第7話「故郷を探して」
湖の畔に造られた門の様な関所——多くの荷物置き場が併設され、貨物車が通る駅のように線路が敷かれた空間には、箱を乗せたトロッコが何度も往復して荷物を運び出している。
関所の壁は砦と同じレンガで造り上げられ、土台や柱は砂岩を用いた装飾のある資材で組み立てられている。
役人が旅行者や商人の荷物検査を行い、慌ただしく事務処理をこなしている中、マイン達は関所の街側の出入り口を通り抜けた。
「さぁ、着いたよ。ここが、この街にある関所さ。」
レドは歓迎するように両手を広げ、関所の内装を見渡すマイン達の方を見やる。
マイン達は関心を抱いた様子で内装を見渡すがてら、関所を訪れている旅行者や商人の人数を数え、驚いたような顔をレドに向ける。
「……俺達が湖の縁を辿ってた時には全然人気が無かったのに、そこそこの人数がこの関所を訪れてるんだな……。」
何故だろうと疑問を浮かべるマインに対して、レドは「ああ…」と声を漏らして顎に手を当てる。
「君達を保護した場所は、この関所より離れた位置だったからね……。この関所を通っても良かったけど、俺の判断で兵士の居る門の方へ案内したから、人と会わなかったのかもしれないね。」
「あの時は、生ける屍に襲われた直後だったから……レドさんの判断は正しかったのかも……。万が一にも関所の中で変容したら、そこに居る人全員に危険が及んだかもしれないし……。」
自分が生ける屍に変容した時のことを想像し、エディーは心苦しいといった様子で胸に手を当てる。
エディーのその様子を見て、レドはエディーの顔を覗き込み、安心させようと微笑みながら声を掛ける。
「大丈夫、結果的に君は変容しなかったのだし、気にすることはないよ。今はただ、無事に生還できたことを……君達が家に帰るという目的が果たされることを、第一に考えよう。」
レドがエディーを励ます言葉を掛けると、マインも賛同して言葉を紡ぐ。
「そうだぜ。あの時は何も出来なかったけどよ……助けられたお陰で、こうしてまだ生きてるし、救われた命を無駄にしないためにも……必ず家に帰ろうぜ。」
マインは鼓舞するようにエディーの肩を軽く叩き、励ましの言葉を送る。
エディーは一度深呼吸をすると、肩の力を抜いて満面の笑みを浮かべた。
「……うん、そうだね……気を抜いたら、すぐに思い出しちゃって駄目だな……。もう、あの時のことを振り返るのは程ほどにするよ。今はとにかく、帰る方法を探し歩かないと……。」
「ああ、そうだぞ。たまに振り返るのは悪いことではないが、振り返り続けても立ち止まるだけだ。今は歩めるだけ前に進もう、エディーさん。」
顔を上げたエディーの瞳を真っ直ぐに見つめながら、クレールは活を入れるように話す。
「あ、はは……本当に、俺は後ろ向きで敵わないや……。」
困ったように苦笑いをするエディーの背中を、マインとクレールは交互に軽く叩いて活を入れ直す。
背中を叩かれたことに驚いたエディーはバランスを崩して前のめりにふらつき、振り返って2人の顔を見つめながら「もう……」と不服そうに声を漏らすも、顔はどこか楽しげで満更でもないといった様子の笑みを浮かべる。
そんな3人のやり取りを見ていたレドは声を出して笑い、微笑ましそうに穏やかな表情を3人に向けた。
「っはは!本当に……君達は仲が良いね。見ているこっちも嬉しくなってしまうよ。」
その言葉を聞いたエディーは慌ててレドの方へ体を向け、恥ずかしそうに顔を赤らめて目を見開く。
「ちょ……レドさんっ、あんまり見ないで欲しいな……。特に何かしているわけでもなく、ただ単に俺が……2人に背中を押されているだけだし……物理的に。」
エディーがぼそりと呟いた最後の言葉に気が付かなかったか、あるいは敢えて汲み取らなかったのか、レドは微笑ましそうな顔のまま口を開いた。
「いやいや、背中を押してくれる友人が居ることは、本当にありがたいことだよ。お互いがお互いの背中を押し合うことができれば、乗り越えられないことも乗り越えていけるさ。色々な偶然が重なった末に生まれた縁を……お互いのことを、大切にするんだよ。」
