


「そこで何をしているのかと聞いているんです。こんな時間に……墓地の中を駆けていく貴方達の姿が見えました。死者の眠りを妨げるだけでなく、貴方達自身も、生ける屍に襲われる危険性が高い。なのに何故、ここを訪れたのか……包み隠さず聞かせてもらいますよ。」


 青年の鋭い眼光に、マインは少したじろぐも、クレールと顔を見合わせ、背後に佇むエディーへ視線を送る。


「なぜって……それは、1人で外を出歩くエディーを……親友を追い掛けてここまで来たんだ。ほら……今、そこに立ってる紫髪の……」


 マインの言葉を聞き、青年はエディーに視線を移して様子を伺うと、エディーから漂う異様な雰囲気に再び驚いた顔を見せる。


「彼が……ここまで1人で歩いて来たんですか?」

「はい……私達は、エディーさんを街へ連れ戻すために、ここまで追い掛けて来たのです。しかし……追い付いたはいいものの、彼の様子がどうもおかしく……戸惑っていたところを、貴方に声を掛けられました。このような時間帯に街を出て、墓地の中を駆けたことは謝ります、大変申し訳ありませんでした……。」


 クレールは深々とお辞儀をし、謝罪の言葉を述べる。

 マインも釣られて頭を下げるが、顔を上げて青年の顔を見つめ直した後、心配そうな声で青年に語り掛けた。


「なぁ、あんた……何か知らないか?あ、いや……俺達の親友のことを聞いてもわからねぇのはわかってんだけど、その……そうじゃなくて……。俺達、この付近に来てから日が浅いからさ、色々と知らねぇことも多くて……何か、怪奇現象みたいなのが起こったりするのか?この近辺に来た時から、アイツが……エディーの様子がどうもおかしいんだよ。話しかけても上の空だったりするし、『巻き込みたくなかった』とか同じ言葉を呟くし……んで、今のあの有り様だろ?俺達……エディーのことが心配でさ……。」


 眉を下げて訴えるマインの言葉を聞き、青年は今一度エディーの方へ視線を向けると、頭から足先まで眺めるように目線を落としていく。


「……確かに、霊魂やそれに伴った現象は起きると信じられています。しかし……彼に今起きていることは、単純に霊魂の仕業だと言うには難しい気がしますが……。」


 青年の言葉に2人は困惑した表情を見せ、マインは不安げな声色で青年に問い掛ける。


「どういう……ことだ……?つまりは霊の仕業じゃないってことか……?」


 マインが首を傾げながら唸るように考え込むと、青年は冷静な口調で言葉を返した。


「彼の中で、何か大きな力が蠢いているのではないかと……そう、感じただけです。彼の様子も……肌で感じ取れるほどに異様な雰囲気も、それに伴った一種の畏怖や影響ではないかと。俺の立場上、その様な体験をすることが間々ありますので、あくまで体験に基づいた推測にしかなりませんが……ただ、魔力が高いだけが理由ではない、この性質の違う力は一体……?」


