第10話 ヤモちゃん卵を産む。羽の生えたドラゴン名はヤコ。相手はココモ?
チーラの家にはそれほど多くは無いが、蔵書があり、ココモドラゴンについて書かれた文献もあり、セーンはそれとココモちゃんと見比べた。
生まれたばかりのココモちゃんの方は文献に記録された大きさより少し小さいが、仕方ない。大きく育てるしかないだろう。
ココモちゃんの世話は喜んでするヤモちゃんにある程度は任せた。午後からは国王の道場から戻って来るチーセンとラーセンに扱わせてやる事にした。
ココモちゃんが卵の時、セーンが熱心に世話をしすぎていたらしく、チーラは少し拗ねているようだったが、ヤモちゃんに任せた分だけ、機嫌は良くなったのだった。
だが、平和な気分は長くは続かなかった。
ある朝、セーンがチーラとの朝食と朝の散歩を終え、卵の部屋と名を付けた部屋に行ってみると、ヤモちゃんがかなり難しい顔をして何処かを睨んでいる。
「どうした、ココモちゃんが居なくなったとか」
「・・・」
ヤモちゃんは黙って悲壮感を漂わせている。セーンはヤモちゃんの視線を観察してみた。床を見ているようで、視線の先を見てみると、セーンは驚いた。ヤモちゃんの足元に、白い色の卵が転がっている。
「こ、これは何処の卵さんで・・・」
「俺が生みました」
「で、でも、白いから少しどんな奴か透けて見えているじゃないか。気の所為じゃないだろな、何だか翼があるんですけどー。中身ヤモちゃんと違うみたいですけどー。それにもう中で動き回っているから、産んでだいぶ時間たっているだろなー。俺この卵、初めて見るんですけどー」
「俺がさっき産んだら、もう、だいぶ育った感じだった」
「ヤモちゃん、いつかコピーを産むんだって言ってなかったかなー」
「普通はね、こいつは俺とココモちゃんの卵ですっ」
セーンは『ヤモちゃんもいつの間にかココモちゃんって呼んでいたんだな』と思いながら、
「ココモちゃんと・・・?」
セーンが小声でつぶやくと、当のココモちゃん、大変なご機嫌ぶりで、セーンの頭に乗り、
「キュキュウキュッキュッキュウー」
高らかに自分の子だと主張しているかのようだ。
「ココモちゃんの子だってー、ヤモちゃんとの子なのかー」
思わず叫んで、声が大きかったことに気付いた。」
「不味いぞ。これは」
セーンはそれにしても『ヤモちゃんとココモちゃん、こういう場合は、愛から恋が芽生えたという人とは逆な心理』と思った。以前のレン似の子を産んだヘキジョウさんの事も思い出し、『人とは心の動き方が違うけど、愛の一種で間違いは無い』と思う。
だがセーンは、『もしこの卵が孵ったら、ココモちゃんとは違う騒ぎになりそうだな』と思えた。
『どうするかな、隠していられるだろうか』
『セーン、困ったことになる。考えなくてヤモ悪かった』
ヤモちゃんがかなり参っているのが分かり、
「何とかなるよ。気にするな。出来るだけ内緒にして、不味くなったら、ずらかろうな」
「ココモは?・・・」
「シッ、それは今言わない」
セーンはずらかるときはココモちゃんも連れて逃げたいのはやまやまだが、何せドラゴンをどう世話すればいいのか、今の段階では不明だし、慣れない環境の所へ連れて行ったらどうなるのかもわからない。時間が欲しい。おそらく育ち上ればどこへでも行けるとは思えるのだが。
「わかった」
セーンはココモちゃんのとは形状の違う籠を自室のクローゼットから持ってきて、結構元気にうごめく中身の卵をそのかごに入れ、外側はココモちゃんのタオルで包んだ。そして、ヤモちゃんが何やら色々押し込んでいた、ヤモちゃん用のクローゼットらしき所に入れた。
「誰か入って来たら、何があってもここを開けちゃだめだ。たとえ孵ったとしてもね。鳴かなきゃいいけど」
セーンはココモちゃんを見つめ、
「お前もだぞ、誰かに、この中には何が入っているでしょう?なんて態度絶対にするんじゃないぞ。いいか、これからはこのクローゼットを見るな。無視だ。見たらお前、きっとこの中に良いものがっ・・・て態度するだろ、きっとする。俺にはお前のする事は分かっている。絶対ここを見るんじゃないぞ。中で鳴いてるのが分かったら。おまえがかぶせて鳴いて誤魔化せ。分かるか俺の言う事」
「ギュ?」
「分からないのか、やる事だけやって後は知らねってか?馬鹿かお前、頭ついてないのか。人は珍しいものが見たいんだ。大騒ぎになってきっとお前の大事なこの卵の中身を取られちまうぞ。勘付かれちゃならないんだ」
「ケッ」
「ケッ、ケッ、ケッ、ケッ、キュー」
そこへこの部屋担当の世話係、ココモちゃん大好き獣人ツーさんが来て、
「今、ココモちゃんは奇妙な声出しませんでしたか」
気がかりそうに言った。こういう熱心な人もこういう場合は良し悪しだ。
セーンは、気だるげに、
「え、そうだったっけ」
と関心が無さそうに言った。しかしこれは後で思えば不味い手だった。セーンは事ココモちゃんに関しての話題は食い気味なのが普通である。このお世話獣人ツーに内心、何かあると思わせたのだろう。おまけに当のココモちゃんは、あらぬ方を向いて、
「ケ、ケ、ッケケ」
