第47話 ヤコ、放課後。ショウカ、リリとテストのカンニング疑惑で喧嘩に参加できず、双子の怪我の知らせに行動する。一人戦いに行くが、やめ時を知らず、オーカーさん来る。
ヤコちゃんの悩み多き青春の日々、放課後流れに任せてチーセンとラーセンに付き合って、町はずれの空き地に行かなければならない。きっと不味い事になる。
とぼとぼ、2人の後を追って教室を出ようとすると、ホームルームを終えたばかりの、隣の教室の担任、セピア公国語教師、ハルハル先生が(またいいかげんな命名)ヤコちゃんに声をかけた。
「オーカー。職員室に来い。そっちのリリちゃんとショウカちゃんもちょっと来てね」
この先生、気持ち良いほど生徒によって態度が変わる。ある意味生徒達から尊敬されている、表裏の無い人だ。
気になったチーセンとラーセンもついて行こうとする(なんせ、ヤコにはこれから大事な予定が控えているのだ)。しかし、ハルハル先生、
「ダブルグルード(この先生、双子の場合、そろっている時はこう呼ぶ)、お前らに用は無い。散れ」
散るしかない、ダブルグルード。
職員室に三人で行くと、先生は三人の、今朝の単語テストの回答用紙を出す。机に並べて、
「どうだ、君たちの回答、まったく同じじゃないか。間違い方もね。どういう事。少しは違うこと書けないかな。困るんだよな、先生は。こう言うの見過ごすわけにはいかないんだ。少しは先生の立場も考えて、2、3個は違うこと書いてよ。オーカーはなんだか予定あるんだろ。早めに切り上げないとね。じゃ、反省文書いてね。この用紙、埋まるまで帰っちゃだめだからね。ごめんで謝って済めば警察は要らないんだよ。分かるね。オーカー。反省してね。もう少しうまくやりたかった。とか書かないでね。やり方の反省じゃないよ。カンニングの反省だ。此処から出るな。そこのテーブルで書いてね。オーカー、反省文まで人の見ちゃだめだよ。もう一回書かせるよ。先生見張っているからね」
「先生、僕は無実です。リリさんやショウカさんのは見ていません。これは僕の実力です。こっちの二人が見たんです。僕のを」
「オーカー、どうした。2枚書きたいのか。はいもう一枚」
「そ、そんな」
散々である、リリには、
「バーカ」
とまで言われてしまった。
ヤコちゃん、反省文とか書いた事は無いし、そもそも、反省する材料はない。無実である。小声で文句を言ってしまう、無駄な事だが、
「どーして、僕の丸写しなんかするんだよ。冗談にもほどがあるんだよ」
「文句言わないで早く書いたら。2枚も書くのよ、急がないと明日になっちゃう」
「やってないのに、どうやって何を書けばいいの。分からないよ」
ショウカ、親切にも、
「あたし達の書いたのを、書く順序変えて写したら」
「わかった。でもどうして君らは僕の写したの」
「あら、何の事かしら」
ため息をついて、ヤコは二人が書き終えるのを待った。
二人が書き終えて帰った後、ヤコちゃんはそれなりに工夫して、それを書き写し、考えた分遅くなり、気が付いたら辺りは薄暗くなっていた。
「ああ。もうみんな僕を置いて行ってしまったんだな」
呟きが大きすぎて、先生の耳に入ったのか、
「おや、皆は何処へお出かけかな、オーカー」
ヤケのヤコちゃん、
「町はずれの広場で喧嘩だってさ。隣町の奴とね。僕もメンバーだったのに行かれなかったから、負けたかも。でも、俺の所為じゃない。リリとショウカが俺を行かせなかったんだよっ」
「おや、そうだったのか。オーカー。良いお友達がいて良かったじゃないか。隣町の奴にかかわらない方が良い。先生、ちょっと感動したな。あ、校長室の電話が鳴っている。あれが鳴るとロクな事は無いんだ。きっと警察か病院かだろう」
ヤコ、察して思わず立ち上がる。そして聞き耳を立てる」
「はい、ゼムハイスクールです。私が校長ですが、喧嘩で、大怪我、保護者のサインですか。グルードさんはニールの留学生で、サインなしでは、あ、それほど急を要すわけではないですか。明日手術で、ハイ連絡します。相手は、あ、捕まえましたか。え、逃げられた。それはまた。有名でご存じ、親元にも連絡終わっていますか。はい伝えます」
ヤコは失敗したと分かった。大失態だ。でもこれから汚名返上のチャンスがあるのも分かった。逃げたって。逃げた事、後悔させてやろう。
「先生、書き終わりました。ここに置いておきます」
先生も、校長室の電話に聞き耳を立てていたが、ヤコを振りかえり、
「あ、書いたか、オーカー、校長の声聞いただろ、下級生がいらんこと喧嘩しに行っても、怪我するだけだ。お前、彼女に止められてよかったぞ。二人だけど…ま、今どきの子だな」