 青年は言葉の最後を小さく呟いて濁し、マインは理解が追い付いていないといった様子で話を続ける。


「なぁ、大きな力ってなんだよ……?エディーはただの……人間だぜ……?俺達と変わらない、ただの……」


 マインがそこまで言ったところで、不意にエディーの瞳から青い光が消えていき、エディーは糸が切れたかのように崩れ落ちてその場に座り込む。


「……!エディー!」

「エディーさん!」


 マイン達は慌ててエディーのもとへと駆け付け、屈み込んでエディーの体を支える。

 エディーはゆっくりと瞼を開けると、マインとクレールの顔を交互に見つめ、ぼんやりとした顔で問い掛ける。


「……ぁれ、ここは……?マインもクレールも……寝室で寝てたはずじゃ……」


 海からの冷たい風に身を震わせながら、エディーは状況が呑み込めないといった様子で周囲を見渡す。

 先程まで感じていた異様な雰囲気も完全に消え去っており、普段と変わらぬエディーに戻ったのだと確信した2人は、安堵の表情を浮かべてエディーに声を掛ける。


「……ったく、心配したんだぜ?起きたら居なくなってたからな……。歩いてくお前を、ここまで2人で追い掛けて来たんだぜ。」

「全くだ。エディーさんには、いつも肝を冷やされる。しかし、その様子だと……何も覚えていないのだな。そこもまた、不可解なところだが……。」


 2人が口にした言葉に、エディーはハッとした表情を見せて、申し訳なさそうに俯いて口を開く。


「……ごめん、俺……また迷惑を掛けて……」


 マインは落ち込むエディーの顔を覗き込み、元気付けようとエディーの肩を軽く叩く。


「まぁ、お前だって……好きでふらついてたわけじゃねぇんだろ?お前がおかしくなる原因は、俺達にはわかんねぇけど……無事ならそれでいいって。」

「ああ、気になることは多々あるのだが……今はとにかく、エディーさんの無事が確認出来ただけでも一安心だ。……さぁ、ヒゥヘイムさんの所へ戻るぞ。」


 そう言って立ち上がる3人を見ていた青年は、クレールの言葉に思わず質問を投げ掛ける。


「貴方達……ヒゥヘイムのお知り合いですか?こんな時間に、彼のもとへ戻るとは……いったい何用で……?」


 怪訝な顔で首を傾げる青年の問い掛けに、クレールは素直に事の経緯を説明する。


「ヒゥヘイムさんとは、狩人であるレドさんを通じて知り合いました。私達はもともと、この近辺に辿り着いた覚えが無く……生ける屍に襲われていたところを、レドさんに助けて頂き、お2人に協力して頂いて、今は帰るための方法を探しているところなのです。その過程で……ヒゥヘイムさんのご厚意に甘え、今夜は領主邸に泊まらせて頂いております。」


 淡々と語るクレールの説明に耳を傾け、青年は納得したように頷くと、3人へ階段を降りるように促す。


「……なるほど、事情はわかりました。俺が家まで送りますから、一緒に街へ戻りましょう。不可抗力だったとはいえ、ここは生ける屍に襲われる危険性が高いこと……そして、死者の魂が安らかに眠る場所であるということを、どうか忘れないでいて下さい。次に訪れる機会があれば……その時は、静かにお願いしますよ。」

「はい……肝に銘じておきます。」


 青年はマイン達を街へ送り届けるため、踵を返して背を向ける。

 背を向けた青年を追い掛けるように、エディーは走り出して青年の前へと飛び出すと、2人を庇うように慌てて言葉を紡ぎ出す。


「あ、あのっ……!2人は悪くないんだ!俺が……俺が勝手に出てきたから、2人は……追い掛けて来てくれただけで……」


 自分に非があるのだと必死に弁明するエディーの姿を見て、青年は首を横に振り、落ち着かせようとエディーを宥める。


「責めているわけではありません。制御が効かないものであれば、仕方ないんですから。ただ……俺個人としての、お願い事なだけです。」


 青年は表情一つ変えずに言うも、その穏やかな口調にエディーは肩の力を抜き、拍子抜けしたかのような顔で青年の顔を見つめる。


「そ、そう……なんだ……。……ごめんなさい、俺……勘違いして……。」

「ほら、この人もそう言ってるんだしよ、あんまり自分を責めずにいこうぜ、エディー。」

「う、うん……俺も、仕方が無いで片付けずに、次からは気を付けることにするよ。」


 エディーの傍まで近付いたマインはエディーと肩を組み、クレールは目を細めて口元を緩め、2人のもとへと歩いていく。

 そんなマインとクレールの姿を、青年はどこか懐かしそうに見つめ、一度俯いてざわめく心を鎮めると、改めて口を開きマイン達の方を見やる。


「……そうして下さい。話を聞く限り、悪気が無いことはわかりましたから、無理に咎めるようなことはしません。……では、行きましょう。街の入り口はすぐ近くですが、生ける屍はどこから現れるかわかりませんので、辿り着くまで油断せず……周囲を警戒して下さい。」

「おう、わかったぜ。俺達も、襲われて生ける屍になんてなりたくねぇからな。面倒を掛けて悪いけど、よろしく頼むぜ。」


 青年が頷いて応えたのを確認すると、マイン達は並んで階段を降り始め、帰路に着く。

 マイン達を追い掛けるため、青年は一歩を踏み出したものの……すぐに立ち止まり、後ろを振り返る。

 フロワドゥヴィルの港と海を一望できる丘の上には——何かの模様が描かれている擦り切れた旗と、錆び付きボロボロになったひと振りの剣が、石に立て掛けられるようにして安置されていた。

