第13話 ジュール、チーラの父、獣人王を殺したのをチーラ知る。死人の帰還?
ユーリーン婆は小さい方の双子が寝入ったようなので、
「じゃあ夜も更けて来たし、メイドさんたちも部屋の用意は出来たんじゃないかしら。上の階の気に入った部屋で寝てね。シューとジェイは一緒の部屋にして、大勢さんだから、一人一部屋の待遇は無しよ」
「だろうね、はいはい」
そういって、皆2階か3階に行こうとしたが、セーンは困った、
「お婆ちゃん、俺らもかな」
と、今日、一番の珍妙な台詞が出た。
「あら、今まで別だったの」
「うん、そして今現在、ここ一番の危機になっている」
「あんたがいくら危機だって言っても、チーラさんはもうすぐギャン泣きになりそうな雰囲気よ」
「いえ、私、大丈夫ですわ。双子の面倒を見ないといけないので。今日から乳母は居ませんもの。私、双子と一緒に寝なければ」
「それもそうね。ところであんたたちさっきからその小さい方のを、双子、双子って言ってるけど名前で言わないの?」
セーンは、
「あ、一応名前は付けたよ。確かに付けた。爺さんと婆さんにあやかって、ニーセンとユーセンにしたけど。なんだかあまり行けて無い雰囲気で。乳母さんの受けとかがね。いい加減さが出ていたかな。で、誰も名で呼ばないんだ」
とか言い出した。
「えぇっ、信じられない。そう言えば、『セーン』もあんたのママが名付けたらしかったわね。あんたもレンによく似てる」
「最近つくづく、自分でも思っているよ。じゃ、ニーセンとユーセンで良いんだよね。こっちに乳母は居ないし。名前呼ぶよ。チーラさんはどう、いやだったらあだ名とかのアイデア出してね」
「いえ、いやじゃないですわ。その名が良いです」
ユーリーン婆は、目をぐるっと回した。
「あたしは何も文句言わないから。チーラさんがそれで良いんなら、構わないでしょ」
ニキ爺さんは、
「ユーリーンや、周りがあまり口出ししない方が良いな。そっとしておこうよ。もう寝るぞ」
そう言って、すたすた自室に引き上げるので、ユーリーン婆もニキ爺さんに続く。
「良い子ばかり居て、これだから」
ため息をついて爺さんを追いかけた。
二人最後までリビングでぐずぐずしていたが、そろそろ自室に引き上げた方が良いかもしれないと思い、ヤコちゃんの籠を持ち、うとうとしているココモちゃんに声をかけた。
「ココモちゃん、部屋に行こうか。ヤモちゃんはまだ帰りそうもないんじゃないか」
ココモは
「ギュッ」
とおそらくさえない気分を表現して、セーンに付いて来る。
「チーラさん、上に行かないの」
動こうとしないチーラに声をかけたセーンだが、チーラは
「私のあの愚かな父親は、それでも私の親だったんですけど、今、きっと、迷惑をかけた誰かに報いを受けているようですわ」
いつもと違うチーラの様子で、セーンも察してしまった。
「俺らの仲間の一人に殺されたのか。チーラさんは透視能力が有ったの」
「いえ、多分肉親相手の本能のようなものと思います」
「俺らに、思う所とか有るのか」
「あの親がやった事が原因ですから、仕方がないとは思います。でも、顔を合わせて平気かどうか、分かりませんわ」
「誰に殺されたか見えたのか」
「見えましたけど、どなたか存じない方ですわ。セーン様にとてもよく似ていらっしゃるから、驚きましたが、随分お年が離れていらっしゃるから、御兄弟では無いですね」
「あ、分かった。だけど、あいつ、随分思い切った行動に出たな。意外だった。此処に住んでいる奴じゃないから。最近結婚した叔母の相手だ。顔を合わすことはめったに無いんじゃないかな。我慢して此処に居てくれないかな」
「どうせ、行く当てなど無い私ですもの。置いていただけるなら、ずっとお側に居ましてよ」
「ずっと何処にも行かないでね。俺の側に居てくれないと、ばらばらな家族って言うのは、こりごりなんだ。薄情で身勝手だな俺って」
「私の父親程ではありませんわ。私、お先に休ませていただきますわ。皆さん、すぐ戻られますわ。此処でお待ちになるでしょう」
