表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
追放された聖女は、森の奥で歴代最強の先代聖女たちに溺愛される ~お菓子作りしてたら王国が勝手に滅びかけてるけど、もう知りません~  作者: 長尾隆生@放逐貴族・ひとりぼっち等7月発売!!
聖女たちの越冬と、王国の新しい風

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

74/86

第12話 聖域の守護者たち(クラウス・リリア視点)

 サンクチュアリまであと半日の距離にまで迫っていた。

 私たちエリオット国王陛下の一行は、険しい渓谷の一本道を進む。

 私は国王陛下の乗る馬車のすぐそばで、片時も警戒を緩めなかった。

 あの匿名の警告状。

 いつの襲撃があるかもしれない。私の背中には冷たい汗が流れていた。


「クラウス。少し硬すぎるぞ。リラックスしろ」


 馬車の中からエリオット陛下が穏やかな声で私に語り掛ける。


「ですが、陛下……」

「わかっている。……だが今回は我々だけではないのだろう?」


 陛下の視線の先には、私たちの行列の前後を固める巨大な影があった。

 それはエレノア様が直々に護衛として貸してくださった、岩のゴーレム聖獣たち。その威圧感は並大抵のものではない。

 そして私のすぐ後ろにはエレノア様ご本人が馬を並べていた。


「そうだぜ小僧。あんまり気負うな。いざとなればあたしが一秒で片付けてやる」


 彼女は不敵な笑みを浮かべている。

 その頼もしい言葉に私の緊張もほんの少しだけ和らいだ。


 その時だった。

 渓谷の切り立った崖の上から数条の黒い影が飛来した。

 魔法の矢だ。

 その全てが国王陛下の馬車へと吸い込まれるように向かってくる。


「――来たか!」


 私が剣を抜くよりも早く、エレノア様が一言短く呟いた。


「邪魔だ」


 次の瞬間、馬車の上空に何もない空間から巨大な岩の盾が瞬時に出現する。

 魔法の矢はその盾にことごとく弾かれ、カンカンと軽い音を立てただけだった。


「さて、と。掃除の時間だ。行け、お前たち」


 エレノア様の号令一下、ゴーレムたちが崖の上へと凄まじい勢いで駆け上がっていく。

 崖の上から暗殺者たちの短い悲鳴と、岩の砕ける音が聞こえてきた。

 大半はこれで片付いただろう。


 だが。

 一人の特に素早い暗殺者がゴーレムたちの守りをすり抜け、馬車へと迫ってきた。その手には毒が塗られた短剣がきらりと光る。

 エレノア様は他の敵の対処にかかっている。

 間に合わない。

 そう誰もが思ったその瞬間、私は動いていた。


 今までずっと国王の側に控え守りを固めていた私の体が、弾かれたように前に出る。

 もう以前のような迷いはない。

 守るべき主君。そしてその先にいる彼女の穏やかな日常。

 それを脅かす者は誰であろうと斬る。


 私の剣は鋭く的確に暗殺者の急所を捉えた。

 一閃。

 暗殺者は声もなくその場に崩れ落ちる。


「……陛下。ご無事ですか?」


 私は剣を鞘に納めながら静かにそう告げたのだった。


 ◇     ◇     ◇


 その頃サンクチュアリでは。

 私はパウンドケーキの焼き上がりをオーブンの前で待っていた。

 だがなぜだろう。ふと胸騒ぎがして窓の外を見てしまう。


(……クラウスさん、皆さん、どうかご無事で)


 私には何もできない。ただ祈ることしか。

 私は出来上がったばかりのパウンドケーキにそっと手をかざした。

 そして皆の無事を願う特別な【祝福】をそのお菓子に込める。


 どうか私の想いが届きますように。

 温かい光がケーキを、一瞬だけ包み込んだ。

 それは誰にも気づかれることのない、私だけの小さな戦いだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