第38話 魔法使い、密偵にヤコの母親を獣人国で見つける事を命令。セーンとヤモは、ヤコのハイスクールでの言動を観察してからニールへ戻る
ここはコモドラ国、自称王のお宅。偽王側の城も住んでいるドラゴンの数は大幅に減ってはいたが、自称王は城の偽王をどうこうしようと考えてはいなかった。長年の経験で一般民は王家の内輪もめには手厳しい。かなり昔の事だが、言い伝えでは、民衆が、内輪もめの激しい王家のふるまいを断罪して、王の血筋の内で末裔の男を王に祭り上げ揉めていた直系の王族を処刑した事があった。自称王は、歴史は繰り返すと言う例があるのを教養としておぼえていた。利口じゃないかと?いえいえ、単なる物覚えが良いと言う事実だけの男である。
今回、自称王がべネル家を見張りさせていた部下を、なんと、あのオーカーの孫と言うのが一人で始末したと報告があった。見張りを命じた部下は、自称王の部下の中でも腕の立つ男で『密偵其の一』と呼ばれていた。だから単独で動く密偵だった。
「最近生まれたんじゃなかったか、その孫は。最近、留学にこじつけたと、誰が探った。子供じゃないのか。そいつが大の大人の、儂の密偵を始末したと言うのか。くそう、オーカーの周りを探るのは用心しておったが。おい、次の腕が立つ密偵を連れて来い、じきじき、役を命じねば。オーカーの配下の奴が、このべネル家辺りに居ないとは限らぬ。あの腕が立つはずの密偵、奴の配下にやられたのかもしれぬ、用心せねば」
「王様、ただいま参りました。密偵役、其の二でございます」
「おお、来たか。お前ではなかったか。セピアにオーカーの孫が留学の運びとなったと探って来たのは」
「ははっ、私めで」
「おそらく、オーカーの配下の奴が、べネル家近辺に控えておるぞ、密偵役其の一を失ったからな。あの一家は手出しできない。ところで、孫が出来たからには、その母親がどこかに居るはずだろう?父親は信じられないが、あの栄養失調の息子しかいない。そして孫は元北ニールから連れて来られたと調べたのもお前だろう、其の二」
「ははっそうでございます」
「育ったのはそこであろうが、母親らしき奴はいなかったと調べはついておったな。では生まれたのは何処じゃ」
「獣人国で」
「おそらく、母親は身分が低いか何かの事情で、そっちに捨て置かれておる。生き死にを調べ、生きておれば攫ってこい、ヤコと言うオーカーの孫、母親を人質にして、べネル家から連れ出して来い。母子共々手に入れたら、オーカーの傲慢な面がどうなるか見ものよ。かかか、行け」
「御意、しかし王様」
「なんじゃ、儂に逆らう気か、名案ではないとでも?」
「とんでもございません。ですが、母親がもし死んでおればどういたしやす?」
「少しは頭を使え、ヤコには母親は生きておると、人質にしてココモドラゴンの王が預かっておると言って連れだすのだ。ごたごた言わずに、行け」
行けと言われて、獣人国へ行く密偵其の二、『出来るかな』と首を傾げる。
一方こちらは、ニール国と獣人国との国境近く、ニキ爺さんのお館。明日は結婚式(内緒だけど二組の)をお館のパーティー会場用のホールで行う事になり、使用人達一同は、上へ下への大騒ぎである。パーティーに招待されたリューンさんは放っておかれて、暇なので一人、自分でお祝いに持ってきたはずの酒を食らっていた。
姉のユーリーンはさっきから、セーンが帰らないと叫んでおり、他に用事は無いらしい。使用人任せは、優秀な使用人だからできるわけなのだが。
五月蝿いから黙れと言いたいが、お祝いだから文句は言えないリューンさん。セーンは道草しながら戻って来ているのは分かっていたが。姉に言って安心させてやるものかと思っていた。五月蝿くて、一杯飲んだとしても、昼寝も出来ないのだ。
道草、それは、チーセン、ラーセン及びヤコの授業参観風の観察だ。見守りと言うより不始末を未然に防ぎたいところである。セーン達の懸念を上回る、ヤコのずらかりと、戻りとその後の女の子とのやり取り。面白すぎて、一日中見ていたいセーンだ。
「何処に言っていらしたの。ヤコ・オーカー様」
「もう2時限目は始まってるわ。あたし達2時限目が音楽室ってこと、きっと、オーカーさんは知らないと思って待っていたの。そうしたら、始まっても来ないのよね」
「僕、せっかく待っていてくれたようだけど、知っている。だから次から待たなくていいよ」
「謝らないの」
「何を謝るの」
「あたしたちが、音楽の授業に遅れる件」
「どうして」
「あなたを待っていたの。教えてあげようと思って」
「でも、木曜の2時限目は音楽室って時間割に書いてあったよ。僕、知っているし」
「はあっ。あんた知っていたって言う訳」
「知っていたって言うよ。知っていたし」
「あたし達、転入生のあなたに、親切にしてあげようと思ったのよ」
「ふうん、で?」
「でって何よ」
「次の話あるかなって、そういう言い方じゃなかった?早く言ってくれないと、2時限目始まってるし」
「はぁっ、殴ろうかな」
「リリ、殴るの。じゃ、おまかせしておくわ。あたしは行くから」
「あたしだって行くわよ。面の皮厚そうだから、手が痛いかも」
「そうね、手の方が痛いと思う」
「殴られなくて良かった、えへ。あ、この笑い方、ココモ似だな。えへ」
「変な笑い方してついてこないでよ」
リリが振り返って言う。
「でも、行くとこ同じだし」
「じゃ、先に行って」
ショウカが何故か、先を譲る。
「僕が先なのは原因が僕だから、いけない感じ」
「いけなくないわ、あたしが先に行ってと言っているんだもの」
「どうして先に行けって言う?」
「後ろが、ぞわぞわするのよ。気色悪くってね」
ショウカのきつい一言。
「はい、分かりました」
とぼとぼ先に行きだすヤコ。
「早く行ってよ。急いでいるんだから」
また言われて、
「はい」
と返事して走り出すが。
リリに
「廊下走ったらいけないのよ。競歩よ」
ヤコは競歩が初めて聞く単語で、振り返って少し寄り目になった。
「あ、寄り目。可愛いー」
「ママ似だ」
「ママ似なんだー、可愛いー」
先ほどは怒っていたかと思えば、今度は褒められたのか・・・。
『褒められたのかな?これはからかわれているのでは』ヤコはそう思った。
外から空中に浮かんだまま、観察していたセーンとヤモちゃん。
「あー、おもしれー」
「ふん。もう行こう。ユーリーンさんの声が枯れだした」
「婆さん、どうして声枯れるかな」
「セーンに『家に帰ってこい』と怒鳴ったから」
『婆さん、聞こえてないよー』
『うそ、今の返事が聞こえている証拠よっ』