 先程はエディーが佇んでいたために、あまり見ることが出来なかった旗と剣に視線を向けて、青年は寂しげに目を細めて独り言を呟く。



「まさか、お2人が今の時代に……?……いえ、そんなはずはありませんね……。」



 脳裏を過ぎった思考を振り払うように、青年は俯きながら瞼を閉じて首を横に振ると、再び踵を返してマイン達の後を追う。

 マイン達は青年と共に墓地を後にし、墓地へ赴いた際と同じ道のりを辿って街へと戻ると、そのまま真っ直ぐに領主邸へと歩いていく。

 昼間とは真逆の静けさの中、街灯の明かりを頼りに道を進み、領主邸まであと半分といったところで、不意にマインが口を開いてエディーに問い掛けた。



「なぁ、エディー……俺達に何か、隠してないか?知っているのに、話してないこととか……」



 唐突にマインから投げ掛けられた質問に、エディーは明らかに動揺した素振りを見せて強張った表情を浮かべる。


「わ、わりぃ……聞かれたくなかったか?けどよ……それって、俺達にも言えねぇことなのか?もしそうじゃねぇのなら、俺達に話して欲しいんだけどよ……。」


 マインが心の底から心配しているのは、エディーも理解していることだった。

 だが、エディーは狼狽えたまま目線を落として悲しげな表情を浮かべると、心を落ち着かせようと胸に手を置きながら返事を伝える。


「今は、まだ……まだ、ダメなんだ……。……まだ、俺の心の準備もできてなくて……ごめん、本当に……ごめん……。」


 マイン達の顔を見ることも出来ず、エディーは段々と声を震わせながら何度も謝罪の言葉を述べる。

 そんなエディーの様子に、どこかいたたまれない気持ちを抱いた2人は顔を見合わせた後に口を閉ざす。

 気まずい空気を作り出してしまった——そう感じたエディーは、早急に謝罪しようと口を開くも——エディーの口から声が発せられるより先に、マインがエディーに改めて声を掛ける。



「……わかった、もう何も言わないぜ。」



「…………え?」



 口を開けていたエディーはそのまま声を漏らし、きょとんとした顔でマインをじっと見つめる。


「話したくないってことは、それだけの事情があるんだろ?人に話したくないことって、1つや2つあるもんだしな。そんな状態で無理に聞き出しても、かえってエディーのことを傷付けちまうだろうし、エディーが俺達に話したくなるまで……俺は何も聞かないことにするぜ。」


 マインの言葉を傍で聞いていたクレールは、マインに続く形で言葉を紡ぎ出す。


「ああ、私もマインさんと同意見だ。話したくないことを無理に聞くのは、お互いの関係に溝を生み出しかねない。友人として……話してくれる時を待つことにしよう。」


 優しく語る2人からの言葉に、エディーは眉を下げて申し訳なさそうな表情を浮かべる。


「本当に……それでいいの、かな……?俺……2人に隠し事をしてるのに……。親友同士……なのに……。」

「親友だからって、何もかも知ってるわけじゃねぇだろ?確かに……親友として話して欲しい気持ちはあるんだぜ?けどよ……その前に、お前を傷付けたくない気持ちの方が強いしな。お前が話したくなった時で良いんだよ、気にすんな。」


