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夢見る星のウタ  作者: TriLustre
第1章「見知らぬ世界の救世主」

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第16話「宝の正体」

 突如として現れた黒い亀裂と巨大な腕に、マイン達はしばらくの間、ただ呆然と巨大な腕を見上げているしかなかった。

 獣のような鋭い爪を備え、人のものに似た黒き巨大な腕は……掌に開眼する琥珀色の眼を動かして周囲を見渡すと、じっとマイン達を見下ろし続ける。

 その場に居合わせた者の沈黙を破るかのように、男達の内の1人が、恐怖に満ちた顔で声を上げる。


「……な、なんだよ!?あれ!?……まるで、化物の腕じゃ……!」


 男の声を聞いたマイン達はハッとした表情を浮かべ、呆けていた意識を取り戻し口を開く。


「生ける屍にしちゃ、デカすぎるだろ……。なんなんだよ、あれ……」


 マインが疑問を口にしていると、ヴェスタが黒き腕を凝視しながら相槌を打つ。


「俺も、あのような腕は見た事がありません。そもそも……黒い亀裂がこの短時間で2度も現れるなど、異常としか言いようがありませんね。」


 真剣な表情で言葉を紡ぐヴェスタに、クレールは疑問を浮かべてヴェスタに問い掛ける。


「今まで、こういった事は起こらなかったのですか?先程……この短時間の内に、似たような場所で、黒い亀裂が2度も開くなど聞いたことが無いと仰っていましたが……やはりこれは、異常なことなのですか?」


 クレールからの質問を受けて、ヴェスタは目を丸くしながらクレールの方へ顔を向けると、一度冷静になろうと瞼を閉じて一拍置く。


「ええ……これまで、黒い亀裂の被害に遭った話を聞いた中では、2度に亘り……似たような場所で黒い亀裂に襲われた話など聞いたことがありません。いくつかの国が、率先して黒い亀裂に襲われた場所の周辺を調べていますが……現時点で、黒い亀裂が近距離内で複数見つかったという報告はありません。これは各地に共有している情報ですので、間違いないかと……。」

「それじゃあ……今、目の前でとんでもない事が起こってるってのか!?黒い亀裂が2回も出現した上に、見たことも無い腕が生えてきてるんだろ!?なんで……こんな時に……!!」


 ヴェスタが再び瞼を開けて淡々と質問に答えていると、マインは驚いた表情を浮かべ、もどかしさを募らせる。


「早くエディーを助けて、レドさんの所に行かなきゃならねぇってのに……このままじゃ、2人とも助けられねぇぞ!?」


 2人に向けて焦りをぶつけるマインに、クレールは落ち着いた口調で声を掛ける。


「落ち着いてくれ、マインさん。こういう時だからこそ、冷静さを欠いてはいけない。……とは、言うものの……実際に生ける屍が道を阻んでいる状態で、どう動けば良いかはわからないな……。洞窟へ足を踏み入れれば、先へ進むことは叶うが、黒い腕や盗賊達の動向がわからなくなってしまう。かと言って、黒い亀裂から謎の腕が伸びている今、崖を登って上へ行くなど無謀にも程がある。一体どうすれば……」


