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第3話

 

 ヘキジョウさん達を追いかけて、セーンとヤモちゃんは初めて北の国境に来た。隣国の兵隊とは、ガタイの良い獣人達で、見た目は猿っぽかったし、あまりお利口ではなさそうに見える。おまけに体格は良いのだが、その実態は脂肪太りのデブと見たセーン。普段から壁に張り付いて筋肉を鍛えている結果、筋肉もりもりタイプのヘキジョウさんと比べるのもお気の毒というもの、圧倒的なヘキジョウさん達の勝利だ。

 ジジババの様子を見にリーの館に寄るべきか、気になるシューたちの所へ戻るべきか少し迷ったセーンである。だが、

「これじゃあ何だかヘキジョウさん達を国境に集めただけみたいだな。本命は向こうじゃないかな。ヤモちゃん、急いで引き返そうか」

「向こうのヘキジョウさんは本命向けだから、心配要らないけど、あの子たちが心細いだろうし、帰ってみようかな」

「へぇ、そうだったのか。そういう采配ってのは誰がしているの。年寄りの中に長が居るとか?」

「最近年寄りは老化でぼんやりし出した」

「それって、人ではボケて来たって言う表現になるよ。壁の上さんたちはボケが始まったとか」

「それ、ボケの前で言わないで」

「ボケは既に決定しているのか、で、采配する人は誰」

「・・・」

「ヤモちゃんは自分の脳の程度をひけらかさないね。ヤモちゃんが采配しているね。前も言った気がするけど、ヤモちゃん利口だね。きっと壁の上の中で一番の利口者だね。取説の件で俺、察したんだ」

「セーン、それ、まだ言った事なかった。セーンは、お世辞言わないほうだから」

「ふーん、じゃ帰ろか」


「ちょっとぅ、おまちっ」

 ユーリーン婆から大声で止められた。

「ユーリーン婆、俺ちょっと忙しくって」

「何で忙しいのよ、何だか向こうは変わったことがあったんじゃないの。内緒にしてるのっ、ずるーい」

「別に内緒の事なんかないよ。ずるい事とかしてないってば。それよか、俺がしゃべった方がユーリーン婆には都合が悪いんじゃないかな」

「どうしてそうなる」

「だって、ユーリーン婆はニキ爺さんに黙っている事があるだろ、きっと爺さんが怒りだしたら、『ほっとけって言ったじゃない』とか言い返すはずの件だよ。覚えがあるだろ」

「ええっ、じゃあ、今はその件がどうなっているわけ。もしかして、その件の誰かが向こうに居るって事?どうして、あんたもレンもこっちに連れて来ない訳?」

「連れてきて良いの」

「良いでしょー、何故連れて来ないのかの方が不思議。言い訳だってセーンも知っていて、言えるくせに。ちょっとー、あんたら。良いからあの家に居るのを全部連れて来て。ったく、レンもセーンも何考えてんのよ」

「ジュールの隠し子の件だよ。レンはクーラの機嫌が気になるんだ。きっとね」

「あら、ジュールは元カノに自分が引き取るって言ったけど、元カノは渡さなかったって言う話だったのよ。隠すようなことじゃないけど。リューンの話によるとだけど」

「それは初耳、何時そんな話したの」

『セーン、一旦戻る』

「そうだった、すぐ戻るからね、婆」

「まっ、急いじゃって。狙われてるわけ?ヤモちゃんの采配でOKと違うの。おーい。あ、もう聞こえないか」

 ユーリーンはそう独り言ちて、館の自室に行こうとすると、玄関前にニキ爺さんが仁王立ちで待っていた。ぎょっとするユーリーン。

「おい、ユーリーン。お前とセーンのさっきの会話、何の話だ。ジュールの元カノがどうこうとか。引き取るの。渡さないのとは何の話だ。そして、何故俺はそれを知らないのか」

「いやーん。そんな話知らないよう」

「俺はたった今、聞こえたんだ。お前の声がな」

「そ、そうなの。だってー、ニキはぐうすか寝ながら、魔物じゃなかったらほっとけって言うんだもん」

「あ、俺が久しぶりに魔物退治した時の事か、あの日、べネル達が失踪したんだよな。まさかお前が知っているとは知らなかったな。聞かなかったけど。つまり聞いたら話したって事?」

「そーなのよ。聞かれなかったから、言わなかったけど、知っていたの。出て行くのをね。その時、リューンがジュールの子をべネル一家に預けたのよ。ニキは呼んでも目が覚めない感じで、『魔物が出たんじゃなかったら、ほっとけっ』て言うし」

「そーゆーことか、だけど知っていることは言ってくれても良かったんじゃないか。俺が探していただろ」

「でも、もし話して、ニキがジュールに元カノが居て子供も産んでるって知って、クーラとの事、反対したら困るしって思ったの」

「ひどいや、ユーリーン。俺の事、そんな奴だと思っていたのか」

「ごめんね、ニキ。泣かないでね。きっとレンが呆れるし」

「ばか、俺はそんなに若くないよ。小さい子じゃないんだから、泣き出すはずないじゃないか」

 そう言ってニキは踵を返し、さっさと自室になっている部屋へ戻った。

 ユーリーンは、ニキがやけに足早に戻って行くので、きっと泣き出す気だと思った。やれやれである。案の定、レンが自室から顔を出して、もう少しで吹き出しそうな顔の感じでこっちを見ている。

「何見てんのよ」

 捨て台詞ふうに言って、ユーリーンはニキを追いかけることにした。そろそろ、セーン達が戻りそうなので、ニキをちゃんとさせなければならない。



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