第31話 チーラにセーン指摘される思い癖。ヤモはオーカーの所へ行かず。迎えに行くセーン。館にミーラが来て、吸血鬼の情報、リーの情報を言う。双子はセピアへ留学案
セーンは館に戻ると、とりあえずチーラの居る所へ行った。チーラは外で、ニーセンとユーセンの泥んこ遊びを見ていた。
「チーラ、戻った」
「あら、セーン早かったこと」
「遅くなると思ったとか」
「ええ、ヤモちゃんはセーンと居たいのではと思って。揉めるんじゃないかと思いましたの」
「それがね、・・・」
セーンは一部始終をチーラに話し、断った場合の懸念から、ヤモちゃんを置いて帰った件、ヤーモちゃんの不満げな件、報告した。
「俺の対応、どう思う」
内心否定はされないと思ったが、
「ずいぶん唐突に決められたのね。ひとまず、みんな連れて帰った方が良くはなかったかしら。ココモちゃんの時も、また連れ戻しに行ってらしたでしょ」
「うう、チーラさんの意見は意見として聞いておくよ」
「リューンさんに、その後の様子をお聞きしては?」
「そだね」
ニーセンとユーセンが泥の塊を小さな手で作りながら、
「パパ、ココモは?」
と聞いてくる。『こんな小さいのまで、ココモの行方を気にしている。俺、薄情だったのか?』
チーラは、
「セーンの思い癖、自分が我慢していれば丸く収まるって、いつも思ってらしたでしょ。小さい頃から。癖になってしまって、自覚は無いようですわね、ヤモちゃんが何度もたずねていらしたのに、とうとう、思いどおりにはなさらなかったわね」
「そう言えば、いつもみんなの要求を優先していたかもしれないな。しょうがないじゃないか。習慣になっているんだ、多分ね。チーラに言われるまで気付かなかったな」
「一度、ご自分の希望どおりになるように、何でも決めてみては、どうかしら。私、出来るだけ協力しましてよ。そうしたら、ヤモちゃん達の事もどうすれば良いか考えられるんじゃあないかしら」
「うん、リューンさんがヤモはついて行かなかったって、今、コンタクトしてきた。迎えに行ってくる」
「そうだと思ったわ」
セーンはまたリューンさんちに行ってみると、2人は海から家に移動していて、リューンさんは、涙目のヤモちゃんにご飯を食べさせていた。
「泣きたいときは、腹が減っている事が多いからね」
と不思議な理屈を言っていた。
「ごめんね、ヤモちゃん」
セーンは二人の所に降り立って、開口一番に謝った。
「いい、セーンはヤモがヤコと居たいんだと思ったんだろ」
「違ったのか」
「ヤコは学校に行きたいんだって。セピアの識者が、土ドラゴンの国は学校があるって、皆通っているって言っていたって話、ヤコに言った事なかったけど、ヤコは自分が欲しい情報を手に入れる能力が有るみたいなんだ。ヤコも勉強して識者でテレビに出るそうだ。将来の計画だってさ。将来の計画に、ヤモは入って無いって事だから、ヤモはセーンと居るはずだってな。お見通しだから残る事にした」
「うん、ヤコは利口だからな。学校に行ってドラゴンの識者で、テレビに出るのか。リューンさん、飯、俺のは・・・無いな」
「お前は文言に泣きが入って無いからな。やらない」
「すぐ食い終わるから待ってろ、セーン」
館にヤモと戻って来たセーン。館には何故かミーラがやって来ていた。
「あれ、ミーラ。一人で来たとか」
ミーラ、チーラと比べて、何だか不幸感が有るのが分かったセーン。どういうことなのか、そう言えば、夫の元ニール王のリーは行方不明のままなのか。
リビングルームで、ニキ爺さんやユーリーン婆さんそろって、興味津々のご様子、チーラは小さい方の子は膝に乗せ、大きい方のチーセンとラーセンは両側に従えている。ややこしい話らしいので、ひとまずヤモちゃんはポケットに入った。
「皆さま、お揃いの様ですから、私の身の上話、お聞かせしますわ」
チーラと育ったはずだが、身の上話とは・・・セーンは黙って聞かせてもらう。
「実は、私の夫、リーは四年以上前に死んでおりましたのよっ」
「えーっ」
一同、驚愕である。
「はっきり言ってしまえば、私、リーとは婚姻関係は有りませんのよ。おっほっほ、うっふっふーウェーン、エッエーン」
「ミーラちゃん、可愛そうに。じゃあ一体ミーラちゃんは誰と結婚していたの」
チーラ、疑問点を問う。
「吸血鬼よ、あの、セーン様が踵落としで殺していらした・・・殺したのかしら。生きていないんですよね、皆様。吸血鬼って生きていないんでしょう。キーッ。キャハハ。ヤダー」
「まぁまぁ、ミーラさん、落ち着いてね、可愛そうに」
ユーリーン婆さんおろおろ、慰める。チーラはやや寄り目になった。で、何やら考えているのか?セーンはチーラどうしたと聞きたいが、少し遠い位置関係だ。
ニキ爺さん。生真面目に尋ねる。
「そもそも、どういう経過で、吸血鬼だと判明しましたかな」
「それはレンさんが、お亡くなりになった部下の方を、弔おうと久しぶりに北ニールの礼拝堂?神殿?何かそう言った場所にある、滝つぼにご遺体を入れに、お出かけになった時ですわ。そうゆうお葬式のしきたりがおありなんでしょう、北ニールには。そこにレン様が行ってみましたら、その滝つぼはご遺体は決して上がってこないという言い伝えのはずなのに、ご遺体が数体浮かんでいて、その中に少しお若く見えるリー様のご遺体が浮かんでいたそうです。ですから、浮かんだのは最近の事と思えたそうです。滝つぼの底はとても深くて温度も氷のように低いので、ご遺体は亡くなった時、そのままの状態と言い伝えられているそうですよね、ニキお爺様」