 クレールが顎に手を当てて思考を巡らせていると、男達の叫ぶような声が響き渡る。


「おいっ!お前!黒い亀裂を打ち破れるんだろ!?だったら……あの化物を倒しやがれ!!」


 男達の声を聞いた3人は顔を上げて、亀裂の2層目へと視線を移す。

 生ける屍によって地上への道を阻まれてしまった男達は、表情を強張らせてパニックに陥り、男の1人はエディーの胸倉を掴んで声を荒らげている。


「お前があの黒い亀裂を打ち破れば……化物も消えるはずなんだ……。だから……さっさとお前の力を使って、あの化物を倒せ!!」


 男はエディーの胸倉を掴んだまま、エディーの体を崖際へと強く引き寄せ、黒き腕に対して正面を向けさせると、その場に座らせて力の行使を強要する。

 エディーは未だに上半身を縛られたまま苦しげに声を漏らしており、異能を使うのはおろか、僅かに瞼を開けて黒き腕を見つめるのが精一杯といった様子だった。

 苦しみに耐えるよう歯を食いしばるエディーの姿を見て、クレールはエディーが苦しむ原因に心当たりがある様子でマイン達に声を掛ける。


「マインさん、ヴェスタさん、不味いかもしれません。エディーさんが……恐らく、街に黒い亀裂が出現した際と同じような状態に陥っているかと……」

「あの……苦しそうに『痛い』とか言ってたやつか!なんで、黒い亀裂が現れたら、エディーが苦しむのかはわかんねぇけど……とにかく、今はあいつを助けねぇと……」


 マインが再び顔を上げて2層目へと視線を移した、その時——黒き腕に埋め込まれた眼が周囲を見渡すのを止め、ある一点を眺めていることに気が付く。

 その先には——崖際に座らされたエディーの姿があり、黒き腕はエディーを琥珀色の眼にしっかりと捉えると、どこからか辛うじて聞き取れる低い声のような音を響かせる。




——「『星』ヲ見ツケタ……コノ地ニ輝ク、哀レナル『星屑』ヨ……『力』ト『心』ヲ呼ビ覚マス……『希望の星』ヲ。」——




 黒き腕は声のような音を響かせた後、勢いよく腕を振り下ろし、男達に攻撃を仕掛ける。


「うわぁあああっ!?」


 男達は叫び声を上げて一目散に逃げ出し、間一髪のところで黒き腕の攻撃を避ける。

 黒き腕の攻撃は人にこそ当たらなかったものの、巨大な手が叩きつけられた地面には土煙が上がってクレーターのように凹み、鋭い爪は軽く地面を抉り取っていた。

 それらの痕跡は、まともに喰らえばひとたまりもなかったであろうことを安易に物語っており、それはこの場に居る誰もが簡単に想像できたことだった。

 男達は逃げおおせたものの、不自由な体に苦し気な声を上げていたエディーは逃げ遅れてしまい、真横に迫る腕に思わず目を見張る。

 危険を感じたエディーはすぐさま距離を取ろうと、急いで体勢を整えるも……黒き腕は逃がさんとばかりに掌を広げ、覆い隠すようにしてエディーの周囲を取り囲む。

 黒き腕の指に阻まれたエディーは焦りの表情を見せ、左右に顔を向けて脱出の糸口を掴もうと必死に思考を巡らせるも、黒き腕の眼が琥珀色の光を放ち、エディーの体は宙へと浮かせられてしまう。


「うわぁ!?」

「エディー!?」


 黒き腕の眼から放たれた光によって、エディーの周囲に魔力で創られた薄い球状の膜が張られていき、膜は黒と紫で彩られ怪しく光を帯びている。

 まるで球技の球の様にその膜を掴むと、黒き腕は伸ばしていた手を引いて元の位置へと戻り、エディーを地面から引き離してしまう。


「なっ……なにを……っ」


 エディーが戸惑いを隠せずに黒き腕を見つめていると、黒き腕は再び琥珀色の眼を輝かせて膜の内側に幾つかの小さな魔法陣を創り出す。

 その魔方陣から魔力で練られたと思しき黒い鎖が出現すると、鎖はエディーの身体中に絡み付き、四方八方から引っ張るように締め付けて拘束する。


「うっ……!……ぁ、ぃ……痛っ……やめっ、放してくれ……!!」

「てめぇ!何してんだ!!」


 エディーが身悶え声を上げると、マインが声を荒らげて武器を構えながら飛び上がる。


「……!危険です!戻って来て下さい!!」


 ヴェスタの制止も空しく、マインは剣を振り上げて黒き腕を斬り付けると、黒き腕はマインの行動に反応して掴んでいた膜を離し、琥珀色の眼をマインへと向ける。

 しかし——マインが斬り付けた個所は全く傷が付いておらず、黒き腕は剣を通さぬほどの硬い皮膚に覆われていたようで、さながら金属を思わせる丈夫さを備えていた。


「なっ……」


 攻撃が通らないことを認識したマインは目を見開き、攻撃した個所を眺めて呆然とする。

 次の瞬間——黒き腕は飛んでいた蚊を払うようにして腕を振るい、マインの体を薙ぎ払う。


「ぐぁっ!!」

「っ……!マイン!!」


 エディーは薙ぎ払われたマインの姿を見て目を見張り、眉を下げながら声を張り上げてその名を呼ぶ。

 マインは3層目の地面へと強く叩き付けられると、一度跳ねるかのように床を転がり、うつ伏せになって倒れてしまう。


「マインさん!」

「マイン……!」


 クレールが慌てて駆け付け、マインの体を支え起こすと、ヴェスタも釣られてマインの傍へと走り寄る。

 マインの容体を気に掛けたヴェスタは、冷静ながらも心配そうな口調で話し掛け、マインの顔を覗き込む。


「大丈夫ですか?」

「ぁ、ああ……大丈夫、だけど……攻撃が効かないんじゃ……どうやってエディーを助ければいいんだ……。」


 マインは打ち付けた左腕の痛みに耐えるよう、右手を痛む個所に添える。

 表情を歪めて黒き腕を見上げるマインの言葉を聞き、クレールは驚いた様子で顎に手を当てながら思考を巡らせる。


「攻撃が効かない、だと……?剣で傷を付けられないということは、例え私が矢を射るとしても、同じ結果になることが目に見えているな……。もし……あの黒き腕が物理的な攻撃を通さないのであれば、今の私達に成す術は無いぞ……。」


