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追放された聖女は、森の奥で歴代最強の先代聖女たちに溺愛される ~お菓子作りしてたら王国が勝手に滅びかけてるけど、もう知りません~  作者: 長尾隆生@放逐貴族・ひとりぼっち等7月発売!!
聖女たちの越冬と、王国の新しい風

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第6話 春の訪れと、緊急の報せ

 長く厳しい冬が終わりを告げた。

 サンクチュアリの厚い雪がゆっくりと溶け始め、その下から緑の若葉が顔を出す。

 小川のせせらぎが再び聞こえ始め、小鳥たちが春の訪れを歌っていた。

 待ちに待った春の到来だ。


 温室で冬を越した野菜の苗たちは、温かい日差しを浴びて畑へと植え替えられていく。

 私も春の果物を使った新しいお菓子のレシピを考え始めていた。

 誰もが新しい季節の始まりに心を躍らせていた、そんなある日のことだった。


 一羽の伝書鳥がサンクチュアリの上空に現れた。

 それは王国の紋章を付けた、特別な訓練をされた鳥。

 その鳥がまっすぐに、向かった先は私のコテージではなく、クラウス様が寝泊まりしている客間のコテージだった。


 ◇     ◇     ◇


 私はフィオナさんと薬草園の手入れをしていた。

 そこにクラウス様が神妙な面持ちでやってくる。

 その手には先ほどの伝書鳥が運んできたであろう、一通の手紙が握られていた。


「リリア様、フィオナ様」


 彼のその硬い表情に、私は何事かと胸騒ぎを覚えた。


「……王国から緊急の報せが届きました」


 彼は私たちをエレノア様の元へと案内した。

 エレノア様のコテージのリビング。

 私たちはテーブルを囲み、彼の報告を待つ。

 部屋には緊張した空気が流れていた。


 クラウス様は一度大きく息を吸い込むと、手紙の内容を語り始めた。

 それは私たちが冬ごもりをしている間に王国で起きていた、大きな大きな変化の物語だった。


「――まずアルフォンス王子は王位継承権を剥奪されました」

「……なんだと?」


 エレノア様が鋭い声を上げた。

 クラウス様は構わずに続けた。


「彼の度重なる失政と求心力の低下を重く見た、国王陛下と宰相たちが下した決断とのことです。ミレーナ様との婚約も正式に破棄されました」


 アルフォンス様とミレーナの末路。

 その知らせに私の心は不思議と凪いでいた。

 当然の結末。ただそれだけだった。


「そして……」


 クラウス様はそこで一度言葉を切った。

 そして私をまっすぐに見つめる。


「新たに王太子――いえ、国王として即位されたのは、第二王子エリオット様。……リリア様の追放に唯一反対し、アルフォンス王子によって離宮に軟禁されていた、あの方です」


 エリオット様。

 病弱でいつも書庫に閉じこもっていた影の薄い王子。

 彼が私の味方だった。

 そして今、王国の頂点に。

 その予想外の事実に私は言葉を失っていた。


 クラウス様は最後にこの手紙の本題を告げた。

 それは新しい王、エリオット陛下からの正式な王命。


「新国王エリオット陛下が、サンクチュアリとの正式な会談を望んでおられます。私にその準備を整えよ、と」


 王国との公式な会談。

 それは私たちがずっと避けてきたこと。

 だが相手はもうアルフォンス王子ではない。

 私の価値を正しく理解してくれていたという、新しい王。


 サンクチュアリに新しい風が吹こうとしていた。

 それは穏やかな春の風か。

 それとも全てを巻き込む嵐となるのか。

 答えはまだ誰にも分からなかった。

 ただ、私たちの長い冬が本当に終わったことだけは確かだった。

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