さっきと同じ鳴き方をしようと努力している。可愛かったが、ますます怪しい行動と言える。おまけのヤモちゃんの悲壮感あふれる面持ちが極め付きだ。お世話係の獣人ツーさんは、油断なく目を光らせて、辺りの掃除を始めた。しばらく粘る気だ。そして間の悪い事に、ヤモちゃん用クローゼットの中で、バサッバサッと音がする。生まれたようだ。間違いない。しかし、鳴かない所はヤモちゃん似と言える。不幸中の幸いだ。
「おや、何の音でしょうね」
ツーさんが首を傾げた。クローゼットを開けたくてたまらなさそうだ。
ヤモちゃんもたまらなくなったのか、
「ツーさん、掃除はもうしなくていいです」
普段は絶対言わない台詞だ。
「そうですか」
ツーさん、油断なく目を光らせながら、部屋を出た。
ヤモちゃんは急いでクローゼットを開けようとしたが、セーンはピンときて、
「ストップ」
とセピア語で止めた。
同時にドアを開けてツーさん登場だが、ココモちゃんがヤモちゃんに飛びついてじゃれているように見せ、事なきを得た。
「雑巾、忘れていませんでしたかね」
ツーさんも誤魔化すが、セーンはきっぱり、
「有りませんよ」
と言っておいた。
ヤモちゃんが涙目なのを、ツーさんが見たかどうかは分からない。
「キュッ」
ココモちゃんはヤモちゃんの頭に乗って一声鳴く。慰めているようだ。なんだかフウフ愛を見る感じでセーンは少し感動した。しかし先が思いやられる。
耳を澄ませて立ち去ったのを確かめ、クローゼットの中をのぞくヤモちゃん。
セーンも、中がどうなっているか気にかかるところだ。
ヤモちゃんが中を見る後ろからセーンも覗いた。暴れていたからだろう、生まれたばかりのヤコちゃん(またも安易な命名)の翼は折れて血が出ている。ヤモちゃんの原型によく似た灰色の翼付きの赤ちゃんだ。ヤモちゃんが騒ぐ前に、セーンはすかさず翼に触って傷を治した。ヤモちゃん、息を大きく吸った時点で、平常心に戻り事なきを経た。まだ頭に乗ったままのココモちゃんは機嫌よく「キュキュッ」と鳴く。いい気なものだが、可愛いので許すセーンである。
その間もヤコちゃんはうんともすんとも言わない。静かなのは助かるが、これは正常なのか?翼折れたショックかなんかだろうか。お気楽な風情のココモちゃんと比べると、苦労人の影をまとうヤコちゃんだ。
そうこうするうちに夕飯時になり、卵の部屋を出る日常風のセーン、後の事が気になるが、普段通りの行動をするべきだろう。
チーラと夕食を食べて過ごしていると、
「セーン様、今日はなんだか気がかりな事等、有りまして?心此処に有らずってご様子ですけど」
チーラが問うが、使用人の前で言えるはずもなく、
「そうだっけ、別に」
と言ってごまかす。しかし、様子が変なのはバレバレで、此処で問い詰められるのは不味い。
「えーと、ココモちゃんはきっとでかくなるだろうな。あの部屋じゃあきっと狭くなるけれど、双子の居る別棟みたいなのは不用心だし、どうするかなと思っているんだ」
とこの場は誤魔化す。後でチーラには、事実を言っておかなければならない気がした。
チーラは、
「ココモちゃん用の大きな部屋のある家を、建てましょうか」
「できるのか、そんな事」
「ええ、出来ますわ。それにココモドラゴンはもうすぐ翼が出て来て、きっと飛びたくなりますわ。屋上を造ってそこから出入りさせないと」
「へー、チーラさん随分詳しいんだね。誰か飼って居るのを見た事あるの」
「私が生まれたときはもう絶滅していましたわ。でも、お母様の実家では飼っていて、そういう造りだったと聞いております」
「そうか、きっとお城でもココモちゃんの事は知られているんだろうね」
「ええ、セーン様がココモドラゴンの卵を拾って育てていらっしゃることを、知らない人は、この国には居ないんじゃないかと思いますわ。噂の広まり方は、当時、尋常ではありませんでしたでしょう。孵ってない時は泊めろと親類も押しかけてきましたわ。きっとニールのセーン様のご家族も御存じでしょう?」
「多分分かっているだろうけど、あっちは噂しなくても察しの良い奴がいるんだ。チーラさんも一度会っている。俺のリューン叔父さんとかね」
「まぁ、そういった能力をお持ちなんですね」
「うん、そうだけど。ちょっと場所を変えて話さないか」
良い潮時にセーンの家の話題になったので、そう提案した。
「あらどちらに行きましょうか」
「ココモの部屋に行こう」
「まぁ、私が行ってもよろしいんですか」
「え、来ちゃだめだとか言ってないだろ」
そう言えば最近チーラはココモちゃんの所に来なかったと、思ったセーンである。
ますます、興味深い展開になって来ましたが、ここで、読者の皆様に一言お知らせしておいた方が良いのでは、と言う気が致しまして、後書きに書いておきます。
この小説は、BLではありません。BL方向には行きませんので、お知らせしておきます。
ではどういう方向の話かと、もしも疑問に思われた方がいらっしゃったとしても、答えられませんから。
白状しますと、作者はパソコンの前で、ネタが浮かぶ頭の仕組みになりました。最近の事です。
したがって、どういう方向に行くのかは、作者にもわかりませんが完結はするのでご安心ください。現在数回分の小説は書き溜めておりますので、BLではないとは断言できます。
いずれ、いつもの大ぼらがさく裂するはずの小説と言う事です。