 なんとか解決策を探ろうと、マインとクレールが頭を悩ませている中、心配そうにマイン達の方へ視線を移していたエディーは、琥珀色の眼が再び自身の姿を捉えていることに気が付き、黒き腕へと顔を向ける。

 エディーと目が合った途端、黒き腕は今一度エディーを捕らえた球体を鷲掴みにし、膜の中へ黒と紫の光を帯びた煙のようなものを掌から流し込む。

 その煙が肌に触れると、エディーは憎しみに似た感情に胸の内を圧迫されるかのような苦しみを覚えて顔をしかめ、同時に何かに気が付いた様子で口を開く。




「っ……そっか、この気配……さっき感じた想いは、この腕から……。」




 洞窟内で感じた『想い』の正体を知り、エディーは琥珀色の眼をじっと見つめる。

 次の瞬間——エディーは心臓が大きく跳ねる音と共に、一瞬だけ視界の端が黒く狭まり、琥珀色の眼に引き込まれるような不思議な感覚を覚える。

 直後に、エディーは激しい頭痛と眩暈に襲われ、人の死骸や闇に染まる空の光景が何度もフラッシュバックして視界に映し出されると、苦しげな声を漏らして身動ぎをする。


「うっ……ぁ、ああっ……!」


 それらとほぼ同時に、琥珀色の眼から再び光が放たれ、膜の中へ入り込む煙の量が増していくと、煙はエディーの体を徐々に包み込んでいく。

 煙の量と濃さに比例して、エディーは心身を負の感情に蝕まれていく感覚に苛まれ、あまりの痛みに堪らず目を見開いて悲痛な叫びを上げる。


「ぁあ……!!ぁあぁあああああ!!」


 全身に走る激痛に耐え兼ね、エディーは再び瞳に赤黒い光を宿らせて空を仰ぐと——同じ色の光を周囲へと放ち、光は波紋のように広がって地下遺跡全体へと拡散される。

 その赤黒い光を浴びた生ける屍は、殺気立ったように獣のような唸り声を上げて頭数を増やしていく。

 生ける屍が赤黒い光に惹かれ、凶暴性を増したかのように唸り声を上げ続けていると、毛皮のコートを羽織った男性は怪訝な顔をしてエディーの姿を見つめる。




「……まさか、あの男が持つ力は……生ける屍を引き寄せる上に、あの腕までもが欲しがる力だと言うのか……?」




 毛皮のコートを羽織った男性の言葉を耳にし、盗賊の男達は驚いた表情で酷くざわめく。


「……ってことは、アイツが傍に居る限り、俺達は生ける屍に襲われ続けるってことか!?冗談じゃないぜ!?」


 男の1人が口にした言葉に、他の男達も真に受けた様子で声を荒らげる。


「もし、それが本当なら、アイツは……黒い亀裂に対抗する力である上に、生ける屍を引き寄せちまう、とんでもない力を持ってるってことか!?仮に黒い亀裂まで引き寄せちまう存在だとしたら……例え宝だったとしても、こっちの方から願い下げだぜ!?」

「とんだ化物だったんだな!道理で……生ける屍が次から次へとやってくるわけだ!なんなら……黒い亀裂に対抗できるのも、元から黒い亀裂と関わりがあるからじゃねぇのか!?」

