第19話「『化け物』」
医療施設の外から聞こえる騒がしい声に誘われ、マインとクレール、ヴェスタの3人はエディーを病室へと残し、医療施設の外へと赴いていた。
喧騒の原因を探ろうと、マイン達が周囲を見渡すと……医療施設の近くで、街の人々が円形に集いながら1人の人物を囲み、中央に佇む人物の声に耳を傾けている光景を目の当たりにする。
マイン達は何事かと、集う人々の傍へ寄ると——次第に中央に佇む人物の主張が、ハッキリとした声でマイン達の耳に聞こえてくる。
中央に佇む人物の姿は、マイン達にとって覚えのある容姿であり、聞き覚えのある口調で周囲の人々に必死に訴えかけていた。
「この街には……『化け物』が居るのですよ!あの黒い亀裂と関わりのある……恐ろしい力を持つ『化け物』が!!」
人々の中央で、必死に語りかけていた人物は——マイン達に取引を持ち掛けた挙句に、地下遺跡にてエディーを連れ去った、自称行商人である細身の男の姿だった。
細身の男は辺りを見渡しながら演説を続け、やがてマイン達の存在に気が付くと、マイン達に指を差しながら強い口調で喚き散らした。
「っ……!アイツらだ!!アイツらの仲間である紫髪の男は……黒い亀裂を呼び寄せている『化け物』ですよ!!」
細身の男の主張に、街の人々は酷くどよめく。
「紫髪って……さっき医療施設に運ばれた人のことか……?」
「信じられない……。その人が、街に黒い亀裂を呼び寄せてたって言うのか?」
「にわかには信じ難いが……さっきの地震のこともあるし、もしかして本当の話なのか?」
細身の男の主張に惑わされ、街の人々がボソボソと噂話を始める中、マインは険しい顔付きで人々に声を掛ける。
「ちょ……ちょっと待ってくれよ!エディーは……アイツはこの街に黒い亀裂を呼び寄せたりなんかしてないぜ!?」
「ああ、そこに居る商人の主張は間違っている。早急に……今の発言を撤回してもらいたい。」
「我々の街は、一度彼らに救われています。そのことを忘れてはいけませんよ。」
異を唱えたマインに続き、クレールとヴェスタもエディーを擁護すると、細身の男は逆上したように声を荒らげる。
「私は見たのだ……!この街の近くにある地下遺跡で……黒い亀裂から現れた謎の黒い腕に、あの男の力が使われ、生ける屍を呼び寄せていたのを……!!あの紫髪の男は……生ける屍を呼び寄せる悪魔なのだ!!」
喚き散らす細身の男の言葉を聞き、周囲の人々はより一層ざわめいて不安げな声を漏らす。
「生ける屍を呼び寄せるだって……?」
「そんな力を持った奴が居たら……また、この街は生ける屍の大群に襲われるんじゃないか……?」
「そんなの嫌よ……!また生ける屍に襲われるかもしれないなんて……恐ろしくて、おちおち寝てもいられないわ!!」
「もし、それが本当なら……俺達は、塀の中に居ても、生ける屍の恐怖に怯えて暮らさなくちゃならないのか……?そんなの……冗談じゃないぜ……。」
好きに話を進める人々に耐え兼ねて、以前マイン達にハーブティーを淹れた医療施設の女性職員は、慌てた様子で狼狽える人々に声を張り上げる。
「ちょっと待って下さい……!彼らは安全地帯に居たにも関わらず……フロワドゥヴィルの危機にいち早く駆け付けて、領主様とレドさんを助けてくれたわ!2人が治療を受けられているのも……今ここに居る彼らが身を挺して、生ける屍と戦ってくれたお陰なのよ!?そんな彼らが……生ける屍を呼び寄せただなんて、到底思えないわ!」
声を荒らげてマイン達の名誉を守る女性職員の言動に、街の人々はバツの悪そうな顔をしてお互いの顔を見合わせる。
「先程も言った通り、この街は……彼らの無謀とも見える尽力のお陰で助かったと言っても過言ではありません。彼らが必死に生ける屍に立ち向かったからこそ……我々は、今でもこの街に居られるんです。彼らの行いを……蔑ろにする気ですか?」
人々を説得するため、女性職員とヴェスタが言葉を紡いでいると、横から細身の男が捲し立てるように横槍を入れる。
「あの『化け物』の肩を持つつもりか!?現に貴様は見たであろう!?あの男が持つ力が……生ける屍を呼び寄せた、その様を!あの男は英雄でも、救世主でもない……ただの『化け物』だ!!」
頑なにエディーを貶める発言を繰り返す細身の男に、マインとクレールは怒りを露わにして思わず声を漏らした。
「お前……さっきから聞いてりゃ、エディーのことを化け物、化け物って……。これ以上……エディーのことを『化け物』呼ばわりすんのはやめろ!!」