そんなハルハル先生の話し声を後にして、ヤコは屋上に上がると、薄暗くなった校舎から飛び立った。
大人に任せておけば?誰も忠告する人はいないし、忠告された所でやめる気はないヤコだ。自分の失態は、自分で修復するしかない。汚名返上しないと、信用されないとも。使い魔ってそういうものだと、ヘキジョウさん達が言っていたっけ。
相手の顔は念力で直ぐに察せられた。何処に隠れているかも、奴らの仲間の様子ですぐに分かった。奴らのたまり場にはシューやジェイも向かっていた。彼らが付く前に行けると思った。たまり場のビル屋上に静かに降りたヤコ。人型に戻って、奴らの居る所へ音もなく移動する。
部屋の扉が、はじけて開く。それなりの結界が魔力で貼ってあったのだが。あっけないものである。
ヤコが入っていくと、誰ともなく、
「古のドラゴンだっ」
と、叫んだ。
誰に教えられたか、こういう知識、さすが魔族の子供と言える。専門知識は詳しく覚えている。
側使えなのか、使い魔なのか、数人の魔族の子には、一人ずつ大人の使用人も使えている。ハイスクールの生徒だけ隠れている訳ではなかった。
「〇〇さま、お逃げ下さい。この通路から・・・」
使い魔が逃がす気だと知ったヤコ、そうはさせまいと、威嚇する。
「グガー」
そして、人型のまま咆哮した。
「ひっ」魔族の忠実な側仕え、使い魔。主人の逃亡を全力で助けるが、自分たちは古のドラゴンの魔力に息の根を止められることとなる。本来魔の国に逃げのびるための通路は、使い終われば自然に閉じるものだが、ヤコの魔力により、通路を閉じる事は不可能だった。使い魔達が、通路を守ろうとしていたため、通路には倒れた使い魔達が散乱していた。その所為もある。
ヤコは通路を通って、逃げて行った魔族の子を追う。予想通り、通路は魔の国にたどり着いては居なかった。通路が開けきる前にヤコの魔力が通りかけた通路に来たためだろう。逃がすものかと言う意思が、魔力に込められていた。いきどまりとなり、そこに双子を傷つけた奴らが留まっていた。
「わぁっ、来やがった。ヒー」
「助けて助けてよう、ママパパッ」
いざとなれば泣き叫ぶ、情けない奴らだ。
しかし、その声を聞きつけた魔族の親が、数人通路反対側から駆けつける。
「グワオーッ」
「ゴゴゴー」
ヤコとそいつらのパワーが押し合いの状態になった。ヤコは力むと段々ドラゴン状態になり、通路は細い所為で力を出しづらく、終いには通路が崩れだす。
魔族たちは、
「不味いぞ、これは」
狼狽し出すと力も減って来る、ヤコは競り勝っている。気付いた大人が、子供たちを通路の奥へ逃がそうとした。魔力で国側は直ぐそこになっていた。
憤っているヤコ、いっそうの魔力を出す。
完全に競り負けた。魔族の親たちは撤退しながら結界を作って道を塞ごうとし出す。そうはさせまいと思うが、相手は数人いて、担当の事をし出す。連携プレイだ。しかし、魔力はヤコの方が格段に有り、前面の魔人は燃えだした。悲鳴を上げる魔人の親。その時、ヤコの後ろから、オーカーさんが駆けつけ、
「ヤコ、そこまでだ。やめなさい。相手は撤退し出した。負けを認めている。深追いは上品ではない。(下品だと言っている)しっかりしろヤコ、聞こえないのかっ」
オーカーさん大声を出す。
ようやく、オーカーさんの声を認知したヤコちゃん。魔力を出すのをやめて、辺りを見回した。
オーカーさん、『見えてなかったのか』と訝るが、気を取り直して、ヤコに言い聞かせる。
「ヤコ、気持ちは分かるが、戦いには暗黙のルールがあってな。勝ったものはやめ時を知らねばならない。今日の相手は撤退し出したら、やめ時だ。覚えていろ、相手は魔の国の魔族だ。撤退し出したら、攻撃はやめておけ。良いな」
「そうなの。撤退しだしてたって。僕よく分からなかったな」
「そうか、分からなかったか。ヤコはまだこういう戦いは、慣れていないからやらない方が良いな。分かったか。大人に任せるんだ」
「でも、僕が参加出来なかったから、チーとラーが大怪我したんだ」
「いやいや、大したことないから。心配はいらない。明日手術と言われたそうだが、セーンが来て癒したから治っている。お見舞いに行ってみようか。元気にしているよ」
そして、オーカーさんは少し厳しめに言った。
「それから、お前は子供の喧嘩に加わってはならない。国家間で、そういう掟がある。喧嘩に加わったら、使い魔は出来なくなるところだったぞ。何とか収まって、儂はほっとしたぞ」
「僕、心配かけたんだね。ごめんね」
「良い子だね、ヤコ。この爺さんならいくらでも心配させて構わんよ。何せヤコはたった一人の孫なんだからね」




