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追放された聖女は、森の奥で歴代最強の先代聖女たちに溺愛される ~お菓子作りしてたら王国が勝手に滅びかけてるけど、もう知りません~  作者: 長尾隆生@放逐貴族・ひとりぼっち等7月発売!!
聖女たちの越冬と、王国の新しい風

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第13話 王と聖女、二人の決断(クラウス視点)

 襲撃という不測の事態はあったものの、私たちエリオット国王陛下の一行は無事にサンクチュアリへと到着した。

 私は国王陛下の馬車をリリア様のコテージの前へと導く。

 その扉の前にはリリア様とフィオナ様が穏やかな表情で私たちを出迎えてくれていた。


 馬車から降り立ったエリオット陛下は、まずこのサンクチュアリの美しい光景に息を呑んだ。


「……素晴らしい。これが伝説の聖域……」


 彼のその素直な感嘆の声に、私は少しだけ誇らしい気持ちになる。

 だが彼の驚きはそれだけでは終わらない。

 フィオナ様の周りに集う聖獣たちの姿を見て、彼は目を丸くしていた。


「なんと……。古文書でしか見たことのない聖獣たちが、これほど穏やかに暮らしているとは……」


 彼のその博識ぶりと純粋な感動の眼差し。

 それだけで彼が兄のアルフォンス様とは全く違う人物であることがよくわかった。


 ◇     ◇     ◇


 会談の場所はリリア様のコテージのリビングだった。

 エレノア様が腕を組み厳しい顔で、玉座ならぬ肘掛け椅子に座っている。

 その物々しい雰囲気の中でもエリオット陛下は落ち着きを払っていた。


 彼は席に着くよりも先にリリア様の前に進み出た。

 そして私が止める間もなく、その場で深く深く頭を垂れたのだ。

 一国の王が取るべき行動ではない。

 それはただのエリオットという一人の青年としての心からの謝罪だった。


「リリア様。この度は我が兄アルフォンスが、そしてアステリア王国があなた様に対して行った全ての非礼を心よりお詫び申し上げる。本当に申し訳なかった」


 その真摯な謝罪の言葉。

 その場にいたエレノア様でさえ何も言えずに腕を組んで黙り込んでいる。彼の誠意は本物だった。


「……顔をお上げください、エリオット陛下。もう全て過去のことです」


 リリア様がそう言うと彼はゆっくりと顔を上げた。

 そして少し寂しそうに微笑む。


「ありがとう。……だが許されるとは思っていない。私はただあなたに謝罪する機会をずっと待っていたのだ」


 その温かいやり取りに、私は胸が熱くなるのを感じた。

 ああ、このお二人が出会うこの瞬間のために、私はここまで来たのかもしれない。


 その後の会談は驚くほど和やかに進んだ。

 サンクチュアリは王国から不可侵の自治領として正式に認められる。

 その代わりリリア様は個人の資格で、王国に祝福を込めたお菓子や薬草を提供するという友好条約が結ばれた。

 対等な隣人としての新しい関係の始まりだ。


 全てが決まった後、リリア様が焼き上げたばかりのパウンドケーキを皆に振る舞ってくれた。

 エリオット陛下はそのケーキを一口食べると、少し驚いたように目を丸くした。


「……美味しい。こんな優しい味のお菓子は初めてだ。それに、なんだか心が安らぐ……」

「お口に合ってよかったです」


 リリア様が嬉しそうに微笑む。

 彼女のお菓子が国王としての彼の重荷を、ほんの少しでも軽くできたのならそれ以上に嬉しいことはない。


 会談は大成功に終わった。

 道中で襲撃があったことなどまるで嘘のように、穏やかな時間が流れていく。

 エレノア様がリリア様にこう耳打ちしているのが聞こえた。


「たいしたことなかったぜ。クラウスの奴が意外と役に立ったからな」


 私は少し照れくさくて俯いた。

 リリア様がその様子を見てくすくすと楽しそうに笑っている。

 その笑顔を見れただけで、もう十分だった。

 私の贖罪はまだ終わらない。

 だが確かな一歩を踏み出せたという実感だけがそこにはあった。

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