「ボス……!こんな所にはもう居られないっす!さっさと地上に帰りましょうよ!」


 男達が不満な声を上げる中、毛皮のコートを羽織った男性は細身の男へ詰め寄り、口を開く。


「……おい、これは一体どういうことだ?あの男が生ける屍を引き寄せるなど……俺の耳には入っていないのだが?」

「と、とんでもない!流石に私とて、生ける屍を引き寄せるなど存じ上げませんでした!てっきり……生ける屍に対抗し得るだけの力を持つ者だと……」

「チッ、とんだ期待外れか……。……おい、この件からは身を引く。急いでこの場を離れ、アジトへ撤収するぞ。」


 毛皮のコートを羽織った男性の鶴の一声によって、男達は「へい!」と返事をし、その場を後にする。

 男達が生ける屍を蹴散らして地上に戻るための道に向かうと、マインは怒りを露わにして声を張り上げる。


「おい!てめぇら……待ちやがれ!!」


 そう言って駆け出そうとしたマインの肩を掴み、クレールはマインの行動を制止する。


「待ってくれ、マインさん!今は奴等のことより、エディーさんの救出が最優先だ。」

「わかってる……!けど、あいつら……私利私欲のためにエディーを連れ去っといて、挙句の果てには好き放題言って捨てて行きやがった……!」

「気持ちはわかるが、今はエディーさんの救出に専念しよう。私達には……レドさんへ治療薬を渡すという目的もある。奴等にかまけて……手遅れになるわけにはいかない。」


 クレールが強い口調で説得すると、マインは瞼を閉じて一拍置き、再び瞼を開けて落ち着きを取り戻した様子で言葉を返した。


「……わりぃ、ちと感情的になってたかもな……。あの腕に攻撃を仕掛けた時といい、さっきから焦って行動しっぱなしだな、俺……。戦闘はからっきしなんだし、ヴェスタさんの言う事をよく聞いて行動するっつったのに、情けないぜ……。」

「いや……私も、マインさんの気持ちは痛いほどわかる。マインさんが行かなければ、私が行っていたかもしれないしな……。」

「……けどよ、物理的な攻撃が効かないあいつに、どうやって対抗すればいいんだ?俺達には、魔法を扱うなんてことは出来ないぜ……?」

「それは……確かに、まだ考えついてはいないが……必ず、何か方法はあるはずだ。」

「その方法がわかればいいんだけどな……俺達には、戦闘に関する知識とか無いし、一体どうすりゃ……」


 顎に手を当て、腕を組み思考を巡らせている2人へ近付き、ヴェスタは落ち着いた口調で1つの案を提示する。


「いえ……貴方たちには、あの黒い腕に対抗するための方法があります。先程……生ける屍を葬った時と同じ様に、『炎』と『光』の力を使うんです。」

「『炎』と『光』の力……?あの……剣とか弓に宿ってた力のことか?」

「ええ、あれはエディーの放つ光が、貴方達に力を与えているようにも見えましたが……あれらの力は、貴方達2人が持つ異能ではないかと、俺は考えているんです。もし……あの力を行使することが出来れば、必ず……あの腕にも対抗し得るかと。エディーが囚われてしまっている今、あの力を使えるのかはわかりませんが……ここで手をこまねいて見ているより、試してみる価値はあると思います。」


 ヴェスタからの思わぬ提案に、マインとクレールは目を丸くしてお互いの顔を見つめる。


「そういや……ここに来る前に、俺達にも異能が発現してる可能性があって、それを確かめたいって言ってたよな……。あれが、エディーの力無しに使えるのかはわかんねぇけど、やってみなくちゃわからねぇもんな。」

「ああ、そうだな……ここでぼさっと突っ立っているより、やれることがあるなら先にやるべきだ。マインさん、一先ず試してみよう。」

「おう、やってやるぜ!」


 マインとクレールは武器を手に取り、胸の前でしっかりと武器を握り締めると、祈りを込めるように瞼を閉じながら少し俯く。

 2人の言動を眺めていたヴェスタは、時折黒き腕の動向を注視し、2人に向けて助言を伝える。


「手の先に向けて、力を集中させて下さい。指先に血液を流し込むようなイメージで……武器に炎や光を纏わせるように、力の流れを意識するんです。そうすれば、必ず……貴方達の中にある力は応えてくれるはず。貴方達が宿す力を……信じてみて下さい。」


 ヴェスタからの助言により、マインとクレールは言われた通りに意識を指先へと向け、掌から武器へと力を流し込むような想像を脳裏に浮かべる。




(ここで使えなかったら……エディーを助けることが出来なくなっちまう。だから、頼む……俺に力を貸してくれ……!)


(私は……失いたくはない。父と母を失ってしまった時から、大切な家族であるエミルを……家族と同じくらい大切な友人を、ここで失うわけにはいかないんだ……!)




