第12話 ニールではシューとジェイがヤモは卵をカスタマイズしたと意見言う
セーン達が一家で瞬間移動した先、ニキ爺さんの最近新築した家は、セピア公国の最新設備の揃ったもので、ニール国に建築されたものとしては、少し違和感のあるスタイリッシュな建物だ。違和感と言えばその新築の家の壁と言う壁には、壁の上一家の面々が、自分の好きな場所に張り付き、最近は益々末広がりの繁栄と見えて、つまり栄養状態の良いヘキジョウさんばかりで、暇に任せて卵で自分のコピーを生み増やしていた。はっきり言って新築の壁は、張り付いたヤモリの魔物でびっしりな状態である。これを違和感と呼ばずして、何を違和感と言えるだろうか?これ以上の違和感ある見かけの建築物を、見た事のある者はいないだろう。
そんなニキ爺さんちのリビングルームに、大勢さんで必死の瞬間移動の末、転がり込んだ。実際、皆で転がって登場すると、ユーリーン婆は、
「まぁっ、きゃー。どれから先に撫でるのが正解なの。分からないから順番にならんでよーっ、並ばないんならいいわ。あたしが捕まえるから。あ、似たようなちっさいのはつかめない。やけにでかいのでいいわ。セーンに似てる。きゃー、どうしてそんなにでかいわけ。叫んで疲れた・・・来てー僕たちっ」
ニキ爺さん、
「婆さん煩いな。セーン、こんな大きな子まで居て、何時、式を挙げたんだったかな。しらばっくれていただけで、前からその王女様と付き合っていたな。ま、構わんが」
「誤解すんなよ。獣人は成長が早いんだ。でかくても2歳だから。小さいのはまだ半年」
セーンがここから逃げたときは、家に帰りそうにしていたシューとジェイは、まだ滞在していてこの喧騒の中に居て、一番興味深いものを見つけた。籠の中から用心深く周囲を見続けるヤコちゃん。それを見て、シューはジェイに、
「おい、あの何かの赤んぼ風な奴、似てないかあいつに」
「うん、何だかカスタマイズして生んだみたいだな。今回は。レンに似たの生んだりするやつだっているからな」
「今回は、コピーじゃ飽き足らなくてカスタマイズしたんだな。翼付けたんだな」
こそこそ、小声で話しながら、籠に近づくが、2人が触りそうになると、
ヤモちゃんはさっと横から籠をかっさらい、部屋を出て行った。
「あー、あと一歩だったのに残念」
今回興味を誰にも持たれなかったココモちゃんは(転がったところがサイドボードの陰で皆の死角だったしで、自分の籠を嘴で咥え、そろそろと部屋の壁側を回ってヤモちゃんを追いかけるが、あと一歩のところで、シューとジェイに見つかってしまった。
「あれっ、こいつドラゴンと違うか。な、ジェイ」
「うん、ドラゴンの赤ちゃんだな。まだ大きくなるんだな。でかいけど翼がまだ発達していない」
「そうだな、成獣ってのはでかいんだろうな」
ココモちゃんはむんずと掴まれる。
「ギュッ」
「おいおい、優しく扱えよ」
「ごめん、この子どこで見つけたの」
シューは知らなかったが、ジェイは爺さんから少し聞いていた。
「絶滅したかと思われていたけど、見つけたんだろ。セーン。爺さんに食い物の事聞いて来たって話だった。まさか俺らも見れるとは思わなかったよ。絶滅種を良く持って来れたね」
「俺が拾ったんだ。だれにも止める権利はないさ」
セーンが言うと、ニキ爺さんは、
「セーン、向こうで何かトラブったのか」
「そうだ。あの王とんでもない奴だった」
「とんでもない奴だと?どうとんでもないんだ。ヤーモちゃんがヘキジョウさんを連れて、魔国の戦いの助太刀を頼まれて昨日から出かけたんだぞ。不味くないか」
「げっ。不味い、不味い、大不味だっ。ヤモちゃん大変だー。あ、向こうの身内から聞いてるとこだろな、きっと」
「そうだな、ヤモちゃん達で何とかするだろ。セーンはセーンの事情を話さないとな」
「そうよ、何だか不味い事が起きているらしくて、皆心配していたの。無事に戻れてよかったわ」
「うん、今日は意外と向こうの皆が止めに来なかったから、良いけど変だとは思っていたんだ。都合が良かったとは言え、他に問題が起こっていたんだな」
そこへヤモちゃんが籠を持って現れ、
「俺、ヤーモを助けに行くから、セーンはヤコちゃん見ていて」
と言って籠をセーンに渡した。
「うん、気を付けろよ」
「ああ」
ヤモちゃんはそう言って立ち去った。ニキ爺さんとユーリーン婆は顔を見合わせた。
「セーン、ヤモちゃん何だか感じが違うわね。ちょっとスカシた感じがしたね」
「ぷはっ、そうだったかな」
「じゃあ、あっちをずらかって来た理由を教えて」
ユーリーン婆に促され、セーンはかいつまんで事情を話した。その間、黙ってチーラは双子の小さい方の子らを寝かしつけていた。瞬間移動は慣れていないと眠くなるものだ。
やたら大きい方の双子はユーリーン婆の両隣で婆になついてくっついていた。こっちも眠そうだが、寝ずに父セーンの話を聞いている。そういえば彼らに何の事情も話したことは、無かった事を思い出したセーンだ。
段々渋い顔になって行くニキ爺さんだ。ユーリーン婆は、
「それじゃあ、レンは双子にああいう話をしたって言うのは違ったの」
チーラはそこの所を言った。
「いえ、そう話されたのは事実です。皆冗談だと分かっていて、笑いました。でも、王はそれを誤解しているかのように、あたし達に振舞わせました。本当はセーン様の能力を自分も欲しく思ったのですわ」
「爺さん、俺の能力、獣人国では水晶が真っ黒になって計測不可能だったって言う噂になっていたけど、実際の所、どうだったかな」
「ま、火の無いところには噂はたたないからな」
「何だよ、その言い方。頼むから本当だなんて言わないでよ」
「しかし、知り辺の教会勤めが、儂らが出て行ったあと水晶が真っ黒になって、割れたと言ったぞ。使い物にならないからと、儂に弁償しろとか惚けた事を言うから相手にしなかったが」
「わぁー」
セーン、思わず頭を抱えた。
「噂話と言ってほしかった」
「しかし、あの水晶も年代物だったから壊れたのかもしれんな。その後のセーンの活躍とかはあまりなかったし。しらを切っておいた方が良いな」
「そうだよね、崩れる潮時だったんだな。きっと」
お気楽に思い直すセーン。
しかし、ニキ爺さんは、このセーンの家族を眺めて、チーセンとラーセンを見たとき、驚きを隠し、
『こりゃ、はなはだしいな。このチーセンとラーセンの能力。王にいつも能力を捕られていたようだが、応えていないな。セーンが無意識に癒しているのかな』
と思っていた。