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追放された聖女は、森の奥で歴代最強の先代聖女たちに溺愛される ~お菓子作りしてたら王国が勝手に滅びかけてるけど、もう知りません~  作者: 長尾隆生@放逐貴族・ひとりぼっち等7月発売!!
聖女たちの越冬と、王国の新しい風

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第8話 会談の準備

 私たちがエリオット新国王との会談を受け入れると決めた、次の日。

 サンクチュアリはにわかに活気づいていた。

 この楽園が初めて公式な外交の舞台となるのだ。

 皆、どこかそわそわとして落ち着かない様子だった。


 クラウスさんは国王陛下からの正式な返答を受け取ると、すぐに行動を開始した。

 彼はもはやただの雑用係ではない。

 サンクチュアリと王国を繋ぐ唯一の外交官であり、そして私たちの信頼できる仲間だった。


「リリア様。会談の日取りは雪解けが完全に進んだひと月後となりました」


 彼は私にそう報告すると、すぐに警備計画の立案に取り掛かる。


「エレノア様。国王陛下の護衛は最小限と伺っておりますが、念のためサンクチュアリ周辺の警戒レベルを上げるべきかと」

「わかってるよ。あたしの結界を破れるやつはいやしねえが、万が一ってこともあるからな」


 エレノア様と対等に渡り合う彼の姿は、もうすっかり頼もしかった。


 フィオナさんは聖獣たちと協力して、サンクチュアリの美化作業を始めていた。


「お客様をお迎えするのですから。一番美しいサンクチュアリを見ていただかないと」


 彼女の号令一下、聖獣たちが枯れ葉を片付け、花の手入れをしていく。

 その見事な連携作業は見ていて飽きることがない。


 ◇     ◇     ◇


 そして私の役目はもちろん、一つだけ。

 客人をもてなす最高のお菓子を用意することだ。


(エリオット様はどんなお菓子がお好きかしら……)


 私はキッチンで腕を組み、うーん、と頭を悩ませていた。

 書庫でお会いした時の彼は、いつも静かで穏やかだった。

 派手な甘さよりも素材の味を活かした、素朴で優しい味がきっとお好みに違いない。


 それに彼はまだ病弱なお体が完治したわけではないはずだ。

 身体に優しく、そして滋養のある材料を使いたい。


 よし、決めた。

 春の恵みをふんだんに使ったハーブと果物のパウンドケーキにしよう。

 温室で育てた心を落ち着かせるカモミール。

 滋養強壮の効果があるという森の蜂蜜。

 そして甘酸っぱい春いちごをジャムにして、生地に練り込むのだ。


 私の【祝福製菓ブレッシング・パティスリー】の力を最大限に込めて。

 国王としての重責を背負う彼の心と体を、少しでも癒やすことができるように。

 私の感謝と謝罪の気持ちが伝わるように。


 私はエプロンをきゅっと締め直した。

 外交とか政治とか、難しいことは分からない。

 でも私には私のやり方がある。

 お菓子に心を込める。

 それこそが私の最高のおもてなしなのだから。


 サンクチュアリは来るべき歴史的な一日に向けて、ゆっくりと、そして確かに動き始めていた。

 春の柔らかな日差しが私たちの忙しない背中を、優しく見守っている。

 きっと素晴らしい会談になる。

 私にはそんな確かな予感がしていた。

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