第18話 サンクチュアリの便り
王都での出来事はすぐに伝書鳥によってサンクチュアリへもたらされた。
エリオット陛下からの私的な手紙という形で。
私はその手紙をリビングのテーブルで読んでいた。
『リリア様。あなたが焼いてくれたケーキは施療院の患者たちに届けました。彼らの喜ぶ顔といったら。あなたにも見せてあげたかったほどです』
その文面に私の胸は温かいもので満たされた。
よかった。
私の作ったお菓子が本当にそれを必要とする人の元へ届いたのだ。
エリオット陛下のその素晴らしい計らいに心から感謝した。
『追伸。患者たちの中に絵心のある者がおりました。彼がどうしてもあなたに礼がしたいとこれを描いてくれたのです。受け取ってください』
手紙には一枚の素朴な絵が添えられていた。
それはサンクチュアリの風景を想像で描いたものらしかった。
色とりどりの花畑。もふもふの聖獣たち。そしてその中心でエプロンをつけて微笑む一人の少女。
稚拙だがとても心がこもった温かい絵だった。
「まあ……」
私はその絵をそっと指でなぞる。
会ったこともない誰かが私のことを想い描いてくれた絵。
それが何よりも嬉しい贈り物だった。
◇ ◇ ◇
「なんだリリアちゃん。にやにやしやがって」
お茶の時間、エレノア様が私の様子を見てからかうように言った。
「べ、別ににやにやなどしていません」
「嘘つけ。朝からずっとその絵を眺めてるじゃねえか。新しい王様から恋文でも貰ったか?」
「違います!」
私がむきになって否定するとエレノア様はからからと笑った。
フィオナさんも微笑ましそうに私たちを見ている。
私は三人に手紙の内容と絵のことを話して聞かせた。
「ほう。あの若造王様、なかなか気の利いたことをするじゃないか」
エレノア様も感心したように頷いている。
「ええ。リリアの力がたくさんの人を幸せにしているのですね。私も嬉しいです」
フィオナさんは自分のことのように喜んでくれた。
その時だった。
ふと私の隣に座っていたクラウスさんが口を開いた。
彼は冬の間の働きが認められ、今ではすっかり私たちの食卓に溶け込んでいる。
「……リリア様のお力は本当に素晴らしいものです」
彼は少し照れたように、だかはっきりと言った。
「ですが陛下がそれを正しく民へと届けられた。その采配も見事なものかと」
「ええ、本当に」
私も心から同意した。
エリオット陛下と私。
そしてそれを支えてくれるサンクチュアリの皆と王国の心ある人々。
皆の想いが一つになったからこそ生まれた奇跡。
そう思うとこの一枚の絵が何よりも尊い宝物のように思えた。
私はこの絵を私の部屋の一番よく見える場所に飾ることにした。
そして決意を新たにする。
もっともっと美味しいお菓子を作ろう。
会ったこともない誰かを笑顔にするために。
そしてこの温かい繋がりを大切に育んでいくために。
私の心は春の日差しのように明るく晴れ渡っていた。