レドの話を聞いた3人はお互いの顔を見つめ合い、レドに向けてしっかりと頷いてみせた。
「もちろんだぜ!俺達はお互いに、大切な親友だってわかってんだ。何があっても見捨てねぇし、これからもずっと一緒だ。……だろ?クレール、エディー。」
「問われるまでもなく、だ。私は2人との出会いに感謝しているし、大切にしたいと思っている。……もちろん、レドさんとの出会いもですよ。」
「俺も2人と同じ気持ちだよ。2人に出会えたから、今の俺があるし……。……そう、レドさんと出会ったことも……大切にしていきたいな。」
3人の話を聞くつもりが、唐突に向けられた自分への好意に、レドは不意を突かれたかのような気の抜けた顔をして3人を見やる。
「……参ったな、俺に着地するなんて思わなかったよ。君達にそう言ってもらえるのは、とてもありがたいね。俺も、君達との出会いに感謝しているさ。」
レドはそう言い切った後、少しの間、気恥ずかしげに目を泳がせて虚空を見つめ、片手を首の後ろに持っていきながら視線を逸らす。
急に挙動不審になったレドの行動に疑問を感じるも、しばらく様子を見ている内にレドが再び口を開く。
「……申し訳ない、話が逸れてしまったね。そろそろ、旅行者や商人に話を聞こうか。誰が情報を持っているかわからないから、失礼を承知で片っ端から声を掛けてみよう。」
脱線した話を戻すレドに対して、マインは一度首を傾げて質問を投げ掛ける。
「もしかして、レドさん……恥ずかしがってんのか?」
投げ掛けられた質問にレドは一瞬動揺し、旅行者のもとへ近付こうとしていた足を止めて振り返る。
「そ……そういうことではないよ。ほら……俺のことはいいから、君達が必要としている情報を探さないかい?手分けをすればすぐに聞き終わりそうだし、そうしたら港へ案内するよ。……ささっ、そうと決まれば聞き込み開始だ。」
落ち着かない様子で喋り切ったレドは早々に歩き始め、先程向かおうとしていた旅行者のもとへ辿り着く。
マイン達はその後ろ姿を見て少し呆然とした後、不意にクレールが独り言のようにぼそりと呟いた。
「レドさんって……案外、シャイな部分があるんだな。」
クレールの呟きに、マインとエディーは何度か頷いて同調した。
しかし、いつまでも動かないわけにはいかない。
マイン達もそれぞれ手分けをして聞き込みを開始し、帰るための指標である『日本』と『アメリカ』の2つの国の情報を探す。
検査を終えた荷物を抱えて街へ入ろうとしていた旅行者や、まさにこれから検査をしようとしていた旅行者、検査を担当する役人や大量の荷物を抱えた商人に至るまで、現時点で関所に詰めている人々への聞き込みを終えて合流するも、目ぼしい情報は何一つ得られなかった。
関所を街側に出た直後の道端で、4人は向かい合って立ち止まり、各々の考える仕草をして思考を巡らせる。
「ここまで誰も知らないとなると……あとは港で貿易商と行商人に話を聞いた後は、いよいよ新しく得られる情報は無いかもしれないな……。」
考え込むレドの側で、マイン達は落胆する思いを抑え、気持ちを入れ替えるように一呼吸置く。
「情報を得られなかったのは残念だけどよ……ここまできたら、当たって砕けろだぜ。関所が駄目なら、次は港に行って情報収集だ。」
「そうだね……考えていても仕方が無いし、今はとにかく人に聞くしかないよね……。」
「……もしくは、私達自ら旅をして探すしかないが……流石にその方法は、最終手段のようなものだな。生ける屍が闊歩する街外れを、戦う術も無しに歩き回るのは自殺行為でしかない。」
「いざって時には、戦えるようにならないといけねぇのか……?……ひとまず、どうするにしても港に行ってからだな。」
「ああ、そうだな……。忙しなくて申し訳ありませんが……レドさん、次は港への案内をお願いしても宜しいでしょうか?」
申し訳なさそうに頼み込む3人に対し、レドは快く承諾して笑みを浮かべた。
「もちろん、お安い御用さ。ここからもう一度ブラーヴシュヴァリエに戻った後、今度は西の方へ行けば港が見えてくるよ。君達が居た医療施設より、更に奥の方だね。」
