第2話
セーンは近頃することもなく地下の親父の家でゴロゴロ過ごしている。ヤモちゃん及び壁の上一家も同じくだ。
レンやジジババは新しく地上に家を建てるつもりで、ずっと地上に居る。どうやら、リーの田舎の地所イーバン公爵領は無事だったらしく、そこに居候している。そのリーの北の果てのイーバン公爵領は、国境を隔ててはいるがお隣さん的存在の隣国があり、王都に近い方のお隣さんはソルスロ家の田舎の所有地という事情がある。生憎、ソルスロの方は一面更地だ。リー本人は城跡の中で何か後始末をしているらしく王都に居る。だから、田舎に居ないから顔を合わせることはないとは言え、セーンとしては奴の地所に居候するなど拒否して、地下で暇していた。レンやジジババにはリーに思う所など無く、仲が良いようだ。
「ったく、呆れた奴らだ。まぁ、レンはリーに一儲けさせて恩を売っていたから気にしないんだろうけど、ニキ爺さんは養子に行った甥の世話になるとは、最近かくしゃく感が無くなっているな。ユーリーン婆が地下に居たくない所為だろうけどね」
ヤモちゃんは聞いているかどうか知らないが、暇に任せてしゃべりが続くセーン。
「セピアに行こうにも行けない立場の俺って、これから先どうするんだ。跡取りはレンがなるって言うから、気楽なのはいいけど、此処での俺の立場はどうなるんだろ。ただの居候と違うか」
『違う。セーンはお館さまの孫、レンの息子で次の跡取り』
「そうだったねー、思い出したよ。時々、それをヤモちゃんに言ってもらわないとセピアに戻りたくなりそうだ」
『時々言う』
『ヤーモもいおか』
「うん、ヤモちゃんが黙っていたらヤーモちゃんが代わりに言ってね。・・・あれっ」
セーンは思わず立ち上がって、地上の様子を窺う。
「なんだか真上あたりに、俺ら一族の誰かの気配がしたな。誰だろ、変だな。誰か分からないけど、ニキの血筋の誰かだ。俺、あまり暇で脳が働かなくなっちまった。どうしよう、あ、自分で癒すか」
セーンは自分の頭に手を当てて、癒す感じにしてみた。だが、誰だか分からない。移動していないから、気配はしっかり分かるのに、誰だかわからなくなっている。
「ヤモちゃん、俺、自分の病気は治せないのかな」
『病気じゃないから、治らない』
「病気じゃない、じゃあ、上に居る奴は誰だ」
『セーンの伯父さんの息子』
「ヤモちゃん詳しいね。俺より分かっているじゃないか。つまり、俺よりヤモちゃんはだいぶ年上だな。取説の件で分かっているはずだったけど、ますます今の一言で現実味が湧くよ。そうだ、取りあえず上に居る奴を捕まえに行こう」
セーンは従兄弟を捕まえるつもりのようだが、ヤモちゃんは首を傾げていた。『連れてくれば良いのに』正論だ。
瞬間移動で真上に行ってみたセーン。真上は現在、はげ山だが前は公園だった所だし、近隣には王族や貴族階級の子供が通う学校があったはずだ。セーンは通ってはいないが、レン達兄弟が通っていたはずだ。そして、何歳かセーンより若そうなやつが居たから、彼も通っていたはずだと思えた。しょげた感じがするのは、おそらく何もかも無くなって更地になっているからだろう。
「やぁ、お前はべネル伯父さんの息子の誰かだろうな。初めて会うけど。俺はレンの三番目の息子のセーンて言うんだ。よろしくな」
「それ、ホント。良かったなぁ、僕、シューて言うんだけど、知った人に会えて助かったよ。ちょっと困ったことになっていて、こんなだから何処に行けば親類に会えるか分からなくてさ」
「困ってるって。話、聞こうかな。じゃ、瞬間移動で家に連れて行くからね。近くだけど普通には行けない所にあるんだ」
「へぇ、」
セーンが地下の家にシューを連れて行くと、
「すごいなここ、地下の魔族とかが居た場所だよね。噂で、レン叔父さんが魔族に勝ったって聞いたけど、パパやママは本当かなって疑うんだ。でも、本当の事だろうと僕は思っていたよ。第一、僕らに関係ない人が、嘘の噂を広める意味なんかないでしょ」
興奮してしゃべるシューの話を聞いて、セーンはべネル達のレンに対する考えが想像できた。そうだとしても、自分としてはどうでもいい話だ。
「なるほどねぇ、でも、まだ困った話に差し掛かっては居ないよね」
「そうだった、セーンってまどろっかしい話は嫌いみたいだから、かいつまんで言うとね、俺と、同じ年齢の従兄弟のジェイがね、リーの野郎にセピアからさらわれてこっちに来ちまって・・・」
「へぇ、ここでリーの野郎の行状が出てくるとは、意外だな」
「そうなの?とにかく自分は宰相なんだからって、えさっててね」
「うん、うん。お前の話ってのは、聞いていて、快い気分になってくる手の話だな」
「そう?それでね、生き残った奴らにはきぼうが要るっていって、ジェイを王にするって言うんだ。ユーリーンお婆さんの孫が王の血筋で、生きているのの内から一番年下の奴を王にするって言って、俺とジェイが一番年下で、俺は親兄弟が多いから、うるさいけど、ジェイは隠し子扱いだし、親父は新婚でジェイの事なんか気にしてないって言って、王はジェイが良いって言うんだ。それで・・」
「なにぃー、今、お前は物凄いスキャンダルを暴露したぞっ。新婚の親父だってー、隠し子だってかーっ」
「うん、そうか、この辺りじゃ、知られていない事だったのかな・・・とにかくジェイを取り戻さないと、王に祭り上げられちまうんだ。柄でもないのに。リーが熱心に企てているみたいだけど、ジェイを取り戻したいんだ。このままじゃ、ジェイはきっとストレスで変になりそうだったんだ」