「貴様の方こそ……欲に任せてエディーさんを連れ去り、その力を利用しようとしていたじゃないか。おまけに商品として『物』扱いしただけでなく、エディーさんのことを『化け物』呼ばわりなど……いい加減、好き勝手に人を傷付けるのも大概にしろ!!」
マインとクレールが怒りの声を上げると、人々は細身の男へ目を向け、細身の男はたじろいだ様子で焦りの表情を見せる。
「ま……惑わされるな!!奴らの言っていることは全てデタラメだ!!私があの『化け物』の力を欲したなどと……そんなことあるわけが無い!むしろ私は……あの『化け物』の危険性を皆に知らせようと……!」
細身の男がそこまで言葉を紡いだ、次の瞬間——マイン達の背後から、か細く震えた、呟くような声が聞こえてくる。
「……俺は……化け、物……」
その言葉を聞いたマイン達は思わず振り返り、医療施設の扉へと視線を向ける。
医療施設の扉の前には——部屋で休んでいるはずのエディーの姿があり、エディーは強張った表情で目を見開いている。
「エディー!?お前……出てきたのか!?」
「なぜ……出てきてしまったんだ?部屋で休んでいてくれと言っただろう?」
2人に問い掛けられたエディーは、マインとクレールの顔を交互に見つめ、弱々しい声で呟くように答える。
「……言い争うような声が聞こえてきたから、つい……。皆に何かあったんじゃないかって、心配で……」
エディーが2人の問いに答えていると、細身の男がエディーを指差しながら声を張り上げる。
「あの男だ!あの紫髪の男が……生ける屍を呼び寄せている元凶だ!!『化け物』なのだ!!」
細身の男に名指しされ、エディーは再び強張った表情を浮かべると、後退りをして小さく声を漏らす。
「……化け、もの……。……そうだ、俺はやっぱり……みんなからしてみれば『化け物』なんだ……。こんな『力』……見せるべきじゃなかったんだ……。」
エディーは瞳に涙を溜めると、恐ろしいものを見たかのような顔で言葉を続ける。
「俺のせいで、みんなが……皆を傷付ける羽目にもなった……。……やっぱり、怖いよ……秘密を打ち明けるなんて……。……俺が居たから、皆が危険な目に……無理だ、俺は……一体どうすれば償える……?」
身を震わせて頭を抱え、目を見開きながら呟き、瞼を閉じて俯いたエディーの瞳に……仄かに赤黒い光が輝いていたことを認識したマイン達は、慌ててエディーに駆け寄り、宥めるように声を掛ける。
「大丈夫だって!安心しろ!お前が何の力を持ってようと……俺達はずっと味方だぜ?……な?」
「力についても、無理に話さなくていい。打ち明けるのが苦しいなら……時間を置いて、ゆっくりと話そう。」
「誰がなんと言おうと……貴方達が持つ力が、この街を救ったのは間違いありません。そのことは、覚えておいて下さいね。」
エディーに優しく声を掛けるマイン達の姿を見つめ、細身の男は鼻を鳴らして見下すように顎を上げる。
(このまま奴を問い詰め、周りに居る馬鹿どもを扇動してしまえば……あの男はこの街に居られなくなり、外に出て孤立するはず……。そこで奴を捕らえ、船で逃げおおせてしまえば……邪魔な囲いも諦めざるを得ないはずだ……。)
邪な企みを持った細身の男は、期待に胸を躍らせて思考を巡らせる。
(奴が黒い亀裂から現れる謎の腕に狙われたことは想定外だったが……それなら、黒い亀裂を打ち破れる力をネタに、他所へと売り飛ばしてしまえばいい……!一度、高額で売り付ければ……後はその金を持って、雲隠れをするだけだ。一生遊んで暮らせる金が手に入るかもしれん。)
細身の男は得意げな顔で口元に笑みを浮かべると、街の人々に聞こえるように大袈裟な声で言葉を紡ぐ。
「……ふん、そら見てみろ!その男は、今……自分が『化け物』であることを認めたのだぞ!?そのような危険な力を持った存在を……街に置いて何になる!?生ける屍を呼ぶような『化け物』は……さっさとこの街から追放してしまえばいいのだ!!」
まるで演説のように、細身の男が周囲の人々を煽り、扇動するかのような言動をしていると、クレールは何か違和感を抱いた様子でハッとした表情を浮かべる。
「お前……もしかして、孤立したエディーさんを再び狙うつもりか……?」
クレールの発言を聞いたマインは驚いた顔を見せ、細身の男に声を張り上げる。
「てめぇ……!あーだこーだ言って、エディーをこの街から追放させた後、また追い回して捕まえようって魂胆か!?そんなこと……絶対にさせねぇぞ!」
声を張り上げるマインの言葉を聞き、細身の男は飄々とした態度でマイン達に挑発を仕掛ける。
「おやぁ?私はそんなこと、一言も言っておりませんが……貴方がたの言う、憶測でものを語るのはやめて頂けますかねぇ?私はただ……この目で見た事実を、皆様にお伝えしているだけなのですよ。それを……ありもしないことをベラベラと喋って、皆様を惑わすのはやめて頂きたいところですねぇ。」
