第53話 攫われた皆、城にとらわれ、チーラの幼い獣人の子、瘴気で弱る。ヤモがパワーをやるのは止め、ヤーモが自分のパワーをやる。ヴァンパイア王が表れ、皆を助ける
ヤコがやって来た事から、いやな予感は的中している事は確実だが、ヤコからはっきりと、
「チーラさんやチーセン、ラーセンとニーセン、ユーセンまでさらわれたんだ」
と言われて、セーンは寒気がして来た。誰に言われたわけでもなかったが、何故かセーンには分かっていた。この魔国に幼い獣人が行けば、命は無い。瘴気が幼い命を蝕む。もう事態は一刻を争う状態だ。
セーンがぼうっとなっている間に、ヤコはセーンの手から手紙をひったくり読む。読むつもりだったが、皆の共通語、セピア語でご親切に書かれていたが、ヤコの最も不得意とするところ、目が寄る。
「ぐるーどけおおきいこと?なに・・・」
ヤコが来たので辺りを詮索していたココモちゃんが側に来て、手紙を呼んでくれた。
「皆とヤコと交換だって。ヤコ一人で城に来いって。きっとヤコが強いからまともに戦えなくて、人質を取って、ヤコが攻撃して来たら人質を殺すとか言って、ヤコの動きを止めて、殺す気なんだ。卑怯者のやる事だ。僕の死んだママだってこういうやり方、何時もされてたんだって言っていたな。でも、ヤコが助けなきゃどっち道、人質は殺されるな。俺らさっきから探すけど、皆の気配は分からない。ヤコが来たらきっと城が表れるよ」
セーンは我に返り、
「そうだな、ココモ。それからが俺らの根性の見せ所さ。ヤコに人質を会わせない可能性もある。城が分かったら、皆を全力で探さないと。ヤコは俺らや人質に構わず、奴らをやっつけろ、どっち道人質は殺す気なんだ。今もどうしている事やら」
「セーン、ごめん。俺全力で戦うよ」
「ばか、何を謝る」
一方、こちらはさらわれて、城の奥深くに閉じ込められている皆は、濃い瘴気に当てられ、ぐったりしていた。
ニーセンとユーセンを抱いて石の床に横になっていたチーラ。二人が大人しく眠っているものと思っていた。元気が無い事は知れていたが、どうしようもない。
側に居たヤーモ、双子をじっと見て、
「瘴気が体を蝕んでいる。このままじゃ危ないよ、チーラさん。俺に抱かせて」
「え、どういう事。ヤーモさんが抱いて、どうする気なの」
「パワーをあげないと、このままじゃもうすぐ命を失うよ」
「何ですって、でもヤーモさんは大丈夫なの」
「大丈夫だから」
すると、ヤモは、
「大丈夫じゃないだろう。俺がパワーやるから。俺の方がヤーモより、よっぽどましなくらいパワーはある。チーラさん、子供たちを寄こしな」
ヤーモは、
「ヤモは生きていなきゃ、セーンの面倒見なきゃならない役があるだろ。あいつ、面倒見る奴が居ないと役に立たないタイプだ」
「奥さんのチーラさんが居るのに、誤解されるぞ、そう言う言い方」
「チーラさんだって分かっているんじゃないか、セーンとヤモはなんて言うかな。魂のパートナーかな。チーラさんとは夫婦だけどね。だから俺がパワーをやる。早くしないと死んでしまいそうだ。チーラさん。早く」
せかされて、考えなしにヤーモに二人を渡してしまい、チーラはこれはいけないことではと思う。
「でも、ここで死んでしまうのはこの子らの運命じゃないかしら。ヤーモさんがされている事は尊い事でも、後に残されるヤモさんはどう感じるかしら。セーンはそれで嬉しいかしら。この子たちが天国に行ってしまったら、それがこの子たちの定めじゃないの。悲しくても受け入れるしかない事じゃないの」
ミーラも、
「チーラ、良い子ね。良く言ったわ。あたしの子が居たらとてもそんな風に思えない。でもそれが正解のはず」
ヤーモはパワーを二人の子に渡しながら、
「あんたらがなんと言っても、俺はこの子にパワーを全部でもやる。これが使い魔さ。コモドラに殺されたみんなだって、同じ気持ちさ」
「何という素晴らしい生き方でしょう。我ら命無く生きるヴァンパイアにとって、垂涎物のお心ですが、生憎、魔物さんの血はちょっと口に合わなくて、仲間には出来かねます」
