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第9話 セーン達に双子誕生。ドラゴンの卵孵る。ヤモちゃんはココモちゃんの世話する

 

 その後程なくして、チーラはまた男の子の双子を産んだ。獣人は一度に数人産むことがあるそうだし、四人の親ともなると、世間では不仲説は無くなる。直ぐにある程度の大きさになるが前回と変わらずの大騒動で、すぐに別棟に移すことにした。

 セーンは上の子たちがどうしているか、様子見もしようと思い、次の双子を連れて行ってみると、家の中には居なかった。

 辺りの様子を窺ってもそれらしき子は居ないので、教育係に双子を渡し、

「前回の依頼よりも、まだ小さいですが、どうやら例の卵が孵化しそうで、この子たちが卵に興味を持ってしまっては、潰してしまいそうで危険なので、早めに預けることにしました」

 一応、言い訳めいた言い方だが、事情を言ってさっさとずらかろうと思った。薄情な気はしたのだが、ココモドラゴンの健やかな成長は大事だ。この件で弟達双子に後々薄情な親と言われても、言い訳材料は無い事は分かっている。セーンはその覚悟は出来ているつもりである。


 帰ろうと外に出ると、セーンより頭一つ分程上背のある若い獣人二人が門の近くでこちらを見ているのに気付いた。セーンと同じ薄い金色の髪だ。もしやと思ってセーンも見ていると、預けたはずの双子がセーンめがけて後ろからぶつかって来た。不意を突かれたセーンは見事にカエルのようにへしゃげた。

 慌てて教育係がやって来て、

「大丈夫でしたか、セーン様」

 そして、

「君達、お父様になんという事をするのですか、お仕置きですぞ」

 と二人を掴んで家の中に放り投げている。

 セーンは顔面強打で、鼻が折れた感じもしたが、自分でさっさと癒して直し、血を吐き捨てながら、『ま、こいつらよりココモドラゴンを選んだ親だからな』と開き直った。


 セーン達がココモドラゴンの卵を国境近くで拾った件は、この国で知らぬ者無しという所だ。

 チーラ直属、家来的家柄の獣人の誰が広めたのか分からないが、おそらく嬉しくて周りの奴に言いふらした事は間違いない。この獣人国の人たちは、事、ココモドラゴン関連となると、目つきが変わる気がするセーンである。卵が孵るところが見たいと、セーン達の家を訪問したがる人が多かったが、先見の明があったと言えるチーラの。

「客間がありませんの」

 その一言で、追っ払っていた。それにしても、段々孵化の日が近づいていると予想しているが、言わば外野的な所に居座る人々は、セーンが卵の部屋に居ても、気配の様なものを感じる。

「この環境は良くないな」

 セーンは宣言する。

「ココモちゃんが神経質になっていると思う」

 卵の殻の中なのに、何故分かるのかと、言われそうだが、そう愚痴を言うとチーラの付き人が外の野次馬を追っ払ってくれるが、段々頻度は半端なく多くなってきていた。

 孵化の観察は興味深いが、それよりもっと興味深いのは、ココモドラゴン本人?本獣?そして実際、どんな性格か、嗜好はどうか、頭の程度やらいろいろ想像すると楽しいものだ。

 そんな感じで、セーンはほくそ笑みながらココモの部屋に戻ろうとすると、さっき門に居た、何となく図体はでかいが、見覚えのある二人がセーンに近づいた。

「パパ?」

「あ、チーセンとラーセンか、でかくなったな。学校から帰って来たのかな。あ、今年は入学する歳だったかな」

 会いに来たこともないくせに、会えば色々聞いてみたくなるセーンだ

「学校は来年からです」

「今は2歳ですから」

「2歳っ」

 歳だけ聞いて絶句するセーン。だが思い出した。入学までには獣人は大人の大きさになる。

「じゃあ、今日は何処に行っていた?」

「王家の道場だよ」

「王様が僕たちに稽古をつけるって言い出して、最近行くけど、面白くないからやめたい」

「面白くなけりゃ、やめたくなるだろうな。こういう時、パパが断りに行くのかな」

 少し考えていると、ヤモちゃんが生まれそうだとコンタクトして来た。

「あ、パパは忙しいんだ。卵が孵る」

 そう言って慌てて戻ろうとすると、

「僕らも行く」と言い出して、この方が早いと、お兄ちゃん双子の内の一人に小脇に抱えて走ってもらい、なんとか生まれる前に家に戻れたセーンである。思えばセーンが面倒を見ることもなく双子は大きく育ったものだ。自分もレン同様の根性だと思い知るのだった。