道化師のような笑顔を浮かべてマイン達を挑発する細身の男の姿に、周囲の人々は動揺を隠せずヒソヒソと話を始める。
「結局……どっちの言ってることが正しいんだ……?」
「……私は、この街を救ってくれた人のことを信じたいけど……。正直なところ……黒い亀裂に襲われるのは、もうゴメンよ?」
「どっちにしたって、この街はもう終わりなんだ……。一度黒い亀裂に襲われた街は、もう元には戻れねぇんだよ……。」
「それなら……俺は、出来る限り平穏な日々を暮らしたい……。もう、あんな惨劇を目にするなんてゴメンだ……。」
「そういうことだから、申し訳ないんだけど……この街から、出て行ってくれないか……?」
申し訳なさそうに、しかし冷ややかな視線を向けてくる街の人々に驚き、マインは首を左右に振って思わず弱気な声を漏らした。
「そんな……アイツの言うことを信じるってのかよ?コイツは……エディーは……街を危険を晒すような奴じゃないって……」
「お前は……どこまでエディーさんを傷付ければ気が済むんだ?さっきの言葉を……そのまま返して……っ!」
クレールが怒りの声を上げて身を乗り出した瞬間、ヴェスタがクレールの肩を掴み、冷静な口調で2人を宥める。
「奴の言動に踊らされてはいけません。奴の挑発に乗っては……エディーが危険因子であることを認めることになります。」
「けどよ……!ダチがあそこまで言われて、じっとしてるわけにもいかねぇ!」
「ああ、エディーさんは……私達の大切な友人だ。友人をあそこまで悪く言われて……黙って見ているわけにはいかない!」
「気持ちはわかりますが……落ち着いて下さい。エディーが持つ力が……使いようによっては危険であることは、貴方達も目にしてよく知っているはずです。しかし、その力は決して『悪』だけでは無いのだと……彼らを説得して、疑いを晴らさなければなりません。それができるのは……エディーの人柄をよく知る、貴方達しか居ないんです。ここは貴方達の落ち着いた言葉で、彼の思惑を阻止しなければ。」
ヴェスタから宥められたことで、マインとクレールは落ち着きを取り戻し、深く深呼吸をする。
「……そうだな。ちと頭に血が上ってたぜ……。アイツの挑発に乗ってたら……それこそ、相手の思う壺だな。」
「確かに……エディーさんの力を間近で見た私達だからこそ、冷静に物事を伝えなければなりませんね。私としたことが……少し、気が動転していました。」
「無理もありません。友人を侮辱された貴方達の気持ちは、俺にもよくわかりますから……。」
「俺達で、エディーは危険な奴じゃないってことを伝えようぜ。エディーは意図的に生ける屍を呼ぶような奴じゃないってことを、この街の人々に伝えて……」
マイン達が街の人々を必死に説得しようと相談している最中——エディーが不意に口を開き、呟くように声を漏らした。
「……いいんだ。マイン、クレール、ヴェスタさん……俺を庇ってくれて嬉しいけど……もう、いいんだ……。」
エディーの今にも消え入りそうな細々とした声を聞き、マイン達は後ろを振り返って俯いたままのエディーへ視線を移す。
「……わかった、わかった、よ……。俺は、この街を出て行くから……マイン達のことは、追い出さないでいてくれるかな……?」
震えた声で話すエディーの言葉に、マインはエディーの顔を見つめて声を張り上げる。
「もういいって……いいわけないだろ!お前……誤解されたままでいいって言うのか!?」
「もういいんだ!実際に……俺の力が生ける屍を呼び寄せたことは事実だし、もうこれ以上……俺の力のせいで、誰かに迷惑を掛けたくないんだ……。」
マインからの言葉に、エディーは首を左右に振って答えると、顔を上げて悲しげな表情を見せる。
「俺は……この街から離れるよ。俺の力のせいで……皆に迷惑を掛けて、ごめんなさい……。償えるとは思っていないけど……俺がここから出て行けば、全て丸く収まるから……それで、いいんだよ……。」
エディーはひとしきり言葉を紡ぎ出した後、無意識の内か——頬に涙を伝わらせ、眉を下げながら瞼を閉じて優しげな笑みを浮かべる。
儚くも見える、その笑みを見たマインは——悔しそうに歯を食いしばり、エディーに詰め寄って声を荒らげる。
「……なんで、お前が謝らなくちゃならないんだよ!!お前は……何も悪いことしてないだろ!?お前が一番傷付けられて苦しんでるのに……そんな悲しい顔で、笑わなくたっていいんだぜ!?」
マインがエディーの両肩を掴んで気遣いの言葉を掛けると、エディーは目を丸くして呆然とマインの顔を見つめる。
