第50話 ニキの館に使いのヴァンパイアやって来て、ヴァンパイア坊ちゃんのヤーモへのプロポーズの話。奥方様とレンとの子と言う坊ちゃんも来る。奥方様登場
セーンは執事さんが、教えようとしない訪問者が、誰だか気になった。こうなったら自分で調べるだけの事である。しかし、わりと不自由だと分かるこの家。コンクリートで造られすき間はないのだ。使用人もお茶の必要は無いと言われ、『客間付近の様子』を窺い知る事は出来なかった。
このニキ爺さんの館、出来上がった当初、近代設備が整っていると評判だった。水回りの造りを見ようと、遠慮の無い人は、風呂を借りに来るし、ヘキジョウさんが生きていた頃は、ヤモリを飼っている不思議なお宅とも言われた。
『ヘキジョウさんっ子、何人か壁に居ないだろうか』と思ったセーンだが。そこはニキ爺さん、抜かりはない。皆子供部屋に居るのが分かった。
セーンはもう何度目かの挑戦、客間の周りを探り、結界にほころびが無いか調べた。
すると、不思議な事にその前の調査では綻びは無かったはずだが、今調べると、天井に結界の力が弱い場所があった。壁に作ってある飾り棚の上の天井だ。『しめしめ、あれ位なら中の様子が分かる』
セーンはほくそ笑んで、外の空調用の小窓から入り、狭い通路を客間の上まで這った。
傍から見れば、実に珍妙なセーン坊ちゃんの行動である。実際、庭師さんにじっと見られている。
『どうしてそこまでやるのか。執事さんが話してくれないからだ』独り言ちて、客間の上まで来た。
客間の様子
ニキ爺さん、
「どうしてそんなに、ヤーモが気に入りましたかな」
客人、(なんと、ヴァンパイアだ。と言う事はあの勘違いヴァンパイアは勘違いを続けていた模様)。
「それが私どももさっぱり、魔物でなくても、獣人、魔人、普通の子。より取り見取りで、とっかえひっかえも出来る身分と、あの突出したハンサムな容姿。奥方様も何度も説得していましたが、どうしても、婚約にまでこぎつけてくれ、そうすれば、自分で落とす自信はあると言いましてね。そりゃそうでしょうとも。あのハンサムぶりですからね。どうも奥方様や私どもと話がかみ合いませんで。こっちは諦めろと言うものの、お坊ちゃんは、意味が分かっていないと言うか、儂らが、ヤーモ様から断られると言う無様な顛末を心配していると、思い込んで居る風でしてね。そこから前に進めませんのじゃ。奥方様が、とうとう根負けして、儂らに話を持って行けと申し渡しましたよ。これが婚約の印の契約書。奥方様は既に署名しております。驚きでしょう。そして婚約時代の支度金。ぜひ奥方様の城においでいただきたく。ヤーモ様の準備にお使いください。お使いいただいて、ドレスなど買っていただきたいと坊ちゃんは申しましたが、ヤーモ様は男性でしょう。こちらに参りまして、儂らはほとほと、力が抜けました。坊ちゃん、すでにヤーモ様に会っていますよね。それでも、ドレスを買えとは。儂ら、ほとほと困りましたな。奥方様には先ほど、伝書カラスで連絡しました。少々正気を疑いますな。グルード様でなくても、儂ら身内でも疑いますな。いやはや」
その年配の人はため息をついて、何だか涙ぐんでいる。
セーンも、『きっとヤーモちゃんに話を持って行くとしたら、ドレスの〈ド〉の字で逆上、及び《話は無かった事に・・》とこの爺さんは報告だ。お坊ちゃんの怒りは受け止めてやってくれや』と思った。
そして、ニキ爺さんの衝撃の言葉が・・・