 そう言ってマインとクレールが表情を和らげて笑みを見せると、エディーは驚いた様子で2人の顔を呆然と見つめる。

 その直後に——エディーは安堵したかのように穏やかな表情を見せ、眉は下げたままなものの、優しい笑みを2人に向けて零した。


「……ありがとう、2人とも……。どこかで必ず、2人に打ち明けるから……その時まで、待っていてくれると嬉しいな。」

「おう。そん時はちゃんと隠さず話してくれよ?変に少しだけ隠されたりすると、気になって仕方ねぇからな。」

「うん……話すと決めた時には、全部話すから大丈夫だよ。……あ、それと……あの遺跡で倒れてたことは、俺にも心当たりが無いんだ。そこは……信じてもらえるかな……?」

「そっか……そのことは、お前でも心当たりが無いんだな?そんな心配しなくても、信じるから安心しろって。」

「うん……ありがとう……。」


 エディーが安心した声で礼を伝えると、マインは頷いて相槌を打ち、話を切り上げて前方へと視線を戻す。

 2人が前へ視線を戻した中で、クレールは顎に手を当てて首を傾げ、目線を落として思考を巡らせる。


(……私達が、エディーさんに『何か知っているか』と問い掛けたのは、丘の上での出来事だったはず……。何故、丘の上へ来たかも覚えていなかったエディーさんが、その問い掛けだけを覚えていたのか……何か不自然ではないか?……いや、エディーさんを疑うわけではないが……森で立ち止まっていた時も、『何かの言葉を話した』ことだけは覚えている様子だったな……。それとも、それらですら口にしたのは無意識だったのだろうか?……いずれにせよ、エディーさんの身に何かが起きていることは確実だ。私達が今置かれている状況と、エディーさんが抱えている隠し事に、何か深い関係があるのだとしたら?私達は……普通の方法では帰れないのではないだろうか……。)


 いつの間にか歩みを止めていたクレールは、後ろからエディーの背中を見つめ、瞼を閉じて首を左右に振る。


(……いや、どうであったとしても、エディーさんが意図的に事を起こしたとは思えない。エディーさんが事情を話す時が来れば、自ずとわかるはずだ。今はただ……エディーさんを信じよう。)


 煩悩を捨てるかのように、クレールは目の前を真っ直ぐに見据えて、速足で青年達の後を追う。

 その一方で、エディーもまた視線を徐々に落として俯き、誰にも聞こえない声量でぼそりと呟く。



「……『親友』だからこそ、話したく無かったのに……。」



 いずれ訪れるであろう告白の時に身を縮めて、エディーは胸に手を当てながら悲しげな表情を浮かべる。

 言ったからには、決意しなければ——そう思いながらも勝る恐怖の感情に怯え、どうしようもない不安と焦燥感に駆られる。


(大丈夫……2人なら大丈夫だって……。でも……もし受け入れられなかったら?俺はまた……独りになってしまうのかな……。……いや、今は悩んでても良いことにしよう……。打ち明けるその時が来るまで、存分に悩んで……それでも駄目だったら、独りになることも受け入れよう……。それが……結末なのだと思うから……。)


 エディーは2人を信じる気持ちと、打ち明ける恐怖の間に挟まれながら、葛藤と諦めを繰り返して思い悩む。

 俯いたまま、しばらくそうしている内に——ふと、青年が足を止めて木材のような何かを叩き、扉が開いた音がしたかと思うと、聞き覚えのある声がエディーの耳に届いた。


「……!良かった……!無事だったのですね……!」


 エディーはすぐに顔を上げて目の前へと視線を向ける。

 そこには——安堵した表情を浮かべてマイン達を見つめている、ヒゥヘイムの姿があった。


「ふと目が覚めて、ゲストルームを覗きに行けば……皆様がいらっしゃらなかったので、心配したのです。家の隅々まで捜して、姿が見当たらなかったもので……これから丁度、捜しに行こうとしていたところでした。本当に……無事で良かったです……。」


 心底安心したように肩の力を抜くヒゥヘイムに、青年は淡々と言葉を紡ぐ。


「彼等は……墓地の丘の上に居ました。積もる話もあるかと思いますが……今はとにかく、中へ入れてあげて下さい。ずっと潮風に当たっていたので、体が冷え切っていると思います。」


 青年からの提案に、ヒゥヘイムは頷いて応えると玄関の扉を大きく広げる。


「そうですね、とても寒かったかと思います。さぁ、どうぞ中へ……ヴェスタも、中で温まっていきますか?」


 ヒゥヘイムからの誘いに、青年——『ヴェスタ』は首を横に振り、通行の邪魔にならぬようにと脇へ身を退ける。


「いえ、お誘いはありがたいですが……遠慮しておきます。俺はこのまま仕事をして家に帰りますので。……では、これで。」


 ヴェスタはヒゥヘイムに会釈をしてマイン達に向き直ると、どこか優しげな瞳で一言声を掛ける。


「風邪を引かないように、気を付けて下さいね。」

「おう、ありがとな!えっと……ヴェスタさん!お陰で色々と助かったぜ。」

「うん……本当に、ご迷惑をお掛けして申し訳ありませんでした……。明日……お詫びも兼ねて、お墓参りをしようと思います。」

「それは良いかもしれないな。安らかな眠りを妨げてしまったことへの詫びをしなければ……。ヴェスタさん、私達をここまで連れて来て頂き、ありがとうございました。私達は……そういえば、自己紹介がまだ……」