「それに……お前がこの街を出て行くってんなら、俺達も一緒に行くぜ。お前だけを外に置いて、街の中に居られるかってんだ。」
マインの口から出た言葉に、エディーは驚いた顔をして戸惑う仕草を見せる。
「そ、そんな……!それじゃあ……マイン達にも迷惑が掛か……」
「んなの気にすんなよ。俺は……お前らと一緒に、元居た場所に戻りたいだけだぜ?」
「ああ。さっきの話が憶測だったとして、実際にエディーさんの力を狙う奴は居たのだから、エディーさんを1人にするわけにはいかない。私たち皆で一緒に……元居た場所に帰ろう。」
2人の温かい言動を受けて、エディーは再び瞳に涙を溜め、俯きながらか細い声を漏らす。
「……マイン、クレール……。……ごめん、俺のせいで……」
「だから謝んなっての。お前は何も悪くないんだからさ……。」
「街を出たところで、やるべきことは同じだ。いずれは街を出なければならなかったし、この機会に外で帰るための手掛かりを探そう。」
「そういうことだから、俺達はこの街から出て行くぜ。心配しなくても、もうこの街に近寄ることはしねぇし、安心してくれよな。」
マインとクレールは街の人々へ向き直り、自身の平静を保つように静かな口調でエディーの力について弁明する。
「ただし……これだけは覚えておいてくれよな。エディーは……エディーが持つ力は、生ける屍を呼び寄せるために在るもんじゃないってことを。」
「確かに、エディーさんが持っている力は……生ける屍を呼び寄せたこともある。それは……認めざるを得ない事実なのはハッキリとさせておこう。しかし、それはエディーさんが邪な企みを持つ者に捕まり、その力を利用されたことで起きたものだ。エディーさん自身に……生ける屍を呼び寄せる意図は無いし、ましてや街に危険を齎した『化け物』でも無い。」
「むしろ、親友である俺達にすら話すのを躊躇っていた力を……エディーは街を救うために使ったんだ。エディーが生ける屍を呼び寄せたなら、そんなことする必要も無いし、今見ている通り……エディーは自分が傷付けられても、誰かの想いを優先するような奴だ。そんな奴が、生ける屍を使って人を傷付けるような真似をすると思うか?エディーが力を使ってくれなかったら、今頃俺達は死んでいたかもしれないし、街にももっと大きな被害が出てたかもしれない。そのことだけは……忘れずに覚えておいてくれよな。」
そう言って街の人々に背を向けると、マインとクレールはエディーへ改めて視線を移し、声を掛ける。
「行こうぜ、エディー。まだ行くべき場所は残ってるんだ。ここで立ち止まるより……外に出て、少し気を落ち着かせようぜ。」
「レドさんの容体は気になるが……こうなっては、エディーさんの身を守るのが優先だ。ただでさえ……昨日、心身ともにダメージを負ったばかりなんだ。外に出て……静かな場所で一息吐こう。」
マインとクレールが介抱をするべくエディーの身体を優しく支えると、エディーは弱々しい声でぼそりと呟く。
「……ありがとう、マイン、クレール……。俺のせいで……ごめん、ごめん……なさ……」
エディーがボソボソと言葉を紡ぐ中、マインとクレールはエディーの介抱をし、その場から歩き始める。
人々に背を向けたマイン達に向けて、街の人々はバツの悪そうな顔をして小さな声で会話し始める。
「このままで良いの?本当に?私たち、何か大切なものを失っているような……」
「でも仕方ないだろ?生ける屍に襲われちゃ……おちおち寝てもいられないんだ……。」
「彼らには悪いけど、街に留まるつもりが無いんだったら、出て行ってもらうしか……」
「いやはや、でも……それが正しいのかは、わからないねぇ……。」
人々が小声で話を始めている最中、ヴェスタは人々に対して煮え切らない気持ちを胸に抱え、マイン達の後を付いていく。
初めてフロワドゥヴィルに足を踏み入れた時に感じた、あの温かな声色と雰囲気は、一瞬にして黒い亀裂と生ける屍によって奪われてしまったのだと、マイン達は住民たちの話を聞き改めて実感した。
もう、この街には居られないのだろう——そう思いながら歩を進め、3人は街の関門へと歩みを進めて行く。
悲痛な空気が漂う中、細身の男は3人の背中をまじまじと見つめ、怪しげな笑みを浮かべる。
(クックックッ……邪魔者の排除とまではいかなかったが、街から追い出すことはできた。後は緻密な策を練り、奴を捕らえ、船に乗りトンズラするだけだ……!邪魔な囲いが追い掛けてくるだろうが、船に乗ってしまえばこちらのもの。さぁ早速……奴を捕らえるための作戦を練り、実行に移さぬば……!)