「そうか、なるほど。結論はジェイ奪還だな。王はリーがなれって言ってやろう。捨て台詞では、言い出しっぺがなれとか言うのも良いし」
「あの、僕と、セーンで取り戻すの」
「いや、俺には壁の上一家という魔物の使い魔が居る。ほとんどヤモちゃんに任すつもりだ」
「ヤモちゃん?」
「ヤモちゃんで十分間に合うが、なんだったら、暇そうなやつらも付いて来ていいって言おうか、ヤモちゃんどう思う?」
「ヤモだけで出来るけど。多分暇な奴は来る」
「だよな。構わないから出発しよう」
いきなり現れた魔物に度肝を抜かれたシューだが、ヤモちゃん?だけでなくその他大勢さんがそろって出現し、『これなら大丈夫みたいだ』と安心するのだった。
皆瞬間移動ができるらしいが、シューは出来ないのでセーンに連れて行ってもらった。
城跡にはあっという間に移動でき、ぞろぞろ、ジェイの所へ行くと、何やら似合いそうにもない金ぴかな服を出してきて、ジェイに着ろと言っているお付きの人達らがいた。だが、セーンが、
「悪いけど、そんな変な服、ジェイは着ないからね。ジェイは王になんかならないから。俺らで迎えに来た、じゃね、あしからず」
「まあっ、セーン様じゃありませんか。困るんですよ。あたしたちがリー様にしかられます」
シューはセーンも良いとこの人なんだと知ったが、ジェイ奪還は間違い無く済ませられそうだと思った。
「セーン、待ちなさい。話し合おう」
魔の悪い事にリーがやって来た。魔物が大勢さんでやって来たので、いやでも目についたらしい。
「別に話はない。言いたいことがあったら、親父を通してね」
セーンはジェイを掴むと、リーに魔力で捕まえられている感があったが、そういう縛りをぶち切って、片手にジェイ、もう一方の手はシューを握って瞬間移動した。魔物の使い魔をリーも持っていたが、セーン達が移動した後は、ヘキジョウさん達が暇に任せて暴れ出し、リーの使い魔は使い物にならなくなったようで、セーンとしては穏便に帰らせなかったリーが悪いと思った。
家に帰ってみんなでやれやれと寛いでいると、レンが戻って来た。きっとリーが文句を言ったと思う。
「俺の息子は随分と活躍したようだな」
「それほどでもないよ。ヘキジョウさん達が活躍していたけど、向こうが穏便にする気が無かったからね」
「そのようだが、生憎あいつらは北ニールに居る唯一の兵隊でね。リーが国が無防備になったと言って俺に泣きついて来た。セーンが悪いんじゃないし、お前の使い魔が悪いんじゃないが、どうだろね、セーン。お前とお前の使い魔で、北ニールの守りを固める役に付いては貰えないかな。どっち道そうするしかないだろうがな。隣国の何かが、襲って来たなら、お前らが対処する外は無かろうな。普段は何処に居て何していようが構わんが、有事には駆けつけろや。頼んでおくぞ。しっかり気を引き締めていろ。おう、ヘキジョウさんとやらは引き受けたようだな。セーンがぽかんとしているうちに、話はついたな。あはは」
「何だってー、俺抜きで話付けたってー」
「気にするな。使い魔の方がお前より一枚も二枚も上手だからな」
「そうだろうさ」
がっくりしていると、レンはセーンにくっついてソファで寛いでいたシューとジェイを見て、
「べネルの末っ子とジュールの隠し子だと?ジュールは知っているのかな」
ジェイに聞くが、ジェイは、
「僕は知らないけどね」
と言っている。
「まだ会いに来ないのか」
セーンはあきれて、
「さっき助けたばかりじゃないか」
と言うと、
「俺の方が先に来るとはな。リーの話を聞く時間を考えたら、ジュールは来なかったと言えるな。新婚だからな」
そう言ってレンは立ち去った。
「レンは時々、意地が悪い事を言うけど、そういうやつだと割り切ってね」
セーンはジェイに言っておいた。
「僕、気にしない、前にユーリーンさんに、血のつながりが家族って言うんじゃないって言われたんだ。一つ屋根で仲良く暮らすのが家族だってね」
セーンは、
「いつ聞いたのとか、教えてもらわない方がよさそうだな」
という結論に達した。
前からここに居た料理上手な魔物さん達に晩御飯を作ってもらい、風呂にも入り、三人で、今までどうしていたかとか、話し合おうかなと思っていると、ヘキジョウさん達が、何だか急いで出発した。ヤモちゃんにどうしたのか聞くと、北の果てで、隣国の兵が攻めて来たという事だ。
「俺らも行くべきじゃないか」
と言うと、ヤモちゃんは、
『レンの居るとこだけど行く?』
と呑気に聞くが、
「そこってジジババもいるとこだろ」
という事で、セーンも行ってみることにする。
ヤモちゃんが、
「半分のヘキジョウさんを置いておくよ。ここだって大事な子が居るし」
と言った。シューとジェイは安心したようだが、セーンはテレパシーで、聞いてみる、
『大事な子って、リーはジェイを王にするのをあきらめてないって事』
『また、どっちにするか、迷いだした』
ふーむ、セーンも一応、思案してみる。
『今更、王は必要なのか』
投稿の予定をお知らせしておきます。
毎日この時間頃に2話ずつ投稿する予定です。
もしかしたら、1話ずつになるかもしれません。その時はお知らせします。
・・・ご想像通り完成はまだしていません・・・