レドは軽く手を挙げながら説明すると、何度か通ったブラーヴシュヴァリエの西側を指差す。
「そういえば、領主邸に向かう前に、海とは正反対の方向って言ってたな。……なら、一回医療施設の近くまで戻るんだな。」
「そういうことだね。それじゃあ……早速港へ向かおうか。医療施設までの道のりは君達でもわかると思うけど、御多分に洩れず俺に付いておいで。」
再び先頭に立って歩き始めたレドの後を追い掛け、3人はその場から動き出す。
今一度、ブラーヴシュヴァリエを通り抜けたマイン達は、そのまま西側の道なりを進んで医療施設の近くへと辿り着く。
領主邸へ向かう時には意識しなかった風景を見渡せば、医療施設の周りには畑が隣接した農家の家と思しき緑色の住居があり、その奥には——初めてフロワドゥヴィルに足を踏み入れた際に目に飛び込んできた教会と思しき巨大な建造物が佇んでいる。
他にもいくつか色とりどりの家屋が立ち並び、看板が立て掛けられている様相からして何かの店であろうことが察せられた。
周囲を見渡しながら歩くマイン達の動きに気が付き、レドは一度足を止めてマイン達の方へ振り返る。
「この辺りは商業施設がひしめき合っててね。農家に薬屋に織物屋、革細工屋や万事屋に至るまで様々な品々が取り揃えられているんだ。名物はやはり……氷かな。」
「氷……ですか?」
果物や野菜、畜産物といった食物類はもちろん、鉄製品や革製品でも無い『氷』が特産品だということに、クレールは不思議そうな声で問い掛ける。
「ああ、『氷』が特産品だということに少し驚いているのかな?実はね……この街が保有する海域の一部で、『溶けない氷』が砕氷されるのさ。その名の通り、滅多に溶けることが無い氷でね……何故溶けないのかは解明されていないが、作物が腐るのを遅らせられることで、交易品としてはそれなりに人気が高いんだ。」
特産物について語ったレドの説明に、クレールは関心したように声を漏らす。
「溶けない氷ですか……確かにそれは、食料を保存する観点でとても役に立ちそうですね。」
「そう、特に肉類なんかは腐りやすいからね……。この氷のお陰で、しばらくは生肉のままでも、何度か分けて料理をすることができたり、釣りあげた魚の鮮度を保ったまま持ち帰ることができるようになったのさ。この自然が齎してくれた恵みに、俺達は感謝しなければいけないね。」
少し驚いた様子でレドを見つめ返すクレールだったが、レドは「さぁ、港はすぐそこだよ。」と言いながら踵を返し再び歩き始める。
離れていくレドの背中を見て、クレールはマインとエディーの方へ視線を送るも、2人はクレールと同じ様に驚いた顔で互いに見つめ合った。
「なぁ……もしかして、冷蔵庫が無いのか……?」
「……まぁ、この街はどう見ても発電しているようには見えないからな……。暮らしぶりも、文明の利器を用いない暮らしに依存していると言えばそれまでだが……」
「それにしては……俺達が普段過ごしている暮らしぶりとは、あまりにも違くないかな……?なんだか、俺……凄く嫌な予感がするよ……。」
「多分、そう思うのはエディーだけじゃないぜ。俺も……クレールも、この世界に違和感を感じてんだ。まるで……俺達の住む国が、帰る場所が……無くなっちまったみたいな……。」
「その疑問を解消するためにも、確信を得るためにも、もう少し調べる必要があるな。港での情報収集と、ヒゥヘイムさんが掛け合ってくれている友人への聞き込みが終わり次第、私達が倒れていた遺跡に戻るのも手かもしれない。」
「確かに、俺達が訳も分からず倒れてた場所は遺跡だもんな。人を捜すためにさっさと遺跡から出ちまってたし、調べるのも有りだよな。」
クレールの提案にマインとエディーが納得したように頷いていると、遠くからレドの声が聞こえ、手を振りながら走って戻ってくる様子が見える。
「居た居た!申し訳ない……先に行き過ぎて、置いてってしまっていたかな?」
辿り着いたレドに向かい合い、クレールはすぐに謝罪の言葉を述べる。
「いえ……私達が立ち話をしてしまっていたのです。道案内をお願いした立場であるというのに、すぐに付いていかず申し訳ありません……。以後、充分に気を付けます。」