細身の男が口元に笑みを浮かべ、邪な企みを想像した、次の瞬間——どこからか聞き覚えのある男の声が街中に響き、人々に向けて呆れたように言葉を紡いだ。
「……やれやれ、この街はいつからこんな冷たい街になったんだい?」
聞こえてきた男の声に、歩き始めていたマイン達も思わず立ち止まり、後ろを振り返る。
「呆れて物も言えないよ。大人げないって、自分達でも気付かないかい?」
人々に向けて、諭すような口調で語り掛ける人物の顔を見つめて、マイン達は目を見開き、驚いた表情を浮かべる。
「……!!」
マイン達の視線の先には——隣に付き添っているヒゥヘイムと、医療施設にて屍化の治療を受けているはずのレドの2人の姿があった。
レドはマイン達からの視線に気が付くと、マイン達に向き直り、片手を上げてマイン達からの視線に応える。
「レドさん……!!」
「やぁ、君達。本当に……苦労を掛けたみたいで、すまないね。」
思わず駆け寄る3人の顔を見つめて、レドは申し訳なさそうに頭の後ろに手を置き、首を軽く傾げた。
マイン達はレドとヒゥヘイムの傍まで駆け寄ると、マインは嬉しそうな顔で声を掛ける。
「良かったぜ……!治ったんだな!」
「ああ。お蔭様で、ピンピンしてるよ。君達が重症者用の治療薬の材料を採ってきてくれたんだって?本当に……頭が上がらないなぁ……。」
「無事に治療を終えたようで何よりです。……ところで、先程の発言からして、今までのことを聞いていたようですが……?」
マイン達に続き、レドのもとへ歩いて近寄ったヴェスタからの質問に、レドはこくりと頷いて返事をする。
「ああ、聞いていたさ。屍化の治療を終えて、少しは動けるようになったからね。君達の居る病室まで、領主様と一緒に挨拶に伺おうとしたんだ。そしたら……君達の姿は病室には無く、代わりに外で言い争うような声が聞こえてくるじゃないか。そのまま耳を澄ませて聞いていたら……君達がこの街を出るという話が聞こえてきて、こうして領主様と外に出てきたというわけさ。」
レドは経緯を説明し終えると、街の人々に向けて声を掛ける。
「彼らは街を救った恩人なんだ。そんな彼らを追い出そうとするなんて……一体、何があったんだい?」
レドからの質問に、街の人々は口籠りながら小さく言葉を紡ぐ。
「そ、それは……そこに居る商人が、紫髪の彼は危険だと言って……」
「……ふん、責任転嫁か?貴様らとて……生ける屍の被害には遭いたくないだろうに。それに……実際に生ける屍を呼び寄せたのだと、そこに居る男は自ら認めたのだぞ?生ける屍を呼び寄せた『化け物』を、街から追い出して何が悪い?」
「……なるほど、彼が生ける屍を呼び寄せたから、街にもう一度危機が訪れるのではないかと心配なんだね。」
人々の話を聞いたレドが納得したように首を縦に振ると、細身の男は勝ち誇った顔で自信満々に声を上げる。
「そうだとも!それを貴様ら、領主様の囲いときたら……やたらその男達を庇うではないか!貴様らは、本当にその男の危険性を理解したうえで、庇うような発言をしているのか?それとも……領主様がわざと、そこに居る『化け物』をこの街に招き入れたのではありませんよねぇ?だとすれば……とんだ領主様を持った街だ!ここは!!」
高笑いをするかの如く、声量を上げて大袈裟な仕草を見せる細身の男を一瞥し、レドは再び静かな口調で人々に問い掛ける。
「事情はわかったよ。それなら何故、彼らが『この街を救おうとしたか』という理由を、君達は知っているのかい?」
レドからの問いに街の人々はどよめき、声を漏らす。
「それは……知らない、けど……」
「……なら、俺と領主様の話を聞いてくれるかな?彼らが如何にして、この街を守ろうとするまでに至ったのか……その理由を話そうと思う。彼らへの誤解を解くためにね。」
レドはそう言ってマイン達に笑顔を向けると、ヒゥヘイムと顔を合わせ、頷いてから話を始める。
「俺と彼らが出会ったのは、街の近くにある湖の畔なんだ。俺はその時、狩りに出掛けていて、丁度仕事を終えて帰ろうとしていた時に……湖の畔にある森で、彼らが生ける屍に襲われているところを見つけて、咄嗟に助けてこの街まで案内したのさ。それが、彼らと俺が出会うきっかけになったところかな。」
一度言葉を区切ると、レドは当時の状況を鮮明に思い返しながら再び口を開く。
「あの時の彼らは、意図的に屍を呼んでいたようには見えなかった。むしろ……彼らは生ける屍に襲われて戸惑っていたところを、俺に助けられて、心底安堵した様子だったよ。生ける屍は彼らに一方的に襲い掛かっているように見えたし、つまりそれは……彼が生ける屍を意図的に呼んだことにならないんじゃないかな?彼らは当時、武器も携帯していなかったし……彼らが本当に、武器も持たずに、人気のないようなところで、生ける屍を呼び自滅しそうになっていたとでも言うのかい?」
