第16話 北ニール王の役目、古ヴァンパイアの言い伝え。海上でドラゴンの襲撃受けるがセーンが追い払う
セーンはクーラ叔母さんから爆弾を落とされたような、衝撃的な情報を得て、ココモちゃんの煩い催促も有り、再三リューン叔父さんのところへ通っている。
いつものようにリューン叔父さんの家に行くと、釣りの道具らしき一式を台所のテーブルに出していて、釣りに行くつもりらしい
「ちわ、リューン叔父さん。釣りの準備?いつ行くの」
「あ、お前達、今日も来たんだな。今晩夜釣りしようかなと思っているんだ。まだ準備している所だから、セーンは適当なしゃべりが終わったら、明るいうちに帰るだろ。毎日のように来るが、話のネタが無くなりゃしないか」
「それが今日は新しいネタがあるんだ」
「あぁ、クーラが話したんだな」
「リューンさんも聞いているのかな。昔の文献に載って居たって言うけど。本当かな」
「わざわざ、記録を残しているからな」
意外なリューンさんの見解に驚くセーン。
「そうなの。俺はこの件だけは、あのあほ王の意見がもっともだと思うな。
「そうかな」
「リューンさん、違う意見みたいだけど。考えても見てよ。何代前の王か知らないけど、能力が有って、その魔の国の老ヴァンパイアをやっつけたとしてもだよ。そいつを棺桶に閉じ込めて、年にたったの一度だけ。王の血を飲ませて飢えを鎮めるって言う話は、嘘くさい。ゴブレット一杯とかヴァンパイアにしてみれば、そいつが生きていればの話だけど、そいつの飢えをしのぐのは、無理だろ。焼け石に水ってもんだ。死んでいるなら、お供えっぽい意味だから、供えようが止めてしまおうが何の影響も無いな。だからあほ王は止めちまったんだろう。一旦止めちまったら。どうって事なけりゃ、王、居なくても良いんじゃないか?って結論になったところで構わないだろ。で、王の血のお供え止めて今年で4年目だ。そしたら、ユーリーン婆が思い出してね。ユーリーンのパパが言っていたこと。王にお供えしなくなって、4年目に飢えた老ヴァンパイアが復活するってのは、何だかリューンさんも同意見みたいだな。マジ?」
「俺もそういう老ヴァンパイアにあった事は無いが、少なくとも記録にあるって言う事は、事実に近い何か、があるっていう証拠だな。」
「それで、もしその老ヴァンパイアが、本当に復活したなら。失礼しましたとか言って、王の血お供えして勘弁してもらえるのかな」
「それは虫が良すぎるだろな。怒りの復活だから、大勢犠牲者が出たぞって言う事、記録してなかったのか」
「『復活する』でおしまい。だからまだそんなことが起こってはいないんだと思う。てことは、起こるとは限らないんじゃないかな」
「まぁ、その内はっきりするだろ」
「リューンさん、いざとなったら逃げきる自信ありそうだね。もっぱら釣りの支度に集中している。随分、やる気ありそうだけど、俺もついて行っていいかな」
「ココモも連れて行くのか」
「留守番できる奴じゃないから、そうなるけど、邪魔?」
「と言うより、時々、海上に出たら、ドラゴンが上空を飛んでいる事があってな。最近頻繁に見るんだが、そいつと何か関係があるんじゃないかと思ってな。来たらトラブルになるぞ」
「ココモドラゴンかもしれないって?」
「遠くだから分からんが、考えたらお前らがニールに戻って来てから、頻繁に表れている気がするな」
「ココモちゃんの仲間だろうか。だったら、会っておくべきかもしれない」
「そいつはいずれ生息地に戻す気なのか」
「瀕死のドラゴンは、そのつもりで預けたんじゃないかと思う。状況からしてかなり強烈な願いと言うか、念だな」
「ココモドラゴンじゃない可能性もあるが」
「その時は、戦うしかないな。リューンさん不味くなったら助太刀とかしてくれるんだろ」
「お前の使い魔は加勢に来ないのか」
「ドラゴン関係はなんだか微妙な感じがする。ヤモちゃんとココモちゃんの関係、よく分からないけど、仲間に知られるのは避けておきたい件だな」
「もう少し、合わせるのはまったらどうか」
「そう思う?じゃ帰ろかな」
セーンはリューンさんに待ったをかけられ、帰ろうとするが、ココモちゃんが、どうやらセーンとリューンの話の内容を察していて(信じられないけど、そうとしか思えず)釣りの道具のひとつと思える籠をくわえて、走り回りだした。連れて行くと言わなけりゃ返さないという事らしい。
リューンさん舌打ちして、
「おい、飼い主。取り戻せ」
と言うが、こうなると、セーンもお手上げなのだが、ココモを追いかけるが、なかなか素早い。しかし、
「セーン、本気出さない気だな。俺は連れて行っても構わないんだぞ。お前らがまだ早いと思ってそう忠告してやったのに」
リューンさんにしかられたが、結局船に乗せてもらった。ココモちゃんは満足そうだ。
今までのリューンさんちに行こうの毎日の叫びは、この為だった気がするセーンである。
『帰りたいのかな』少し早い気もするが、ココモちゃんの気が済むようにしてやりたい気はするのだった。