 チーラは良く育っている双子を見て、にっこりし、

「ココモドラゴンの赤ちゃんを見に来たのね。卵にヒビが入りだしたからもうすぐ生まれるわ」

 セーンが部屋に戻ると、ヤモちゃんは難しい顔で、卵を見ていた。

「どうした、ヒビが入りだしたんだろ」

 急いで卵を観察した。

 ヒビは入っているが、どうやらこれ以上は動けないらしい。

 ヤモちゃんは、

「生まれてくるのに時間がかかりすぎていると思う、きっと殻を破る元気がないんだ、何か食い物を調達して来る」

「そうか、急いでね。それで何を調達するんだ」

「鳥の卵かな」

「親鳥に感付かれたら、危ないんじゃないか。気を付けろよ」

「うん」

 そんな会話を聞きながらヤモちゃんをじっと見ていた双子たち、ヤモちゃんが居なくなると、

「パパ、あの人誰」

 と聞いて来るので、

「パパの使い魔で、ヤモって言うんだ。よろしくね」

 と紹介しておくと、

「魔物だよね」

 と聞くので、

「魔物だよ。そしてパパの使い魔。隣の国の魔物じゃないからね。北ニールの地下にある国の出で、隣国の奴とは違う。覚えておいてね、パパの見方だから」

 そう言って聞かせると二人とも、黙って頷いた。以前と様子が違って、賢そうだ。なんだかほっとするセーンである。


 卵を調達に行ったヤモちゃんは、意外と早く戻った。手に持っているのは朝食にセーン達が食べるような鳥の卵で、

「あれ、それどうしたの」

「料理のお婆さんがドラゴンに食わせてって言って、くれた」

「へぇ、皆ココモドラゴン好きだな。もう人と同じ扱いになるのも、時間の問題だろうな」

「だいぶ前から、俺を見かけたら食堂で何か食わされてる」

「ヤモちゃんも、いつの間にか人間扱いになっていたんだな。なるほど。じゃぁ卵割って、中に流し込んでやろか」

「少し割って口に入れてやったら・・・」

「・・・ヤモちゃん、それしてみる?したいんだろ。いいよ、してやってよ」

「でも、」

「此処には異議のある奴は居ないから」

「セーン、ありがと」

 ヤモちゃんは普段は気持ちを表に出さないタイプだが、今は少しうれしそうだ。

 セーンは辺りを念のために見ると、チーセンとラーセンが羨ましそうにヤモちゃんを見ている。無理もないが、双子に任せるのはまだ先の事だ。周りの皆は、嬉しそうなヤモちゃんをほほえましく見てくれている。

 卵の殻のヒビを少し大きくしたヤモちゃんは、小さなスプーンを器用に殻の中に入れて、ココモちゃんに人用の卵をやっている。

 セーンはココモドラゴンをココモちゃんと呼んだ。考えた名ではないが、ヤモちゃんと呼ぶのと似たようなものだ。分かりやすいのが一番だと思った。

「キュー、キュー」

 初めて聞いたココモちゃんの声だ。周りから小さく[かわいい]という声が聞こえる。

 そして、卵を食べて少し元気になったココモちゃんは、元気に暴れて殻を破って出て来た。真っ黒な鱗で目と嘴は赤く、なんとも愛らしく思える姿だ。

 嬉しくなったセーンは、手をたたいて、

「良かった、良かった」

 と言って少し興奮していると、ココモちゃんはセーンの頭にぴょんと乗って来た。

「わっ」

 驚いて大きな声になったが、ココモちゃんは怖がりもせず、それからヤモちゃんの頭に乗り、乗って欲しそうに見ていたチーセンとラーセンの頭にも乗って来た。大サービスと言えるだろう。しばらく皆で和やかにココモちゃんを見守ったが、直に疲れて眠りだし、お開きとなった。



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