レドの口から発せられた言葉に、細身の男は怪訝な顔をして言葉を返す。
「それは……貴様らの作り話かもしれないだろう?関係者は皆、そこの男達と、貴様らしか居ないのだ。そんな話を……誰が信じるものか。」
細身の男の言葉に、野次馬に紛れて立っていた兵士が咄嗟に声を掛ける。
「いえ……!それは違います!彼らがレドさんに連れられて街に来たところを、私が対応致しました。その時の彼らは武器を持っていませんでしたし、レドさんが嘘を吐く人だとは思えないので、間違いないかと……。」
「私も、街に来たばかりの彼らを施設の病室に入れ、屍化の兆候が見られないか待機して頂いてた時のことを覚えています。医療施設に来たばかりの彼らは、とても憔悴していて……生ける屍を呼ぶような方々には見えませんでしたね。差し入れに淹れたハーブティーをとても良く気に入ってくれて……彼らは丁寧にお礼を伝える、とても誠実な人達でしたよ。」
兵士の勇気に続く形で、医療施設の女性職員もマイン達を庇う発言をする。
「だからどうした?武器を持ってなかったろうがどうしようが、奴が生ける屍を呼び寄せた事実に変わりはない!誠実だと言っても、本性を隠し過ごすことは誰にでもできる!たかがそれくらいのことで……奴の罪を晴らせると思うな!!」
細身の男からの言葉に、エディーは再び強張った表情で俯き、声を漏らす。
「……罪。……俺の、『罪』……」
俯いて不安げな声を漏らすエディーの姿を見兼ねて、レドは「それなら……」と話を続ける。
「なら……この街のために戦った彼らの勇姿はどうするんだ?彼らは生ける屍に襲われた街を、命を賭して戦い、黒い亀裂から街を守ってくれたんだぞ?」
マイン達が『街を救った』という功績は大きく、その事実を突き付けられた人々は口を噤む。
「彼らがこの街を救った理由の中に、世話になった俺や領主様、街への恩返しという名目があったんだ。彼らがこの街に来たのは、たった2日前という短い期間なのに、彼らはこの街に恩を感じて、その恩返しがしたいと言ってくれていたんだよ。俺は確かに……結果的に彼らの命を救った恩人かもしれない。けど……だからと言って、命を失うような危険を冒してまで、俺達の命を救うための行動を起こせるだろうか?誰かに命を救われたからといって、自ら危険を冒してまで行動に移せるなんて……そうそう出来るものじゃない。彼らは迷いなく、それをやってのけたんだ。もし、彼に生ける屍を引き寄せてしまうほどの強大な力があったとしても、その受けた恩義を……誠意を仇にして返してまで、彼を街から追い出そうとするなんて……俺には、恥ずかしくてできないよ。彼は決して、危害を加えてくるような『化け物』じゃない……誠意ある『人間』なんだ。」
「彼が生ける屍を呼び寄せてしまったのも、悪意のある者に捕らえられ、その力を利用されてしまったから起こったものです。彼本人の意思ではありませんし、彼が悪意に晒されなければ……街を救うほどの希望の光になります。どうして街を救った彼を……責める必要があるんでしょうか?」
「皆様が不安に思う気持ちもわかります。しかし……それは領主である私にぶつけて下さい。怒りと不安の矛先を向ける相手を、間違ってはいけませんよ。」
ヒゥヘイムとレド、そしてヴェスタの必死の説得の甲斐あって、人々の視線が徐々に細身の男へと向けられると、細身の男は慌てた様子で人々に声を掛ける。
「なっ……『化け物』と癒着した者どもに騙されるな!私は、事実を述べているだけで……!」
「貴方も、エディーさんの力を欲して、彼に接近していらしたはずです。私は、その現場を目撃していました。貴方が仰る通りなのであれば、貴方も生ける屍を呼び寄せる力を求めていたことになりますが……そう解釈しても宜しいのでしょうか?」
ヒゥヘイムが医療施設での言動を暴露すると、人々は細身の男に詰め寄って疑問の声を上げ始める。
「領主様が仰るなら、アイツの言っていることはデタラメなんじゃないか?」
「いや、生ける屍を呼び寄せたことは事実だと言っていたが……」
「ちょっと待ってくれ。そういえばアンタは……確かに、街が生ける屍に襲われた後に、医療施設で彼等に話し掛けてたよな?それも……ごまを擦るように話し掛けてたのを思い出したぞ。」
「そうだったの?私はてっきり、あの人は危険を知らせようとしてくれてるのだと思ってたけど、そうじゃなかったのね?」
「口では貶しておきながら、本心では彼が持っている力を狙ってたということか!矛盾する行動の真意を説明してもらうぞ!」
人々から疑いの目を向けられると、細身の男は狼狽えた様子で周囲を見渡し、苦虫を嚙み潰したような表情でマイン達や周囲の人々を睨み付ける。
「おのれ……!私は、奴が生ける屍を引き寄せた危険性を教えてやっているというのに!!貴様等……後で後悔することになるぞ!!」
細身の男は唾を飛ばしながら言葉を吐き捨てると、踵を返してその場から逃走する。