 マインとクレールはより一層強く武器を握り締め、指先へ向ける意識を高める。

 己の内に眠る力が、黒き腕に対抗し得る力として顕現することを祈り、囚われている友を救うための力となることを強く願いながら。

 2人がそうして祈りを込めている一方で、エディーは苦しげにか細い声を漏らし続ける。


「……っ、ぁあ……うぅ……」


 外側から鎖で体を圧迫され身動きが取れない中、負の感情を内包した煙によって内側を捩じられるかのような、雷に打たれているかのような激痛が全身に走り続けており、エディーは力無く項垂れて一粒の涙を零した。

 その涙が頬を伝い、顎から滴り落ちた瞬間——マインとクレールの視界に、エディーによく似た紫髪の青年の姿が映し出され、見慣れない白装束に身を包んだ青年は、頬に一粒の涙を零して悲しげな表情を浮かべていた。

 2人はエディーによく似た人物の姿に驚いていると——やがて、体の内側から『何者』かの『想い』を感じ取り、己の『願い』と混ざり合う不思議な感覚を覚える。

 己の内側に湧き上がる『誰か』の『想い』に耳を傾け、その正体を探ろうと試みると——それは、街で黒い亀裂と相対した際に感じた『想い』と同じものであることに気が付き、2人は語り掛けるように胸の内側へと意識を向ける。

 その時——マインの視界には短い銀髪の青年が、クレールの視界には長い黒髪の女性が姿を現し、真白い世界の中でマイン達に背を向けて佇んでいた。

 青年と女性がマイン達を振り返る様子は無かったが、マイン達は無意識の内に自らの胸に手を当て、青年達に声を掛けていた。




「誰だか知らないが……俺が必ず、あいつのことを助けてみせる。だから頼む……俺に力を貸してくれないか?」


「私は必ず、最後までやり遂げてみせる。家族を守ることも……友を助けることも。だからお願いだ……私に力を貸してくれ。」




 2人は何故、青年達にその言葉を伝えたのかはわからなかった。

 だが、マイン達は青年と女性が抱えているであろう『想い』に親近感を覚え、まるで赤の他人だとは思えない『何か』を感じ始めていた。

 自然と口が動いたことに、マインとクレールも驚きを隠せない様子だったが、2人の背中を見つめ、じっと答えを待ち続ける。

 やがて、少しも経たない内に——長い黒髪の女性と短い銀髪の青年は同時に振り返り、ある言葉を話した。




——「『真実』を探り、救って頂けますか?」——


——「『悲劇』の先に遺された想いを、託してもいいのか?」——




——「『夢見る星』と共に……『ウタ』ってくれるのか(くれますか)?」——




 2人からの問い掛けに、マインとクレールは少しの間を置いた後、こくりと頷いて言葉を返した。


「ああ、あいつを助けられるのなら……街で戦った時みたいに、何度でも戦ってやるさ。」

「勿論だ。私は……失うことの方が怖い。だから私は……失う前に戦う。それだけだ。」


 マインとクレールの答えを聞き、青年と女性は真剣な顔で一拍置いた後、青年はマインに向けて、女性はクレールに向けて真っ直ぐに手を伸ばした。


 まるで、「この手を取れ」とでも言わんばかりに——。


 マインとクレールは青年達の意図を汲み取ると、同じように真剣な眼差しで青年達に向けて真っ直ぐに手を伸ばす。

 マインが青年の手を、クレールが女性の手をそれぞれ握った瞬間——マインとクレールは閉じていた瞼を開け、一気に力を指先に流し込むように意識する。

 その手が武器に触れているのだと、次に自覚をした時には——マインが持つ剣には燃え盛る炎が、クレールが持つ弓には眩しく輝く光が宿っていた。

 燃え盛る炎には、まるで溶岩のような鮮やかな色が……眩しく輝く光には、深海を思わせるような青い光が僅かに入り混じり、それらの力は、以前街で振るっていた力よりも強力に変化しているように感じられた。

 武器に宿った力を見た2人は、驚いた表情を浮かべて己が持つ武器を眺める。


「やった……やったぜ!これで……あの腕と戦えるかもしれないな!」

「ああ……ヴェスタさんの言う通り、やってみる価値はあるはずだ。今度はこの力で……エディーさんを助けるぞ!」


 マインとクレールは互いに顔を見合わせて声を掛け合うと、黒き腕に向き直り武器を構える。

 2人の様子を見ていたヴェスタは、何かを確信したかのように険しい表情を浮かべ、武器を手に取りマイン達と共に並ぶ。

 そんなマイン達の気迫を感じ取ったのか、エディーは微かに瞼を開けながらマイン達の方を見やり、小さな声で呟く。


「……マイン、クレール……ヴェスタさん……」


 エディーがマイン達へ視線を向けていると、黒き腕もマイン達の闘志に気が付いた様子で、エディーを捕らえている球状の膜から手を離し、マイン達に琥珀色の眼を向けて、威嚇するかのように眼から光を放つ。

 黒き腕の行動に怯むことなく、マイン達は黒き腕を見据えると、互いに戦いの火蓋を切るまで睨み合い続けた——。



次回投稿日:2月6日(金曜日20時頃)

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