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JET MAN


踏切の向こうは青すぎる空。

真夏の陽射しが螺旋を描いて、アタマの奥の奥まで届いて、通り過ぎる列車を待つ間も脳の真ん中が温まってきて、ハンドルを握る手が震えて、遮断器のランプが消えて、アクセルを踏み込んで、往く宛などとうになくして。


三叉路の向こうは青すぎる空。

知らない街角で溶け合う路地も、生け垣に咲く青い花も、電信柱で歌う小鳥も、夏を駆け抜ける子どもたちも、聞えよがしの憂鬱な歌も、一旦停止の標識も、カーブミラーでゆがむ未来も、映り込む影の深さに怯えていても。


背中の羽を広げれば笑われて、誰かと同じ翼が欲しくて、誰かと同じ色の羽根を生やして、誰かと同じ雲を潜って、誰かと同じ空を飛びたい。誰かと同じ島にわたって、誰かと同じ太陽の下で、誰かの知らない人を愛して、誰にも知られず飛び続けたい。


お神輿の向こうに青すぎた空。

祭り囃子の音色、提灯と灯籠、花飾りの街灯、夏を待ち続けた大人たちの心、酒と花火と汗と涙と、悲喜こもごも、夕暮れを告げる放送、どす黒い衝動、酒と火薬と汗と涙と悲鳴と理性と衣服と拳と涙と涙と涙と、血液に交じる走馬灯。


コンビニの看板と青すぎる空。

自分で勝手に誰かに被せた、純粋で朴訥な善人の着ぐるみ。自分で自分を騙して過ごした、鷹揚で高粋で豪快な虚像。レコードはサブスクリプション、プレーヤーは手元の端末。どこまでも追跡ついてきて、届き続ける電波は何色の虹。


心の底から笑ったのは最後いつ? 楽しく過ごせば殴られて、後から後から詰られて、誰かといつも比べてて、自分と同じ不幸を感じて、そこに惹かれてにじり寄って、同じ傷を見つけて舐め合って、同じ傷口を埋め合って、同じ傷跡を付け合って、守って、庇って、同じ空に浮かんで。落ちて。同じ空を見上げて。同じ雲を追いかけて、虹を渡って。


夏、海、向日葵、蒼い蝶。

長い長い坂道の先に砂浜、堆い粗大ごみの山。

テレビ扇風機穴の空いた安楽椅子、誰からも忘れられた小さな記憶の中にだけ。

おまえだけのばしょ。

誰にも教えたくない遠い秘密の街にだけ。

おまえだけのばしょ。


心の底から好きだったのは最後いつ? 好きであり続けることに疲れて、好きになってもらうことがわからなくなって、自分と同じ辛さを抱えて、そこに惹かれてにじり寄って、同じ傷を見せあって口づけて、同じ傷口で愛し合って、同じ傷跡が乾く前に、離れて、背を向けて、同じ空が眩しくて、俯いて。同じ海に沈んで、同じ波を待ってる。


画像フォルダの中は青すぎる空。

軋み歪む体が悲鳴を上げて、心の奥の奥まで蝕んで、たどり着く列車を待つ間も憂鬱の真ん中に冷たい気配が居座って、足元が陽炎になって、アナウンスも駅名標も消えて、自販機にすら罵られ、行先など、とうに忘れて。


踏切の向こうは青すぎる空。

真夏の陽射しが螺旋を描いて、アタマの奥の奥まで届いて、通り過ぎる列車を待つ間も脳の真ん中が温まってきて、ハンドルを握る手が震えて、遮断器のランプが消えて、アクセルを踏み込んで、往く宛など、とうに、なくして。



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