 クレールの言葉を制止し、ヴェスタは首を横に振って言葉を紡ぐ。


「今はただ、貴方達の健康を優先して下さい。自己紹介など、この街に居る間はいつでも出来ることですから、今すぐにする必要もありません。それに……貴方達とは、どこかでまた行動を共にするような気もしますから、その時で構いません。それでは、今度こそ……俺はお暇します。」


 ヴェスタは再び頭を下げて軽くお辞儀をし、ヒゥヘイムも改めてヴェスタに感謝の言葉を述べる。


「皆様を見つけ、守って頂いて本当にありがとうございます。ヴェスタも……墓守としての仕事も大事ですが、生ける屍にはどうか……気を付けて下さいね……。」


 ヴェスタの身を案じるヒゥヘイムからの言葉に、ヴェスタは頷いて応えて見せると、そのまま踵を返して墓地の方へと戻っていく。

 それを見送った4人は家の中へ入ると、ヒゥヘイムが温かいスープを用意して3人に振る舞い、マイン達はスープを飲み干して体を温める。


「何があったのか、事情をお聞きしたいところですが……今はとにかく体を温めて、部屋でお休みになって下さい。夜はまだまだ続きますから、しっかりと休息をとって……朝になったら、何があったのか教えて頂けますか?」


 ヒゥヘイムからの問い掛けに、マインはスープの器を置きながら返事を伝える。


「もちろんだぜ。ヒゥヘイムさんにも迷惑を掛けちまったしな。朝になったらちゃんと説明するから、その時はよろしくな。」


 マインからの返事にヒゥヘイムは優しく微笑むと、椅子から立ち上がってマイン達に階段を上るように促した。


「……さぁ、体がまた冷えない内にゲストルームへ戻りましょう。後片付けはお気になさらずに、ゆっくりと休んで下さいね。」

「ありがとうございます……本当に、度々ご迷惑をお掛けして申し訳ありません。お言葉に甘えて、部屋へ戻ることにします。」


 「おやすみなさい。」と一言添えて、クレールはマインと共に階段を上り始め、エディーは申し訳なさそうな顔でヒゥヘイムに向き直る。


「本当にごめんなさい……ありがとうございます……。」


 エディーはそう言うと深くお辞儀をして走り出し、2人の後を追い掛けて階段を上っていく。

 そんなエディーの様子を心配そうに見つめながら、ヒゥヘイムは3人が階段を上がっていく姿を見送ると、スープの器を纏めて台所へと消えていく。

 真っ直ぐにゲストルームへと辿り着いたマイン達は、すぐさま寝台に体を預け、緊張が解れた反動からか酷い眠気と疲労感に襲われた。


「このまま……もう、寝ちまいそうだ……。おやすみ……エディー、クレール……。」


 マインは掛け布団を顎下まで深く被り、瞼を閉じて就寝の体勢に入る。


「ああ……おやすみ、マインさん。」


 クレールもマインとほぼ同時に布団へと潜り込み、ほどなくして微睡む意識の中で就寝の言葉を返すが、未だにベッドの上で体を起こしているエディーの姿を見つけ声を掛ける。


「エディーさんも……ちゃんと温かくして寝るのだぞ?」


 クレールから掛けられた言葉に、エディーは一瞬目を丸くして固まるも、すぐに口元に笑みを浮かべて精一杯に笑ってみせた。


「うん、ちゃんと寝るから大丈夫だよ。心配してくれてありがとう、クレール。……おやすみなさい。」


 笑顔を見せたエディーの顔をしばらく見つめ、クレールは頷いて返事をした後、瞼を閉じて次第に寝息を立て始めた。

 健やかに眠る2人の様子を見て、エディーは眉を下げながら俯き……か細い声でぶつぶつと呟きながら拳に力を込める。



「……本当に、ごめん……2人とも……。話したい気持ちはあるんだけど……親友として居られなくなってしまうんじゃないかって、俺……怖いんだ……。だから……もう少し、もう少しだけ……時間をくれると嬉しいな……。」



 エディーはそう呟くと、再びマインとクレールの顔を交互に見つめ、自身も布団の中へと潜っていく。

 決意を固めるため、あるいは一度安らぎを求めて落ち着くため、エディーも瞼を閉じてそのまま深い眠りへと落ちていったのだった——。



次回投稿日:10月31日(金曜日20時頃)

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