「しかし、そいつ・・いや、その坊ちゃんが、レンの息子だとは信じられませんな。はっきり言って、ヴァンパイアは妊娠できるはずは無いと思いますな。失礼ですが儂ら魔人はヴァンパイアは生物とは認識しておりません。死人の中で特殊な細胞の者が生きているかのようにふるまうと言う認識です。ヴァンパイアが育っていくとは思えないです。その奥方様とやらが、若い男をヴァンパイアにして、お宅らに引き合わせたのではないですか。私の子だと言うので、その話に調子を合わせているだけなのではないですか」
「そう思われるのはごもっともでございます。儂ら配下の者は坊ちゃんに年に一、二度会っております。本人はだんだん大きくなって来ております。ヴァンパイアの子ではなく、魔人か獣人かで、ある程度大きくなった時に、奥方様がバンパイアにするつもりだと思っておりました。ところが、お坊ちゃんはある魔人の子の首を噛んで、学校から呼び出されたことが有りまして、おかげで当局に許可なく、それも成人前の子供をヴァンパイアにしたと奥方様は疑われて、しばらく牢に入っておりました。その時暮らしが苦しくて、食事の用意が出来ず、坊ちゃんは下々の民の血を吸って生きながらえておりました。十四歳でヴァンパイアとは信じられなかったのですが、儂らは側にて使えておりましたので、納得しておりました。そして坊ちゃんは段々成長して参りましたんですよ。当局にもこの事実は知られ、奥方様は許されて親子で暮らしておりました」
「なるほど、では、ヴァンパイアが子供を生んだと言う事実があったのは分かった、しかし、その父親がレンと言うのは証拠はあるまいと思うが、どうだ」
「それは。奥方様が、儂らに、丁度坊ちゃんが生まれる前にレン様とお付き合いをしていたと言う事実しかないと言っておりました。お顔も、奥方様似ですしね。これがヴァンパイア相手ではなかったら、レン様が人の娘と付き合って居れば、何の疑問もない所ですがね」
セーン、内心『いや、有るだろ。疑問だらけだよ《?》マーク連発だよ。おかしいって、爺さん。騙されんなよっ。ヴァンパイアは生きて無いってば。増やすのは血を吸って増やすんだ。妊娠出産じゃないから。じーさん悩むなー悩むところじゃないからー』
ニキ爺さん、天井を見て、
「五月蝿い、セーン。分かっとるわい。黙っとれ」
いきなり天井を向いて怒鳴る爺さんを見て、お使いのヴァンパイア爺さん、及びその側仕え風のヴァンパイア、どうやら、『この爺さん認知症なのか』と言う感じでユーリーン婆さんに聞いてみる。
「グロードさん、どうなさったのでしょうか」
「失礼しましたわ。孫が天井から様子を窺っておりましたの。ごめんあそばせ」
とユーリーン婆は応えると、
「セーン、こっちに来なさいよ。あんたから何とか言ってやって。皆、少しずつ狂っているのよ」
「言えてるねー」
そう言いながら、客間に瞬間移動したセーン。
驚く、お使いヴァンパイアに、
「お宅のお坊ちゃんも、奥方様って言うのも、どうかしている。いかれた感があります。ヤーモちゃんは良い子だから、苦労なんかさせる気ないですから。お断りだと言っていたと報告してください。ささ、お帰りはあちら。長居は無用ですよ。ヤーモちゃんの親は怖い性格ですからね。さっさと帰った方が身のためですよ」
お使いヴァンパイアは重い腰をあげようとしたその時、やって来た。例の勘違い坊ちゃんだ。
「お待ちください。セーン様。僕、本当にヤーモ様を一生大事にして、幸せにしたいです。本気です。支度金の件は失礼いたしました。きっと結婚式でヤーモ様がウエディングドレスをお召しになれば、きっとお似合いだと空想していたのをこの爺がその時は良く聞こえなくて誤解したのか、僕が言ってはいないことを話したようです。不愉快な言い様で申し訳なかったです。ですが、僕はヤーモさんと一緒に暮らしたいです。ヤーモさんを一目見た時から大好きになりました。ヤ-モさんに会わせていただきたいのです。会って、私の気持ちを、お話ししたいです。私の望みはそれだけです、どうしても、僕の気持ちを・・・」
