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第3話 サハディール王宮へ

 国境の街アルナイルで、私たちは数日間の休息を取った。

 初めて触れる異文化の空気を満喫し、長旅の疲れを癒やす。

 そして十分な物資の補給を終えた後、私たちは再び南へと馬車を進めた。


 ここから先は、いよいよサハディール国の領内だ。

 景色はアステリア王国とは全く様相が異なってくる。

 緑の牧草地は次第に姿を消し、代わりに背の低い灌木と赤茶けた大地が広がっていた。

 日差しも日に日に強くなっていく。


「……暑いな。リリアちゃん、水、貰えるか」


 エレノア様が、少しうんざりしたように額の汗を拭う。

 私は水筒にミントの葉を浮かべた冷たい水を彼女に手渡した。

 このミントティーは、フィオナさんが教えてくれた暑い土地での知恵だ。

 飲むと身体がすっと涼しくなる。


 そんな過酷な環境の中でも人々はたくましく暮らしていた。

 時折すれ違う隊商のラクダの鈴の音が、乾いた空気に涼やかな音色を響かせる。

 彼らは私たちを見るとにこやかに手を振り、挨拶を交わしてくれた。

 陽気で開放的な人々。

 それがサハディール国の第一印象だった。


 ◇     ◇     ◇


 さらに数日後。

 私たちの目の前に巨大なオアシス都市が姿を現した。

 白い城壁に囲まれたサハディール国の首都「アルカスル」。

 その壮麗な光景に、私たちは思わず息を呑んだ。


 城門ではエリオット陛下の親書を事前に受け取っていた衛兵たちが、私たちを待っていた。

 彼らは私たちに最大級の敬意を払い、王宮へと案内してくれる。


 サハディール王宮は、白い大理石と青いタイルで装飾された美しい宮殿だった。

 涼やかな噴水が暑さを和らげ、吹き抜ける風が心地よい。


 私たちが通された謁見の間。

 そこに待っていたのは意外な人物だった。

 玉座に座っていたのは厳つい王様ではない。

 私と同じくらいの年の頃の、若く美しい女王陛下だった。

 日に焼けた健康的な褐色の肌。

 黒曜石のように輝く大きな瞳。

 そして何よりも、その瞳には民を憂う強い意志の光が宿っていた。


「――ようこそお越しくださいました、サンクチュアリの聖女様一行」


 女王陛下は玉座から立ち上がると、自ら私たちの前へと進み出た。

 その声は若々しくも凛とした響きを持っている。


「私はこのサハディールを治める女王、アミーラと申します。アステリア王国のエリオット陛下からのご紹介、心より感謝いたします」


 彼女のその謙虚で誠実な態度。

 それだけで私は、彼女が素晴らしい為政者であることがわかった。


「アミーラ陛下。ご紹介にあずかりましたリリアと申します。こちらは私の仲間たちです」


 私たちが互いに自己紹介を済ませると、彼女は早速本題に入った。

 その表情はたちまち憂いの色に曇る。


「……すでにご存じかとは思いますが、今、我が国は原因不明の熱病に苦しめられております」


 彼女の話によると熱病は特に、貧しい人々が暮らすオアシス周辺の水辺の地域で猛威を振るっているらしい。

 国の最高の医師や神官たちが治療にあたっているが効果はなく、病は広がる一方だという。


「……どうか聖女様。あなたのその奇跡の力で我が民をお救いください」


 アミーラ女王は深く、深く頭を下げた。

 その姿に私は胸を打たれる。

 彼女はただ奇跡を待っているだけの無力な女王ではなかった。

 民を救うためなら異国の得体の知れない私たちにさえ頭を下げることを厭わない。

 強い覚悟と民への深い愛情を持った人物なのだ。


「……アミーラ陛下。お顔をお上げください」


 私は彼女に優しく語り掛けた。


「お約束します。私が必ずあなたと、あなたの民の力になります」


 聖女としてではない。

 一人の人として、彼女のその真摯な想いに応えたいと心からそう思った。

 私たちの砂漠の国での挑戦が今まさに始まろうとしていた。



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