頭を下げて謝るクレールに続き、マインとエディーも頭を下げて謝罪の意を示す。
「わ、わりぃ……そうだよな、つい3人で固まって話しちまった……。」
「うん……本当にごめんなさい……。俺達、失礼なことを……」
次々に謝るマイン達を見て、レドは首を左右に振って顔を上げるように促す。
「そんな謝ることではないさ。むしろ、立ち話をしているだけで良かったよ。置いてって迷子にしてしまったのかと、随分慌てたものだからね。だから大丈夫、顔を上げてくれるかい?」
レドがそう伝え終えると、マイン達はゆっくり視線を上げてレドの顔を見つめる。
「……ありがとうございます……。レドさんは本当に、優しい人だね……。」
エディーが安心した声で話すと、レドは「よしておくれよ。」と前置きして、少し照れくさそうに話を続ける。
「俺はただ、しんみりした雰囲気が似合わないだけさ。もともと、ここで立ち止まったのも俺だからね。君達が気にすることではないのさ。」
レドはそう言って笑い掛けると、港の方へ体を向けながら3人を誘導する。
「さぁ、今度こそ行こうか。丁度、寄港する最後の船が到着したところだったからね。大勢の人が港に集まっていたよ、たくさんの人から話を聞く絶好のチャンスさ。」
そう言いながら歩き出すレドの背中を、3人は今度こそ追い掛けて港へと向かった。
港への通り道にはいくつかの屋台が店を構えており、食欲をそそる匂いが周囲に充満している。
屋台での買い物を済ませた客と思しき人々が、屋台の近くに備え付けられた椅子に腰を掛け、肉などを美味しそうに頬張っている。
木材で造られた階段を降り、丸石で固められた地面を踏み締めて、木造の酒場の横を通り過ぎれば……海の上に木で造られた道が眼前に広がり、広大な海が姿を現した。
「着いたよ。ここが……この街の貿易の要である、『冬の港』——『イヴェルポール』さ。」
振り返りながら港の名を伝えるレドの背後には、船から降りる人や荷を詰め込む人などが忙しなく往来している様子が垣間見える。
立ち止まっていれば凍えそうな冷たさの潮風が吹き付ける中でも、港を往来する人々は寒さを感じさせないほどに活気で満ち溢れている。
レドに誘われるまま、港の道を歩き始めたマイン達は、数隻の船が停泊している港の縁まで辿り着いた。
「……さぁ、聞き込みを始めようか。今度もまた、手分けをして色々な人から話を聞いてみよう。ただ……関所に比べて港は広いからね。ある程度聞き込みが終わったと感じたら、この場所に戻ってくることにしよう。集合場所を決めておいた方が、迷いにくいと思うからね。」
レドの提案に3人は頷き、視線を送る——もしくは指を差して各々が行く方向を指し示す。
「なら、俺は一度戻って酒場の辺りを聞き込みしてくるぜ。酒場って人が集まるからな、色んな話が聞けそうだし。」
「それなら私は、到着した船の周辺に居る人々に話を聞いてこよう。船乗りや貿易商から話が聞ければ、疑問の解消に一歩近付きそうだからな。」
「だったら俺は……船から離れて街に向かう人達に声を掛けてみるよ。俺達が通ってきたあの木製の道のところなら、行き交う人に話し掛けやすいだろうし……。」
「……となると、俺の担当は積み荷の点検をしている人や港に留まっている人々になるかな。それじゃあ……各々の方針が決まったところで、聞き込み開始といこうか。」
4人は一度別れると、それぞれが伝えた通りの場所へ赴き、人々に再び話を聞いて回る。
マインは酒場で休憩中の船乗りや商人、旅行者や店員に至るまで、酒場に居るほぼ全員に話を聞いたものの、やはり有力な情報は得られなかった。
「……すまないね、そんな国は見たことも聞いたことも無いよ。」
「そっか……いや、ありがとうな!話を聞いてくれて助かったぜ。休憩中に悪かったな。」
クレールは船の点検や清掃を行っている船乗り達に話を聞いて回り、断片的な情報でも得られないかと模索するが、それでも合致するような情報は得られない。
「俺は色んな国を船で行き来してるが、んな国は知らねぇな……。あんた、俺達でも知らないような遠い国から来たのかい?」