リューンさんはかなり沖合まで船を出し、夜釣りを始めた。ココモちゃんは氷を入れたケースの中にどんどん増えていく生きの良い魚に興味津々の様子だ。
「今日は大漁だな。こういう日は奴らも現れる。おそらく奴らも魚を取っているんだろうな」
リューンさんの予想通り、聞いた事の無い奇妙な鳴き声が聞こえた。なんだか会話でもしているように思える。
「グッグッグウ」
「グッグッググウウウ」
上を見上げると、かなり上空に居るのだが、良く通る鳴き声だ。それに大勢いる。セーンは一寸不味いんじゃないかと思う。遠くだがドラゴンたちの色は、茶色っぽい感じだ。黒ではないから。恐らくココモちゃんの仲間ではないようだ。
そんな時付いてこなかったはずのヤモちゃんとヤーモちゃんがセーンの両ポケットに居るのが分かった。ドラゴン相手では勝ち目があるとは思えないのだが、胸が熱くなるセーン、二人とセーンはどんな時も共に戦う気概である。
『出てくるなよ、勝ち目はない』
セーンは言っておくが、
『そんな事やって見なきゃわかるもんか』
ヤーモちゃんは威勢がいいが、
『やって見なくても、俺には分かる。出てきたらきっと食われる。ポケットに入って居ろ』
セーンは注意するだけはしたし、と思いドラゴンに集中した。
ドラゴンたちは旋回しながら少しずつ降りてくる。一匹が代表で、「グワー」と大声で鳴きながら船に向かって突進してきた。
ココモちゃん恐怖で「ギュー」と鳴きながら、船底にへばりつく。
セーンは利口だと思った。底にぺたんとへばりつくと、攻撃されにくいと思う。セーんは立ったままドラゴンを睨んでいたのだが、愚かとも言える態度である。リューンさんも船底にぺたんと横になっている。ココモちゃんはリューンをマネしての行動かも知れない。知恵なしセーンはドラゴンに向かって、
「ドアホー、なんか用かー。俺は用なしだーとっとと帰れー」
と圧を掛けながら怒鳴った。意味が分かったかどうか知らないが。違うのが、また船に向かった突撃してきたが、
「来るな、ドアホー」
言っていることが分かっていないかもしれないが、怒鳴りつけるセーン。ぎりぎりまでものすごい勢いで突撃してきて、上に上がっていくドラゴン。
「アホー、なんか意味あるのかー」
「とっとと帰れーアホー。うざい奴らー、痛い目会いたいのかー」
意味わかってないらしくても怒鳴るセーン。
しかし、相手の方は大勢なので、一匹痛い目会わせても負けそうだが、そこは圧で誤魔化す。セーン、思いついて今度来たら、風圧を思い切り当ててみようと思う。大勢さんが一度に来ることは望まない。きっと来ないと思うが。上空を見ると皆ある程度距離を開けている。きっと、引っ付いては飛びにくいと思う。
また一匹来たので、風圧を出したら、よろけて海に落ち込む。
「ザマーミロ」
やけになってカカカと笑ってやった。内心きっと大勢で来そうだと思うが、皆で少し上空に移動している。なるほど、くっついては飛べないのだと確信した。勝機ありだ。
「とっとと、帰れー、俺に面見せるなー」
強気になって怒鳴るセーン。一匹が、
「グオーン」
と威嚇の鳴き声を出した。セーンもマネして、
「グオーン」
と叫んでやる。ひるんだように見えたのでもう一回、
「グオーン」と言ったやったら、もっと上空に上がった。もう一回怒鳴ろうとしたら、声がかすれて、
「カハーッ」
となったが、ドラゴンたちは帰りだした。捨て台詞に、
「二度とクンナー」
と言ってやった。少し声が枯れたが、そこがまた、迫力が良かったかもしれない。
「カカカ、ザマーミロ」
勝利宣言だ。
「理由は知らんが勝ったぞー。どんなもんだいっ」
リューンさんとココモちゃんがそろそろと上空を見回し、
「ホントに居ないな。セーン、大したもんじゃないか。だけど、お前の周りにオーラが出ているが、お前のオーラじゃないな。ヤモちゃんのと違うか。お前とヤモちゃん、一体化してないか」
「へぇ、何、一体化って。俺の実力じゃなかったって?」
「セーンの実力だ」
ヤモちゃんが言う。
「俺はお前の周りをカバーしただけだ。攻撃されないようにな。追い散らしたのはお前だ」
「ふうん、そうか。あれ、ヤーモちゃんの方のポケット何だか濡れているな。しぶきがかかったとか」
ヤモちゃんが言うには、
「漏らして失神しているだけだ」
「はぁー」
ココモちゃんが甘えて寄って来た。
「キュー」
「怖かったな。ダメな時はダメって言うからな。ゆうこと聞けよ」
リューンさん、
「まだ、無事な魚があって良かったな。あまり大漁になったときはさっさと帰るべきだな」
「そうなの」
「ああ、何とかは糾える縄のごとしっていうだろ」
「んー、知らない」
リューンさんは何故か、ため息をついた。
リューンさんとよく分からない会話をしている間に、ヤモちゃんは意識の無いヤーモちゃんを連れて帰っていた。
『それなら俺も帰ろ』とセーンも追いかけて、ニキ爺さんの館に戻った。