言い募るお坊ちゃんに、けりを入れながら登場した、もう一人の当事者レン。いきなりやって来た。
「何が僕だ、何が気持ちを話すだ。ふざけんな。とっとと棺桶にはいれや」
「あ、おとうさんですか。初めまして、あの僕・・・」
「お前の親父じゃないよ。幸運にもな。セーンがこの前言っていただろう。『こいつらは卵で自分のコピーを生むっ』て。お前は初めから用なしなんだ」
レンの初めからの説明的、蹴りでお使いヴァンパイアさん達は、帰り支度を始めた。
すると、とうとう真打登場となった。ジジババ、卒倒しなかった事、褒めてやりたい。
「レン様、お久しぶりですわね。お別れしてから、あなたとは結ばれる事は叶わぬ間柄と、もう忘れようと思っておりましたの。ところが私、どうした事か、あなた様の子を宿してしまいましたの。とても信じられる事ではありませんね。私も自分の事であっても、あり得ない事と思っておりました。月が満ちてこの子が生まれて来るまでは・・・」
生きてはいないはずだがそれでも美しい事、親父とは趣味が違うはずのセーンでも、ほれぼれするような顔の造りである。なぜあんなに美人に見えるのか。いい機会だからセーンはパーツ一つずつしっかり観察してみる。全く欠点は無い造り。そして完璧な位置関係。そしてその肌は白いには違いないが、輝いている、ほぼ七色にだ。数える事は細かすぎて出来ないが、じっと見ているとその光は七色で間違いないと見たセーン。親父はこいつと若い頃に付き合っていたのかと感服した。しかし、『こいつが親父の子を産んだと妄想するくらいに好かれていたとは、信じられない。これは何か裏があると思う。グルード家に思う所があるはずだ』セーンはこう判断して、様子を見る事にする。
レン、せせら笑い、
「とんだ茶番だな。セピアのドタバタ喜劇に出ている気分だ。痛い目に合いたくなければ、一族連れてとっとと失せろ。あばずれがっ」
容赦ないレンの言い様。すると、あばずれヴァンパイア、
「ふん、こっちが下手に出れば、つけ上がるんじゃないよ。黙って見ていれば、うちの子を随分蹴ってくれたわね。やられっぱなしとはいかないよ。そうともさ、こっちも昔の様なうぶじゃないんだからね」
そう言って、セーンに向かって来た。あばずれヴァンパイアに蹴りを入れられそうになって、驚いて避けたセーン。『悪いけどね、おバンに蹴られるほど、鈍くないし』
おバンのヴァンパイア、バランスを失いすってんころりんと転がってしまう、哀れ。
「お、奥方様、御無事で?」
「女王様、しっかりなさいませ」
「母上、お怪我は?」
俯いて、しおれている様子だ。
「とっとと帰れや。これ以上盾つくと、本気出すぞ。オラ」
レン親父、凄む。
「私の攻撃を避けるなんて・・・」
さっきの蹴り、本気の渾身の蹴りだったらしい。
ユーリーン婆、とりなす。
「ホント、目にも止まらぬ速さだったけどねぇ。セーンの方が強いのよう。だいぶね。もう帰ったらどうかしら。何の御用だったか知らないけど、お宅らじゃあ、歯が立たないんじゃあないの」
するとお坊ちゃん、
「僕たち、そんなやましい企みとか無いんです。ただ僕がヤーモさんを愛してしまって、それで僕を愛してくれている、この皆が、僕の思いを叶えてくれようとしたんです。だけど、この国の人たちは、僕らの事は、忌まわしいものと思っていますからね。よく分かりました。僕は愛してはいけない人を、愛してしまったんですよね。結界を張ってありますから、ヤーモさんに会う事は許してはもらえないんですね。では失礼します」
坊ちゃんはしおれていて、セーンはユーリーン婆さんがいらん事思いつきそうで、ハラハラして来た。