「だれだっ」
ヤモちゃんは気色ばんだ。油断無く話す者の見えない空を睨む。
「おやおや、少し驚かせてしまいましたね。自己紹介もせずお話してしまい、失礼しました。私はこの魔国に生き永らえているヴァンパイア一族の今となっては、名乗るのも如何なものか、とは言え、名乗らねばご不審なあまり、危ない事などされそうですし、いやはや。そう睨まないでいただきたい。お目にかかるのが躊躇われて、しかし、事は急を要するような状況になりつつありますな」
「ごちゃごちゃ言わずにとっとと出て来い、ヴァンパイア」
ヤモちゃんが怒鳴ると、
「はいはい」
と、これまたものすごいハンサムな、男のように見える見た目の奴が表れた。という言い方、奇妙だが、性別を超えた美しさとでも言い現わせる容姿だ。
「わたくしめ、ヴァンパイアどもの間では、王と呼ばれておりますが、他所の国のお方にはそう呼んで頂くほどの者ではありませんし、そうですね、皆様にはあっさり、『ヴァンちゃん』とでも呼んで下されば幸いです。皆様、こういう呼び方、お好きでしょう」
「きさま、ふざけた奴」
「さあさあ、ご機嫌を直していただいて、この辺りは瘴気で皆様ご気分がすぐれないようですね。外にご家族の方々が来られていますからね。ご一緒に外に出ましょう。ささ、どうぞどうぞ」
そう言ったと思えば、あっという間に、助けに来ていた皆が、わさわさ辺りを見回して、城が表れるのを待つところへ、到着した。
「わっ、チーラ。みんな無事だったのか。でも、どうして」
セーンはいきなり現れた皆に喜んで、気分は高揚し出したが、誰が連れて来てくれたのかと辺りを見て、自称ヴァンちゃんと目が合った。
「あなたがみんなを助けてくれたんですね。ありがとうございます。で、どなたですか」
するとヴァンちゃんが名乗る前に、急に元気になった、ニーセンとユーセンが、
「ヴァンちゃんだって」
「王だけど、王よりヴァンちゃんって呼んでって」
「ええっ、ヴァンパイアの王様ですか。何と、さすが王様、早い対応、有難うございます」
レンの驚きを見たヴァンちゃん、
「お前はもうろくするのが早いと思うが、俺を忘れたのか。ま、忘れてくれていた方が、こっちも都合が良いがな。じゃ、この辺で失礼しよう」
と、さっさと立ち去ろうとするヴァンちゃんだが、ヤモちゃんが思い出す。
「あ、あんたあいつの浮気相手。王様まで上り詰めたのか。どおりで自己紹介が歯切れが悪かったんだな」
「ああ、気分が良くなったら、思い出しましたか。やれやれ、では失礼して…」
「俺も言われて、今思い出した。だけど気にするな、俺もあいつと別れる理由を探していた時だったし、今日は本当にありがたかった。感謝している」
セーン、家族皆、大きい方の双子も抱き寄せながら、
「本当にありがとうございました。この御恩は忘れません」
「いや、忘れてくれていいから、お宅のお婆ちゃん、ユーリーンも俺を知っているんだよ。実はね、あの人の借りをやっと返せたかなってとこさ。ヴァンちゃんがそう言っていたとでも、帰って俺の話題が出たら、そう言ってくれ。じゃね」
そう言うと、ヴァンちゃんは消えた。ココモちゃん、
「変わったヴァンパイアさんだったけど、良い人だったね、セーン。もう帰ろうか、ヤコちゃんは仕返ししたそうだけど。あのヴァンパイアが代わりにやっといた感じだね。なんだか城、無くなったんじゃないか。この雰囲気」
ココモちゃんに言われて、辺りを見回すと、目の前は相変わらず何もないように見えて、少し見下ろす所に、地面がある。セーン達がいる場所から考えて、地下室があった場所が眼下の辺りらしい。
チーセン、
「あそこ、きっと俺らの居た辺りだな。ホントに全く更地になったな」
ラーセン、
「すご。パパ、やっつけるつもりだったんだろ、あいつらを。でも、ヴァンちゃん何時やっつけたのかな。声とかしなかったろ」
セーンは思った。
『これが、ホントの桁違いの強さだな』