「あ、そうだな。今、戻って来たようから、気まずい奴がいるから、チーラは部屋に行った方が良いな。お休みチーラ、ずっと側に居てくれるから、嬉しいな。で、しばらくこいつらも部屋においてくれないかな。」
「はい。喜んでいただけて私も嬉しくなりました。ではお先に休みますわ。ココモちゃん、ヤコちゃん一緒にねんねしてちょうだい」
元気が無かったチーラだが、少し微笑んで部屋へ行った。ココモとヤコ、チーラに珍しく誘われて興味深げについて行く。何か良いものが出てくるとでも思っているようで、妙に人間味が出ることのある2匹、不思議な生き物である。
セーンは何度も自分の側に居てと願ったが、それと言うのも、チーラに此処に来る直前、随分辛くあったったと思っていた。チーラの心情を考えると、セーンは少し反省と言うより不安を感じたのだった。
そんな時、玄関からどやどやと大勢入って来た。
セーンはリビングのドアを開けると。大人になった様子のヤーモちゃんが走って来た。
「セーン、僕会いたがったんだ。すごく」
飛びついて、抱きつくと、
「それで、獣人国の兵の加勢をしろってリーが言うから、ホントはしなくて良いんじゃないかと思ったけど、セーンに会えるかもって思って行ったんだ。そしたらセーンは僕らと入れ違いにニールにいっちまったし、ヘキジョウは怒るし、困っていたんだよ」
「だろうな。ヤモちゃんはヤーモちゃんに、自分の代わりの仕事しろとか言ってなかったんじゃないかな」
「そう思う?セーンも。だけど皆は、ヤーモが代わりになるって思っているんだよ」
「そうなんだ。と言う事は、ヤモちゃんがはっきり言っておかなかったからじゃないかな」
「はぁーっ、皆、俺の所為だって言うんだよな、セーン。俺が悪いのか」
「あは、ヤモちゃん、最近ふてくされを覚えたな」
冗談言いながら、セーンはヤーモに『どうした』と聞いてみた。すると、『皆、様子が変。獣人国に居る魔法使いが、何か僕らに仕掛けている。ジュールが獣人国の王を倒した。そんな事予定になかった』
『うんうん、俺が様子を親父に聞いてみるよ。ヤーモちゃん達はもう寝ろ』
ヘキジョウさん達が部屋を出た後、セーンは親父にどういう事か聞こうと思い、ふりかえった。親父の使い魔の様子から、ジュールはどうやら様子が違っているようだ。
セーンはふと思いついて、リューン叔父さんに聞いてみることにした、先日のコンタクトよりも近くなっているし、素早く聞いた。『リューン叔父さん、ジュールさんの様子が変だと皆感じているけど、彼、どうなってるの』
『セーン、変な事を聞くなぁ、ジュールは先週死んだだろ。知らなかったのか。レンが連絡してきたが、2人の軍隊の隊列に妙な生き物が襲ってきたとレンが言って来た。獣人国の依頼で魔族との国境まで軍隊を引き連れて移動中だった。見知らぬ所を通るから瞬間移動はしなかったんだが、その方が、仇になったな。仮眠中に急襲されたんだ。襲ってきた奴らは、レンとジュールを狙っていて、ジュールがやられたのに気付いたレンが俺に助けを求めて来た。俺はすぐレンの居る所へ行ってみたが、襲って来た奴らは既に逃げているし、ジュールはやられて既に気配は消えていたんだが、死体も無くなっていた。レンの方もかなり深手で、使い魔達がユーリーン婆の所へ連れて行くと言って、国境近くまで隊列を戻したんだ。そして、レンには一応今日の日付を、葬式の日として教えておいたんだが、そっちは誰も葬式に来なかったな。クーラだけ来たが、自分の夫で主催者側だからな。それにしても、こっちにはレンの気配が来ないんだが、どうなって居るんだと聞きたいところだ』かなりな情報を、素早く叔父さんはコンタクトしてきた。
セーンは途方に暮れた。レンとジュールは獣人国で何かに襲われていた。そして、リビングのレンとジュールはかなり親しそうに寛いでいる。
セーンはジュールに言ってやりたい。『クーラはつれないのか、ジュール。だけどお前、死んでいるそうだぞ』
しかし、この雰囲気でジュールの始末が出来るだろうか。