「どうやらその様ですね……あっ、いえ……こちらの話です、どうかお気になさらず。」
エディーは港へ向かうための道で立ち止まり、行き交う人々に休まず声を掛けるも、期待を得られそうな話は出てこなかった。
「知らないわ……そんな国があるのなら、一度行ってみたいけど。……それより、お兄さん……見た事ないくらいイケメンね!この街の人?もしかしてナンパ!?私で良かったら一緒に……」
「え……?いや、そういうわけじゃ……」
やがて、充分に聞き込みが終わったと感じた4人は次々に集合場所に集まり、お互いの成果を報告し合う。
「空振りだぜ。やっぱり情報はなんも得られなかった。」
「私もだ。船乗りや貿易商に話を聞いてみたが、誰も私達の国を知らないという。」
「俺の方も目ぼしい情報は無かったよ。……そうか、ここまで誰も知らないのか……。」
「俺も色々な人に話を聞いてみたけど、駄目だったよ……。みんな思い出そうとしたり、傍に居る友人にも聞いてくれたりしたけど、誰も知らないって……はぁ。」
溜め息を吐いたエディーの様子を見て、マインは珍しそうに首を傾げる。
「どうした?エディー。お前が溜め息吐くなんて珍しいな。なんかあったのか?」
「あっ、いや……ごめん……。俺の聞き方が悪かったんだと思うんだけど、変な勘違いされちゃって……どっと疲れが……。」
疲れを癒すように肩の力を抜くエディーの様子を見て、マインは察したかのように目を細める。
「……あぁ、そういうことか……。お前……容姿が良いからって見たがるファンも居るんだし、そのへん自覚して気を付けろよ?その内、変な奴に纏わり付かれるぞ。」
「えぇ……?そうなの……?俺なんかより……マインやクレールの方がずっと格好いいと思うけどな……。」
エディーは悩ましそうに頭を抱え、レドはその様子を微笑ましそうに見つめる。
「君達全員、良い顔をしていると思うよ。それに関しては、みんな自信を持って良いのではないかな?それはそうと……動き続けて流石に疲れただろう?医療施設でも聞いた海沿いのカフェに行って、一休みしないかい?」
その言葉を聞いた3人の表情はパッと明るくなり、レドに向き直って嬉しそうな表情を見せる。
「いいのか?レドさん。」
「ああ。襲われたり、医療施設に詰めたり……聞き込みで歩き回ったり、忙しかっただろう?少しくらい休憩しないと、君達の身が持たないさ。もちろん、代金は俺が支払うから、遠慮せずに食べていいよ。腹が一杯になったら、きっと少しは元気が出てくるさ。」
「何から何まで世話になって、太っ腹だな……。……ありがとうございます、お言葉に甘えて……休憩を取らせて頂きたいです。」
「うんうん、今までのことを整理する場も必要だろうからね。ゆっくり食べながら、身も心も休息をとろう。……さぁ、港を左に曲がってすぐの建物がそうさ。一緒に行こう。」
レドが指差した方向に釣られて、港から向かって左手側を見やると、僅かな小島の上に建てられた建造物が目に映る。
石造りの土台に、落ち着いた赤いレンガの壁で建築された建物は、あまりの島の小ささから本当に海の上に立っているようにも思えた。
他の人々もそこへ向かい、出てくる人は満足そうな顔をして建物を後にすることから、そこが店なのだろうとすぐに察しがつく。
そんな人々の様子を見ていたエディーは腹部を抑え、気恥ずかしそうな顔で小さく声を漏らした。
「あはは……今、お腹の音が……。」
「ははっ、お腹が空いたのかい?それは丁度良かった。好きなだけ食べると良いよ。変に遠慮されると、気まずくなってしまうからね。……今の時間は人が多いだろうから、少し待つかもしれないけど……それ以上に待ち時間を増やさないために、早速行こうか。」
レドが歩き始めたのと同時に、マイン達も歩みを進めてカフェへと向かう。
何度も繰り返した聞き込みの結果、得られた情報をもとに……胸に抱いた違和感が確信へと変わる、その時まで……そう遠くないのだろうと、3人は徐々に悟り始めていた——。
次回投稿日:10月3日(金曜日20時頃)