「コラ!待ちなさい!」
慌てて数人の兵士が細身の男を追い掛け、その後ろ姿を遠くまで見送った後、マイン達はヒゥヘイムやレドに向き直って感謝の言葉を伝える。
「ヒゥヘイムさん、レドさん、来てくれて助かったぜ!エディーの名誉を守ってくれて、ありがとな。」
「お2人やヴェスタさんの助力が無ければ、あの男の思う壺になっていたかもしれません。本当に……この街に来てから、ヒゥヘイムさん達には、世話になってばかりですね……。」
マインとクレールから礼を伝えられると、ヒゥヘイムは首を左右に振って申し訳なさそうに眉を下げる。
「いえ……むしろ、これくらいさせて下さい。皆様は街を救って下さった恩人であるにも関わらず、不快な想いをさせてしまい、申し訳ありませんでしたね……。」
「俺が寝ている間に、色々起こってたみたいだけど……君達が悪く言われているのを、黙って見ているわけにはいかなかったんだ。君達と行動を共にしたのは、たった1日だけだというのにね……俺の目には、君達は生ける屍を呼び寄せるような人じゃないと信じていたから、あの商人の言動には、心底憤慨したさ。」
「俺が提案したとはいえ、たった1日行動を共にしただけのレドを救うための行動をしましたからね。自ら危険を冒してまで、誰かを救おうとするなど……なかなかできることではありません。」
「ええ、例えエディーさんが持つ力が強大で、扱い方を間違えれば脅威となる可能性を秘めていたとしても……大きな力には、必ず代償や危険性が付き纏うものです。それらを踏まえた上でも……皆様の行いは賞賛されるべきものです。どうか……あまり自分を責めずに、心身共に労わって下さいね。」
ヒゥヘイムが優しい声色でエディーの心境を気遣うと、エディーは泣き腫らした目でヒゥヘイムを見つめ、再び俯いて小さく言葉を呟く。
「ありがとう……みんな……。……俺のために、色々と気遣ってくれて……」
「すぐにとはいかないと思いますが……少しずつ落ち着きを取り戻して、エディーさん自身の心身を癒してあげて下さい。改めて……街を代表して、貴方を傷付ける事態になってしまったことを、深くお詫び申し上げます。本当に……申し訳ありませんでしたね……。」
ヒゥヘイムが深く頭を下げると、その様子を見つめていた人々が慌てて近付き、マイン達に声を掛ける。
「りょ、領主様が謝ることはないだろ!?君達……本当に、悪かった!俺達があの男の扇動に乗せられたばかりに……酷いこと言って、傷付けてしまったな……。」
「今思えば、馬鹿げた演説に耳を傾けてしまったと後悔しているわ。立て続けに色々とあって、疲れていたとはいえ……そんなもの、言い訳にならないわよね。……ごめんなさい。」
人々が次々に謝罪の言葉を述べると、マインはやや眉間に皺を寄せてエディーの顔を覗き込む。
「エディー……。あの商人が全面的に悪いとはいえ、お前は傷付けられた立場だから……どうしたいかは、エディーに任せるけどよ……。」
街の人々を許すか、許さないか——マインは直接言及はしなかったものの、エディーの意志を尊重して静かに返事を待った。
「……ううん、いいんだ……マイン達が追放にならなかっただけで、俺は嬉しいから……」
「お前な……今さっきヒゥヘイムさんが言ってただろ?自分の心と体を労われってさ。こんな時でも俺達のことを優先して考えるなんて……お前らしいといえば、そうなのかもしれないけどな。」
口元に僅かに笑みを浮かべて笑い掛けるエディーに、マインは呆れたように肩の力を落とすも、どこか安堵した様子で笑い返した。
「君達……さっきは、出て行ってくれなんて言ってすまなかった……。今後とも、この街には滞在しても構わないから、何か助けが必要な時はなんでも言ってくれ。罪滅ぼしのためと思われても、仕方ないとは思うが……。」
街の住人が申し訳なさそうに協力を申し出ると、マインは住人の顔を見つめ返して口を開く。
「気持ちはありがたいんだけどよ……俺達は、街の外に行くぜ。これからは……この街に滞在し続けることも少なくなると思う。」
「えっ!?いや……君達を追い出すつもりは、本当にもう無いんだ。だから……君達は、この街に居て良いんだよ……。」
取り返しのつかないことを口走ってしまったと、街の住人が真っ青な顔で必死にマイン達を引き留めるも、マインは首を左右に振って事情を説明し、徐々にクレールへと視線を移す。
「いや、俺達は家に帰るための方法を探していて、いずれはこの街から出て、外の世界に踏み出さなきゃなって考えてたんだ。この街に閉じ籠ってるだけじゃ、家に帰るための方法を探す手段にも限界があるし……この機会に、街の外を旅して回ろうと思ってる。それでいいよな?」
「ああ。私達は……いずれ家に帰るために、この街を出る予定でいました。勿論、旅に出た後も、この街の付近を拠点として、頻繁に街を訪れたいとも考えております。なので……この街から出ていくという意味では無いということは、あらかじめお伝えしておきます。」