「そうですよ。何とも不思議な話ですが、それはそうと弔いをしたと言うのは、獣人国で何か不幸な事でもありましたか、儂らは知らずに失礼してしまったのでは」
「いえ、私共の親類に被害などはございません。レン様はとてもお強くて、お伴の部下の方たちよりも活躍されましたわ。ジュール様が何時もそうだとおっしゃって、今回ココモドラゴンが獣人国を急襲しましたけど、こちら側は被害はその弔いにお出かけの理由となったお一人だけでした。ドラゴンはほぼレン様が、お一人で始末なさったそうです。私は恐ろしくて見てはいなかったのですけど。クーラ様がずっと一部始終を見ておいででしたわ。先日こちらに攻めて来て返り討ちに合ったドラゴンの残党の、逆恨みが理由だそうでした」
セーンは舌打ちしそうになって、慌てて咳払いで誤魔化した。ニキ爺さんお見通しで、
「セーンが気付いて準備万端だったのが奴らに感付かれたんだろう。魔法使いが居たからな。こっちに来させられなかったからだろうが、滝つぼに行ってみる機会が出来たのも何かのめぐりあわせかも知れぬな、それでリーがすでにこの世に居ないのが知れた訳だ」
「そうなりますわね、レン様が、リー様のご遺体を発見して、では、今までのリーの正体は何だったのかと思われました。それから、何とはなしに辺りをみると、滝つぼの側の絶壁になった岩肌が、中ほどがぽっかりと空いていて、その岩肌の様子から、最近できた穴ではなさそうで、その穴を見に行ってみると、中に空っぽの酷く傷んだ古い棺桶があったそうです。それが古の吸血鬼の出払った後の住処ではないか、と思ったそうです。そうなると以前セーン様がやっつけたあの吸血鬼、あの時に出て来たのではなく、かなり以前に出て来て、リー様と入れ替わっていたように思ったそうです。レン様は先王が魔の空洞に引き込まれたころではないかと言って居ましたわ。言い伝えの様に四年待つことはなく、出て来たと思っているそうです。王はもう儀式をしていなかったのでしょう。それでですわ」
話が途切れたので、セーンは気になる事を聞いてみた。
「で、ミーラさんが今日、こっちに来られたわけは?」
「まっ、お分かりになりませんの。私、きっと吸血鬼に血を吸われているはずですわ。レン様だって、先日慌てて、ユーリーン様の所へ癒してもらいに帰ってこられましたでしょう。私だってきっと吸血鬼になってしまうんじゃないでしょうか。ユーリーン御婆様に阻止していただきたいですわっ」
そこで、ミーラさん以外の大人は、首を傾げた。どう観察しても、ミーラさんは吸血鬼になっていないし、そうなりそうな兆候も見えないのだ。そこでユーリーンは思い出した。
「思い出したことが有るんだけど。はっきりと断言はできないけど、古の吸血鬼は、血を吸って仲間に出来るのは、人だけじゃないのかしら。獣人は吸血鬼にはならないと聞いた気がするのよ。吸血鬼は獣人の血は飲まないと言う話もあった気がしたするけど」
「ホントですかっ、それ」
ミーラさん、思わず地の性格が出る。取り繕っても居られない瞬間だ。
「じゃぁ、じゃぁ、あたしはっ。無事?吸血鬼にはならない」
「なるなら、もうとっくになっているはずよ」
ユーリーン婆さん、ミーラさんに喜びのお墨付きを与えた。ミーラさん、喜びの雄たけびを上げる。
「おおぉー、きゃっはー」
本性を現した。『めでたい事だ』とセーンは思った。
「じゃ、今日はお祝いだね」と言って立ち去って、ヤモちゃんとしみじみしようと思うセーンに、ニキ爺さんが尋ねた。
「セーンの方も話は付いたようじゃないか。どうだったんだ」
「うん、ココモちゃんと、ヤコちゃんは、土ドラゴンのオーカーさんの所で、暮らすことになったよ。ヤコちゃんは土ドラゴン国の学校に行きたいんだって」
それを聞いて、チーセンとラーセンは大いに驚く、
「マジ?」
そういう二人、先日まで同居していたセーンの従兄弟たちの真似が続いている。
「お前らだって、セピア公国の学校に行っても良いんじゃないか。行く気が有ればだけど」
セーンは思わず言った。すると、チーラはにっこりして、
「それは良い思い付きだわ。セーン。私もこのまま二人をここに置いていても、将来が気がかりだったの」
すると、ユーリーン婆さんの提案で、いよいよ具体的になってくる、
「じゃあ、べネルの家から通ったらどうなの。シューやジェイが居るから、分からないことは教えてくれるはずよ。あの子たちはこの前戻ってから、また学校に一年遅れで行きだしたって言う話よ。まぁ、直ぐ卒業するにしても、少しは一緒に通えるんじゃない」
「ぐぇ」
「あは、行ったら、行ったで、楽しい事もあるよ。行く気が有ればだけど」
セーンはもう一度、行く気が有ればと念を押した。その気がなければ苦痛なだけだろうしと思った。
チーセンとラーセンは顔を見合わせ、ちょっといたずらっぽく笑った。
セーンは、『あいつらのとこに行くのなら、ふたりも行きたいようだな』と思ったのだった。




