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第4話 熱病の実態調査

 アミーラ女王の温かいもてなしを受け、私たちは王宮内に滞在の部屋を与えられた。

 だが、ゆっくりと休んでいる暇はない。

 一刻も早く熱病の原因を突き止めなければ。

 私たちは翌日から早速、調査を開始することにした。


「陛下。どうか私たちを、病が最も流行している地域へとお連れください」


 私のその申し出に、アミーラ女王は一瞬ためらった。


「……危険です、リリア様。病は人にうつるとも言われております」

「大丈夫です。私たちにはこの方がおりますから」


 フィオナさんがにっこりと微笑んだ。

 彼女の聖なる力は病魔を退ける加護を、私たちに与えてくれる。


 私たちの覚悟を感じ取ったのだろう。

 アミーラ女王は自ら、私たちの案内役を買って出てくれた。

 彼女は王宮にふんぞり返っているだけの女王ではなかった。

 常に民と共にある。

 その姿勢がひしひしと伝わってきた。


 ◇     ◇     ◇


 私たちが案内されたのは、首都アルカスルの城壁の外に広がる水辺の集落だった。

 そこはオアシスの恵みで細々と農業を営む、貧しい人々が暮らす場所。

 そして熱病の最も深刻な被害が出ている場所でもあった。


 その光景に私は胸を締め付けられる。

 集落は活気を失い、静まり返っていた。

 どの家からも病人の苦しげなうめき声が聞こえてくる。

 道端には高熱にうなされる子供たちの姿もあった。


「……ひどい……」


 エレノア様が苦々しげに呟く。

 私たちは一軒の小さな家を訪れた。

 中では年老いた女性が、熱に浮かされた孫娘を必死に看病している。


「聖女様……。どうか、この子を……」


 老婆は私たちにすがるように手を合わせた。

 私は黙って頷くと、持参したお菓子を少女の口元へと運んだ。

 それはサンクチュアリから持ってきた、滋養強壮の効果を込めた特別なクッキーだ。


 少女はかろうじてそのクッキーを口に含む。

 するとすぐに効果が現れた。

 荒かった呼吸が少しずつ穏やかになり、青白かった顔にほんのりと血の気が戻ってくる。


「おお……! なんということだ……!」


 老婆は涙を流して喜んだ。

 だが私は安堵できなかった。

 これはあくまで対症療法に過ぎない。

 彼女の体力を一時的に回復させただけだ。

 病の根源を断ち切らなければ、またすぐに症状は悪化するだろう。


 私は集落の他の家々も見て回った。

 症状は皆、同じ。

 高熱と、そしてひどい脱水症状。

 彼らの身体からは水分が急速に失われているようだった。


「……リリア様。何かお気づきに?」


 私の険しい表情に、クラウスさんが声をかけてくる。

 私は頷いた。


「はい。この病、ただの熱病ではありません。何か身体の水分を奪う、別の力が働いているように思えます」


 まるで呪いのような。

 そう私が思った、その時だった。

 今まで静かに周囲の気配を探っていたフィオナさんが、はっとしたように顔を上げた。

 そして集落の水源であるオアシスの方を、じっと見つめている。


「……わかりました」


 彼女は私たちに向き直った。

 その顔には確信の色が浮かんでいる。


「この病の原因。……あの、オアシスの水にあります」


 その一言が、私たちの調査に大きな光をもたらした。



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