マインとクレールが事情を説明し終えると、取り乱していた街の住人は胸に手を当て、安堵した様子で小さく溜め息を漏らした。
2人の決意に満ちた顔を見つめ、ヒゥヘイムとレドはどこか寂しそうな表情を浮かべてマイン達に声を掛ける。
「いよいよ……この街を出て、旅する時が訪れたのですね。」
「本当は、この街だけで解決方法が見つかれば良かったんだけどなぁ……。流石に、そう上手くはできていないか。」
「確かに、この街で家に帰るための方法は見つかりませんでしたが……それでも、私達が最初に見つけた街が……出会えた人が、レドさん達で良かったと身に染みて感じています。」
「俺達、めちゃくちゃ怪しかっただろうに……俺達の目的が解決するように協力してくれて、本当にありがとうな。」
「ヒゥヘイムさん達が庇ってくれなかったら、この街の人々との関係に亀裂を生んだまま、立ち去ることにもなっただろうし……俺、どうお礼を伝えれば良いのか、わからないな……。」
「お気になさらないで下さい。皆様がこの街を出て、外の世界で手掛かりを探す旅に出立した後も……引き続き、私達にも協力させて下さいね。」
「君達に出会えたのも、きっと何かの縁に違いないはずだ。君達が自分の家に帰れるようになるまで、とことん付き合うさ!命まで救ってもらったからね。」
「最初に助けてくれたのはレドさんだろ?……よし!そうと決まれば……早速行く予定だった王国の遺跡に行こうぜ!」
「ああ、随分と先延ばしになってしまったが……あの遺跡には、私達がこのような状況に陥った原因があるはずだ。まだ、何かしらの痕跡が残っていると良いのだが……。」
マインが王国の遺跡へ向かう話を切り出すと、1歩下がって静かに見守っていたヴェスタが前に出て話に加わる。
「そういうことなら、俺が遺跡まで同行します。元を辿れば、俺から許可を貰うために尋ねて来て、遺跡の調査に向かう途中でしたし……丁度いい機会ですので、そのまま遺跡の中を案内しますよ。」
ヴェスタが案内役に名乗り出ると、マイン達は口元に笑みを浮かべて嬉しそうな表情を見せる。
「本当か!?なら……遠慮なく頼むぜ!」
「ええ、遺跡の中に関しては熟知しているつもりですから、決して無駄にはならないと思います。」
「遺跡の管理をしていたというヴェスタさんの案内なら、これ以上に心強い方はいらっしゃらないですね。」
黒い亀裂による騒動が起きる前——マイン達は自分達が倒れていた王国の遺跡を調査するため、湖の畔に建てられていたヴェスタの家を訪ねたところだった。
マイン達がヴェスタの同行に同意すると、ヴェスタは視線を移してヒゥヘイム達に問い掛ける。
「一応お聞きしますが、ヒゥヘイムとレドは同行しますか?」
「……いや、着いて行きたいのは山々だけど……俺達は病み上がりだから、街で大人しくしてるさ。」
「ええ、街の人々の混乱を鎮めなければなりませんし……こういう時だからこそ、この街の領主として、街を空けるわけにはいきません。」
「その方が、街の人々も安心できるかと思います。私達は大丈夫ですので、ご自身の療養と、街の人々の手助けを優先して下さい。」
ヴェスタの横に並び、クレールもヒゥヘイム達の意思を尊重して声を掛けると、ヒゥヘイムは頷いて相槌を打ち、笑顔で言葉を返した。
「ええ、お気遣い頂きありがとうございます。皆様が捜し求めている手掛かりが見つかることを、切に願っていますよ。」
「……おし!それじゃ……ヒゥヘイムさん、レドさん、行ってくるぜ!」
「ああ、ヴェスタが付いてるとはいえ、どうか気を付けて行くんだよ。」
マインが気合を入れるかのように握り拳を作って別れを告げると、レドも片手を上げてマインの言葉に応える。
「では……行きますよ。俺の後についてきて下さい。」
ヴェスタがそう言って踵を返し、港の方角へと歩き始めると、クレールとエディーも「行ってきます。」と2人に伝えて会釈をし、マイン達はヴェスタの後を追って街の外へ出るための一歩を踏み出した。
ヒゥヘイムとレドはマイン達の姿が見えなくなるまで見送り、マイン達は後ろを振り返ることなく前へと進んでいく。
突然の悲劇に見舞われ、街から光が消えた一連の騒動があった後でも——今は空の頂きから下り始めた陽の光が地上を照らし続け、悲しくも美しい街の風景を取り戻し始めていた。
マイン達は活気に満ち溢れていた街の様子を思い返しながら、様々な想いを胸に抱き、まるで刻み込むように1つ1つの情景に目を通していく。
生ける屍と黒い亀裂による惨劇、そして——エディーが抱えている秘密や、自分達に目覚めた異能について思考を巡らせながら、マイン達はヴェスタの後に続いて、港の南側に位置する小さな木製の門を潜り抜けた——。
次回投稿日:3月20日(金曜日20時頃)




